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THE SCRAP DREAM【第2章完結】  作者: Mr.G
序章-Prologue-
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第1話「ようこそ、希望街へ」

 ここではなんでも揃う。

 君の欲しいものを言ってみて。


 小腹が空いた?そこのダイナーに入るといい。


 嫌な事があった?そうか、それは残念だったね。向かいのバーに入りな。明日はきっと良い事あるさ。


 人肌恋しい?その角を曲がった先に君のお望みの建物があるよ。え?安く済ませたい?あぁ、そういう事なら、セク……ヒューマノイドの店が奥にあるさ。楽しんで!


 殺して欲しい奴がいる?おいおい、大声で言うもんじゃないよ、全く!そこの裏道をぬけた先のバーに行きな。行けばわかると思うよ。……あ!金に糸目を付けないようにね、でなきゃ次は君の番になるかもよ。


 ……さ、君は何が欲しいのかな?



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「確か撃つなって話だったよな」


 俺はバレないように、部屋の死角でかがみながら脳内通信(ブレインコール)で話す。


「あぁ。世の中捨てたもんじゃねぇよな、こんなご時世でも友情は不滅らしい。泣けるじゃねぇか」


 ビルらしく皮肉たっぷりの応えが返ってきた。


「あぁ、そうだな。きっと俺らの友情みたく不滅だろうな」

「おい!そりゃあねぇぜブラザー!オレはお前の物を盗んだりしないだろ!」

「どうだろうな。そういやこの前の飯の建て替え、まだ払ってもらってないような……」


「そんなもんねぇよ!なんならこの前はオレ持ちだったじゃねぇか!全く……」

「あぁ、そうだったかな。ハハ」


 無駄話を続けながら、俺はバレないように部屋の奥に進む。流石は金持ち、部屋も広い。警備も頑強だ。ほら、こんなとこにも。


「ビル。それより仕事だ」

「カメラか?それとも他のハイテクか?」

「カメラだ。見えるか?」

「あぁ見えてるが……多すぎねぇか?」


「俺らもこれくらいセキュリティがあればハックも不法侵入もされないだろうな」

「部屋全体をダウンさせた方が早いな。これ」

「ブリーフィングの時、お前がバレる可能性が高いからやめようって言ったんだろ」

「こんなにセキュリティが厳重なんて聞いてねぇって!」


「だから、それは伝え……てないかもな」

「そうだろ!言われてねぇぞ!」

「わかった、今考える。少し待ってくれ」


 家主が帰ってくるまで時間が無い。しかしここで時間をかけてモタモタしてたら帰ってきてバレる可能性がある。どうせ早くに済ませなきゃならない。だったら初めからここをダウンさせて早いとこ片を付ける方がいいか。


「よし、ビル。頼む。この部屋全体をシャットダウンだ」

「オーライ!任せろ。いくぞ。……3……2……1、よし切ったぞ」

「よし来た!」


 俺はその場から他には目もくれずに目的の部屋に入る。目当ての品はメモリーチップだ。さて、どこにあるか……。……。これか。意外とすぐ見つかった。これなら家主が帰ってくる前にズラかれるかもな。


 その時だった。

 バンッ!勢いよく玄関の空いた音がした。

 しまった。思ったよりも早かったか……。いや、この速さは本人じゃなくセキュリティガードか……。


「ビル。俺生きて帰れるか?」

「なんだぁ?ガードが来たか?ならちょーまずいかもな」

「冗談じゃなくマジで来たぞ」


「何?嘘だろ?どうすんだよ!」

「俺が聞きたいんだよ!どうすりゃいいんだよ!」

「あー、今まで楽しかったぜ。じゃあな相棒」

「おい!冗談言ってる場合じゃないぞ!」


 バンッ!バンッ!今度は銃声だ。奴らのいる所から聞こえた。威嚇射撃か?いや……。待てよ……。


 徐々に足音が俺に向けて近づいてくる。そしてドアが開く音がする。

 覚悟を決めて俺は銃口をドアに向けた。

 すると見覚えのある人影が声出す。


「よう。相棒」


 どうやらさっきまで通信中だったヤツが、今目の前に現れたらしい。

 

「ハァ……。なんだよ、脅かすなよビル」

「ハハハ!悪いな!相棒のピンチには駆けつけるって決めててな」

「そりゃどうも。……なんて言ってる場合じゃない。さっさと逃げないと応援が来るぞ」

「そうだな。さっさと出よう」


 そうして、倒れた2つとそのマンションを背にして、俺はビルと共にその場を後にした。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「いやぁ、疲れたな」


