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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
第2章-Awakening-

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第19話「拝謁」

「……という訳だ。どうだろうか」

「……」


 その男、サミュエルは淡々とエンジェルをこの世から消す方法を説明した。

 それは彼ら独自のやり方、スミスが資料に載せていたアプローチ、その両方が提示された。

 俺らも先程まで話していた、いわゆる”血清”。端的に言うと、これを暗に市民にばら撒く。サムもまた、それを望んでいた。

 なるほど。それはこちらと同じ考えだし、これほどの大手がその方法を使えば直ぐに拡散される。まさにうってつけだ。


 だが引っかかるのは……。

「それを本当に何の利益も無く行うのか?」

「あぁ。そうだ」

「へぇ……」

「不服そうだね」

「……不服というか、お宅がまた何か”伝え忘れてる”ことがあるんじゃないかと思ってね」


 俺の言った皮肉には全く意に介さず、彼は続けた。

「この計画は最早君たちには関係なく行われる我々の方針だ。君たちが何を言おうと、それこそ私が何を言おうとこの計画は実行されるだろう」

 彼は未だ粛々と、事実をつらつらと並べ立てた。


「はっきり言おう。目先の利益は無い。今後これが露呈し、世間に感謝されるのに乗じて利益を上げることは当然あるが、まぁ、まず無いだろう。エンジェルの件も同じだが、世の中の悪の根絶という信念の下行われる我々の行為は、基本的にお嬢様の方針だ。今の世の中でありえないと思うかもしれないが、事実お嬢様はそういうお方だ」

 なるほど。そうなると今の所、俺らのお嬢様想像図は、我儘病弱正義(ジャスティス)令嬢(レディ)という事になる。


「総帥はお嬢様を大切にしておられる。この国で自由を得ることは何よりも難しい。だからこそ、お嬢様には自由に伸び伸びと生きてほしいと、そう思われている。だから利益にならずとも、お嬢様の意向は絶対なんだ。ウチの慈善活動とでも思っておいて欲しい」


 ……(スーパー)我儘病弱正義(ジャスティス)令嬢(レディ)に進化。


「……ま。オレらとしちゃ、『エンジェル』を根絶してさえくれりゃ、言うコト無しだ。だろ?」

「まぁな」

「だね」

 エミリーも頷いた。


「君たちの理解を得られて嬉しいよ。安心してくれ、君たちからの情報と共に必ずこの()()を根絶してみせよう。さて、……それでその、歓迎会の件なんだが……」

 サムが決まって歯切れが悪くなるのはこの話題の時らしい。まぁ無理もない。だいぶ板挟みの状況だろう。


「任せてください。もう完璧に仕上げましたので、いつでも大丈夫です!」

 アートが胸を叩き、自信を持って答える。

「そうか!本当に助かる!ありがとうアーサー殿!」

 先程からのこいつらの話し方を見るに、どうやら距離が近づいたらしい。これが社交の力か。


「おう!任せとけ!ハッハッハ!」

 お前は行かねぇだろ!という俺らの心のツッコミは置いておき、まぁそういう事だとサムに伝えた。


「そういう事なら申し訳ないが、明日にでも来て貰えないだろうか?」

「あ、明日?いやいや、いくらなんでもそれは急すぎるし……」

「僕らにも準備が必要で……」

 俺らは焦った、ものすごく。せめて心の準備くらいは欲しい。


「……本当に済まないが、私もとても急かされているんだ。お嬢様は何としても、早急に君たちに会いたいと仰っている。……何とか明日にして貰えないだろうか?」

「いやいやいやいやいや……」

「頼む!この通りだ!」

 そのまま抜け落ちてしまうのでないかという速度で彼は頭を下げた。


「え、いや、え?本当に?明日?マジで?」

「ま、そこまでお嬢サマがオレらに会いてぇって言うなら、明日会ってやろうじゃねぇか!なぁオマエら!」

 俺を含め、こちらの3人は同時にビルを睨んだ。

 彼は高笑いをしていた。


「マジで明日なのか……」

 俺の気持ちが急に暗くなってきたのは語るまでもない。



 ***



「普通、こんな所に足踏み入れたら一瞬で消し炭だぞ」

「ここまで来るともうワクワクしてきたなぁ。どんなパーティなんだろ」

「綺麗〜」

 俺、アート、エミリーの3人は脳内通信(ブレインコール)で話していた。


 俺らが足を踏み入れたのは禁域(Claustrum)

 そう。本来なら入る事すら禁忌とされる場所。


 それがこの『黄金郷(El Dorado)』と呼ばれる場所だ。


 黄金郷ってのは、ネオ・フランシスコの中心にあるグレイス財閥が所有している地域一帯の事だ。

 この街の全ては、ここの許可がなければその存在すら許されないのだと。その圧をヒシヒシと肌で感じる。


 ど真ん中にタワーが存在し、そこかしこに豪華な建造物がそびえる。庭園もいくつか見られ、噴水や広場もある。木々も青々としていて、そこに居る魚や鳥は全て本物の生物らしい。彼らは決して電気動物ではないのだという。


