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05.師匠との別れ、そして・・・・・・・

異世界心霊ものです。


ネグレクトを感じさせる描写があります。不快に感じられる方もおられると思いますので、ご注意ください。

 師匠のトメの元に預けられてから(両親に棄てられてから。)、10年の月日が過ぎていた。


 その間、実の両親が私に会いに来ることは、一度もなかった。


(もう、両親の顔すら、忘れてしまった。大輝も大きくなっただろうと思う。道ですれ違っても、きっと解らない。そう確信できた。) 


 この10年の間、家族だった人たちのことについては、師匠は何も話してはくれなかった。師匠が私が知らないところで両親と連絡を取り合っているような素振りも、まったくと言ってなかった。


 辛かったイタコの修業も無事に終わり、あとは3年の間、師匠のもとでの奉公を終えれば、私は一人立ちできる。

 今までの苦労が報われる。そう思っていた。



 ――――――しかし、予定とはなかなか思う通りに進まないもので・・・。



 3年間のイタコ奉公の前に、師匠のトメはこの世を去ってしまった。

 もともと高齢だったので、寿命と言える年齢だった。


 麓の町の葬儀会館で、トメのイタコ仲間たちによって葬儀は行われた。

 有名なイタコだったにも関わらず、弔問客はとても少なく、ひっそりとした寂しい葬儀だった。


 私をトメに預けた実の両親も、弔問に来るかもと淡い期待を抱いていたが、彼らの姿を見かけることはなかった。

 

 すべてを終え、疲れた身体を引きずりながら私は家に帰った。

 トメのイタコ仲間たちは、それぞれに自分の家に来るよう誘ってくれたが、すべてを断りここに帰って来た。


 この世に未練も残さなかったのか、トメの気配は家のどこにもなかった。


「かわいい弟子に、言い残すことはなかったのかな?」


 大往生とも言える死を遂げた師匠には、思い残すことなどまったくなかったのかもしれない。


 私はまた一人に、なってしまった。


 イタコの力を使ってトメの霊を呼ぶことは簡単だが、そんなことに力を使うなと怒られそうな気がした。

 寂しいから呼んだなんて言ったら、絶対に怒られるに決まっていた。


 今はひとりで私がどんな選択をするのか、じっくり考えさせようと放っておいてくれているのだろうと思う。厳しい人だが、それは死んでも変わらないようだった。

 今もどこかで見ていて、そのうちひょっこり師匠の方から姿を現すかもしれなかった。


(私にとっては死んでもそばにいて欲しい人だけど、知らない人が見たら幽霊だからね。そうそう彷徨ってはいけないと思う。) 

 

 山奥のトメの一軒家に取り残され、孤独が私を包み込む。身体が凍えそうに、寒かった。


「これから、どうしょうか?」


 思わず口にした独り言は、思ったよりも大きく響いた。


 土間で寝ていた犬のリキが、私を慰めようとでもするように、そっと近づいて来る。ペロペロと涙の痕を拭い取るかのように、顔中を舐め回された。

 

「リキ、くすぐったいよ。」


 リキは私が10歳の時に迷い込んできた、全身真っ白な毛で覆われた迷い犬だった。

 迷いこんで来た時はまだ生まれたばかりの子犬だったが、5年経った今はすっかり大きくなり、今では番犬の役割もしてくれていた。


「師匠、・・・・・死んじゃったよ。」


 トメは私がリキを飼うことを、止めたりはしなかった。

 親に捨てられた子を、可愛そうに思ったのか?自分で面倒をみるようにと厳しく言いつけられたが、飼ってはダメだとは言わなかった。


「師匠は私がこうしてひとりになることが解っていて、リキを側においてくれたのかもしれないね。」


 リキを抱きしめると温かく、冷え切った心の中まで温められているような気がした。


 両親のもとには、帰れない。

 前に住んでいたところの住所すら、覚えていなかった。今もあの場所に住んでいるとは、限らない。

 この家の中を探せば、何か手がかりになるものが残っているかもしれないが、そんなことをして今更何になるのかと思う。

 この10年の間、なんの接触もしてこなかった人たちに、今更期待などしても無駄だと言うことは解っていた。


「それならここでイタコとして働きながら、生きていく?」師匠もいないのに?


 ここ最近はトメの助手のようなことをして独り立ちを目指していたので、できないことはないと思う。

 トメの同僚のイタコたちも、助けてはくれるだろうが・・・・・。


「師匠、・・・・・・・・・・自信ないよ。」 弱音が自然に、零れてしまう。


『玲、おまえの能力は、凄いなんてものではないよ。イタコとしては申し分ない。いや最強さぁね。こんな凄いイタコを、私はみたことがないね。無理に私らと同じイタコにならなくてもいい。玲らしく死者と生きている者を繋ぐ架け橋になればいい。玲ならばナンバーワンイタコになるのも、夢ではないよ。お前ならできる。大丈夫さ。頑張りな。』


 生前師匠は、よくそう言って褒めてくれた。

 私は幼い頃から霊を見て、霊と話すことができた。その力は嘘ではない。霊能者としては、結構いいレベルなんじゃないかと思う。


「ナンバーワン、イタコかぁ。」


 それもいいかもしれない。

 有名イタコになって、私を棄てた両親に後悔させてやるのもいいかもしれない。


 師匠たちとは、違うイタコになる?女子高生イタコって、ちょっと格好いいんじゃない。


 100日の通過儀式の為、まだ一度も高校には行っていないが、一応公立高校には合格していた。

 入学手続きは師匠によって、すでに済ませてあった。

 学校にはイタコの通過儀礼のことも伝えているため、補講は受けなくてはいけないが、今からでも入学することは可能だった。


 これから一人で生きていく為には、高校くらい出ておいた方がよいのかもしれない。


「よし、決めた。私は女子高生、ナンバーワンイタコになる。」


 イタコになる為に必要な修業は、すべて終えている。あとは自分を信じて、動けばいい。

 この霊力と修業で培ったものがあれば、どこでもイタコはできるはず。

 私はもう10年前の親に棄てられた、か弱く幼い子供ではない。


 今までで一番、前向きな考え方をしていた。


 やっと自分の人生を人の手に委ねるのではなく、自分で選択して進むことができる。

 生まれて初めて、希望と言うものが湧き出でてくるのを感じた。


 よし、ここから旅立とう、新しい世界へと。


 なんだか身体中に光が満ち溢れ、明るい気持ちに包まれる。


「・・・・・・・・・・・・・・えっ!光?明るいって?」


 気がつけば眩しいほどの光の壁に、私の身体は包まれていた。


 あまりの眩しさに、目を閉じる。とても目を開けていられるような、明るさではなかった。


「なに?これって、いったい」 


 もしかして、これって霊の仕業なの?まさか師匠の霊って、ことはないよね。


(こんな時、どうすればいいんだっけ?)


 修業で培った知識をいろいろ考えるが、どれも役に立ちそうになかった。


 これからナンバーワンイタコになって、私を棄てた両親にリベンジする予定だったのに・・・・・・・・・。


 本当にこの世の中、思い通りにはいかないものだと思う。


 私は腕の中にいるリキを、ぎゅっと抱きしめた。

 リキとだけは、絶対に離れたくなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。これからもどうかよろしくお願いいたします。

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