 ビルが開口一番に漏らす。


「事前に防げた想定外が重なったな。悪かったよ」

「それはいいけどよ。めずらしいよなぁ、ユウトの伝え忘れも。……いや、違うな」

「ん?」

「ここ最近は多いんだよな。そういう不注意が」

「あぁ、そうか?じゃあ疲れてるのかもな」

「いや、そうは見えねぇ。というかそうじゃねぇな。なんかこう、上の空って感じだ」


 俺は今、少しバツが悪い顔をしていることだろう。


「なんかあったのか?」

「いや、なんもないって。疲れてるだけ」

「ほーう。オレにすら言いたくない事か。このビル様にすらね」

「……」


「あーそうか。黙りかよ」

「……まだ、この時期は嫌なんだよ。その……。思い出して」

「ぁン?思い出す?一体何を……」


 ビルは言いかけた口を噤んだ。


「あぁ……悪い。気づかなかった」

「いや、いいよ。これは俺の話だ。こういう事を仕事に持ち込むのは良くない。俺が悪いんだ、すまない」

「おいおい、謝るなよ。確かにそういうのは良くはないけどよ。忘れる事もよくないと思うぜ。それにお前の国でもハロウィンみたいなのあるんだろ?死者が帰ってくるみたいなイベント」


「あぁ、キュウリとナスに乗ってな」

「何度聞いても理解出来んな」

「もっとも、そんなこと、律儀にやってる奴が世界中に何人いるかって話だろ」

「あのな、相棒。信じるってのは何も死人のためだけにすることじゃないんだ。生者が死者と決別する為にも必要なんだぜ」


 俺は黙ってビルの話を聞く。


「確かに悼む気持ちはその故人に向けてが第一だ。だけど本当に大事なのは生きてるお前だ。それを理解しろ。じゃないとお前の姉貴も笑ってられないだろ」

「……お前ってたまに古い言い回しするよな。死者がどうやって笑うんだよ」


「相棒。こういうのは比喩表現って言うんだぜ?知らなかったか?」

「あぁ、恐れ入ったね。流石はビリー」

「チクショウ。バカにしやがって」

「フフ」


 ビルとの馬鹿なやり取りに少し笑みがこぼれた。しかし、いつまでもクヨクヨしていられないのは事実。自分の命くらいならまだしも、こいつを巻き込む訳にはいかない。キチンと整理をつけなくては。


「ありがとよ、ビル。おかげで少し楽になったぜ。姉さんが笑っていられるように俺も笑顔でいなくちゃな」

「おう!そうこなくちゃ!」


 俺はビルとグータッチをする。


「あ、ところで相棒。報告はしなくていいのか?」

「あぁ、忘れてたな。今かける」


 そうして俺はクライアントに脳内通信をかける。


「スミスさん。こんばんは」

「君か、ユウト。首尾は?」


「上出来です。ことを荒立てず、かと言ってやり返しに来たというメッセージは伝わるようには出来たかと」

「うむ、素晴らしい。君たちに頼んで正解だったようだ」

「えぇ、これくらいならお易い御用ですよ。チップはいつ届けたら?」


「明日、私のオフィスに来れるかな。君たちも多忙だろうから時間は問わない。少し待ってもらうことになるかもしれないが、来てくれたら時間を作ろう」

「それは光栄です。ではまたその時に」

「あぁ」


 ……。憎みはしないが、あまり気持ちの良い男では無い。まぁエリート層など、こんなものだろう。いや、エリートにしてはとても愛想がいい部類だな。


「相変わらずお高くとまってる感じがするな」

「あぁ、俺も今そう考えてたところだよ。だが……」

「マシな方だな。お上様の中じゃ」

「そう、その通り」


 考えることは皆同じらしい。まぁ当然と言えば当然だ。

 今やビッグファイブ、メガコープと呼ばれる企業やその幹部どもに敵意が無い奴はそうそういない。


 今や企業がこの街を支配し、企業が政を治め、企業が企業を、環境を、人を、全てを殺す。

 そんな世の中だ。


 とことん人間ってのは自分たちの作りだした金ってモノに弱いらしい。

 資本の奴隷ってのが今の人類を形容するのに最も適した言葉だろう。

 ……まぁそんなことはさておき。


「よし、今日はどうする」

「まぁ山場も乗り越えたし飲みに行くか!と言いてぇところだが、お前は今日はもう休んだ方がいいな。ハハハ!オレ1人でも祝い酒といくかな」

「いや、俺も行くよ。最低な一日には最低な1杯が欲しい。このクソみたいな街を肴にね。」

「いやでもよ……」


 ビルが何かを言いかけた瞬間だった。

 バンッ、バンッ!という銃声の後、ドォン!となにかの爆発音のようなものが聞こえた。


「フフフ、どうだビル。これだからこの街はやめらんないんだ」

「同感だぜ、ブラザー。野次馬してくるか!」

「あぁ、それでこそだ」



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 希望の街、ネオ・フランシスコ。

 それは生きとし生ける者の望みが全て叶う場所。

 欲望冠するこのネオン街で、彼らは何を望むのだろうか。

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