 しかし、これらの情報は外界からは全く視認できず、俺がこれを知れたのはここに足を踏み入れたからだった。

 外から本当に見えているのはあのどでかいタワーだけで、他にもあるように見えていた建物は、全て幻影写像(ファントムマッピング)という技術によるものだった。


 つまり俺らが外側から見ていた黄金郷と、黄金郷の内部から見たそれでは、全く見えている景色が違うということだ。

 事実、黄金郷から見る外界の景色は美化されているようだった。少なくとも、俺らはあんなに綺麗な街で暮らしてはいない。


 ……とんでもない技術だ。そうまでして内部の情報を秘匿しているんだ。恐ろしいな。

 果たして来て正解だったのかどうか悩むレベルだ。ここに入ったが最後、俺らもその情報を持っている人間として扱われてしまうのだから。

 こんなものを見ていると、何故サムは俺らと対等に話してくれているのだろうと不思議に思ってしまう。

 本物の強者には余裕があるということだろうか。


「マジかよ。そんなことなら行ってから体調不良つって帰れば良かったぜ!」

 無線越しにビルの羨望の声が聞こえる。

「綺麗と言えば綺麗だけど、恐怖の方が上回るぞ」

「うーん。パパもこんな所に来てたりしてるんだなぁ」

「金持ちの価値観が狂う訳だな」


 エデン、アヴァロン、マグ・メル、エリュシオン。理想郷を指す言葉は数多くあるが、多分ここはそこに一番近い。

 故に虚栄、虚像。そうも見える。人の身では決して作りだせない本当の部分が、ここには欠けているように見えたからだ。それが何かは、人の身の俺には分からないが。


「さて、こっちだ」

 俺らの前を歩いているサムは、ある建物に向かって歩いていた。広場や庭を通り過ぎ、屋敷のような建物を目指している。

「今見えている屋敷がパーティのためにある建物だ」

「そのためだけにあるんですか?」


 アートの質問に、サムはその通りと頷いた。

 ……なんて無駄な金の使い方だ。ここには固定資産税の概念がないのか?

 ……ないか。ほぼ治外法権だろうし。


「どこもそんなもんかぁ……」

 そうアートが呟いた気がしたので聞こえないふりをした。

「さて、そろそろだから言っておこう。お嬢様はその、色んな意味で特別なお方だ。あまり刺激しないように、頼む。イレギュラーや想像もしていないことが多々あると思うがその点もよろしく頼む」


 はぁ、先が思いやられるなぁ。どんな歓迎の仕方をされるのか。

 金持ち自慢とか始まるのか、はたまた感謝の印にビル一棟プレゼント!とかかな。そういうぶっ飛び方ならいいが。

「それもこれも門外不出の他言無用ね。はいはい」

「それもそうなのだが……。まぁ、会ってもらう方が早い」


 そうして目の前には玄関、大きな二枚扉と二人のドアマンがいる。

 その扉に付いた細やかな金細工っぽいドアノッカーをサムが叩く。

「お嬢様、お連れいたしました」

「お入りになって!」

 元気な声が中から聞こえた。


 サムは扉から身を引き、ドアマンが扉を開ける。

 ……緊張してきた。早く帰りたい。

「楽しみだな!」

 あっけらかんとした阿呆の声が未だに聞こえてくる。

 それが一層緊張を加速させる。


 えぇと、出会ったら近づいて、片膝をついて手に接吻をして……。

 イメトレ、イメトレ。っていうかなんで俺が一番前なんだ。アート、オマエが前にいけよ……!


 完全に扉が開くと、煌びやかな衣装に包まれた女性が満面の笑みで俺の目の前に現れた。

 刹那に右手を取られ、相手は両手で握手をしてきた。手を上下に力強く振られ、思考が追い付かない。

「貴方がユウト様ね!初めまして!」

 俺が呆気に取られている間に、その女性は俺の後ろに回り、同じことをアートにも、エミリーにもした。


「貴方がアーサー様ね!お噂はかねがね聞いておりますわ!」

「あ、あぁ。ど、どうも」

「まぁ!素敵なお姿!貴女がエミリーさんね!お会いできて光栄ですわ!」

「あ、ありがとうございます~?」


 あぁ、俺の反応は間違っていない。彼らもしどろもどろだ。

 これがイレギュラーってやつか。

 それに今の握手、何か感触に違和感を覚えたな……。……なんだろう。


 冷静になってきて思い出す。そうだ、こっちも挨拶しないと。

 だが握手をした後に、今更跪いていいものなのか?

 まぁ、いい。やらないよりやる方がいいだろう。


 再び俺の前に来た彼女に向かって跪いた。

「この度は麗しきご尊顔を拝しまして……」

 と前口上を述べようとしたところ。


「まぁ!いけません、ユウト様!お膝が汚れてしまいますわ!お立ちになって!」

 と言われ、立ち上がることになってしまった。

 ……もう駄目だ。流されるまま流されよう。


「ちょっと、そこの貴方なにか拭くもの取ってきてくださる?」

 彼女は使いの者にそう指示した。

「さ!皆様はどうぞこちらへお願いいたしますわ!」

 俺は彼女に手を引かれ、アート、エミリーと共に屋敷に入っていった。



 ふと後ろを振り向くと、サムが唇を引っ込め、申し訳なさそうにこちらを見つめていた。




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