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01.見えるって悪いことなの?

異世界心霊ものです。

最初の方にネグレクトを感じさせる描写があります。不快に感じられる方もおられると思いますので、ご注意ください。

 子供の頃の私、結城玲(ゆうきれい)は、自分の目に見えているものが、当然他人にも見えているものだと疑ってもいなかった。


 幼子の過ち?無知ゆえに、お喋り大好きだった私は、見たものや見た事をそのまま言葉にしては、周りの人から気味悪がられていることさえ自分では気づいていなかった。


(今思えば、私っておバカだったんだなぁと思う。今更思っても、結局は後の祭りだけどね。)


 当時、私は3歳。ご近所には同じ年頃の子供たちが4~5人いて、公園やお買いものなどよく誘い合わせては、親子でご一緒していた。


 その日もいつものようにご近所さんたちとの、お買いものの帰りだったと思う。


 曲がり角にひっそりと佇む老婆の姿を見て、私は自分が不思議に思ったことをそのまま口にしただけのことだった。


「あのまがりかどにたっているおばあさん。ずっとあそこにいるね。」


 このところあの曲がり角を通るたびに見かける老婆が、今日も寂しげにその場に佇んでいた。

 そのあまりにも寂しそうな老婆の姿に、どうして誰も声を掛けてあげないのかと、私はずっと不思議に思っていた。


「れいちゃん、まがりかどには、だれもたっていないよ。」

「・・・・・・たっているよ。」


 仲良しのゆかりちゃんに、老婆の存在を否定されて、悲しくなる。

 何で解ってくれないのかと、私は怒りに近い感情が込み上げてくるのを押さえることができなかった。この年頃の子にはよくある癇癪だった。


(みえているのに。おばあさんは、ここにいるのに・・・・・。なぜゆかりちゃんは、うそつくの?)


 自分に見えるものが、他人に見えていないと言う事実はまったく考えてはいなかった。

まだ子供だったのだと思う。ゆかりちゃんの方が、本当は嘘つきだと思っていた。


 ゆかりちゃんは素直に自分の見たままを応えてくれただけなのに、まだ幼かった私は何とか解って欲しくて、自分の見えているものを詳しく説明しようと試みる。なんとか解って欲しかった。


「ほら、あのまがりかどのでんしんばしらのところに、おばあさんがかなしそうにたっているでしょ」


 しかしその説明が詳しければ、詳しいほど、周りにいる人達の表情は、怪訝なものに変わる。一歩引かれていることなど、気づいてもいなかった。


「いないよ。おばあさんなんて、いない。」

「いるよ。きものをきたおばあさん。おはなもようの、きんちゃくをもっているの。」


 私の目には老婆の着ている着物の色や柄、手に持っている巾着の派手な花模様までもよく見えていた。

 しかし、他の人には、何も見えていないようで・・・・・。


「えーっ、いないよ。れいちゃんの、うそつき!」

「わぁ、れいちゃん、うそつきだ。」

「うそつき、うそつき。」


 後で知った話だがその曲がり角では、一か月くらい前にひき逃げ事件があったらしい。

 老婆はその時の、被害者のようだった。


 自分が死んだことを受け入れられなかったり、自分が死んだことを理解できなかったりして、死亡した時にいた土地や建物などから離れずにいる霊を地縛霊と言うらしい。老婆は、その地縛霊らしかった。


「うそつきじゃないもん。ほんとうにいるもん。ねぇ、おかあさん。」

「・・・・・・」


 同意を求め見上げた母からは、何の返事も返ってこなかった。

 母も見えない人だから、返事のしようがなかったのかも知れない。

 段々孤立していく娘を見て、母はとても困ったような悲しげな顔をしていた。

 

 --------そんなことが、何度もあった。


 私ひとりだけ、他の人と違うものが見えていると気づくには、幼すぎたのかもしれない。それを見えない人に訴えても、見えていないのだからとは思えなかった。


 ある日、公園で遊んでいる時も―――――。


「れいちゃん。どうしてきょうは、ブランコであそばないの?」


 お友達の中でも一番仲良しの、しずかちゃんが不思議そうに聞く。

 その頃の私は公園のブランコで遊ぶのが、だいのお気に入りだった。


 いつもの私だったら誰にも取られないうちに駆け寄って、ブランコをゲットするのだが、今日は先客がいたのだからしかたがなかった。


「だって・・・、ブランコ、つよしくんがあそんでいるから。」


 少なくとも私の目には、そう見えていた。


 このころには私に見えるものが、他人の目には見えていないのではと少し思うこともあった。


「えーっ?ブランコ、だれもあそんでないよ。」

「あそんでいるよ。つよしくん、たのしそうに、ブランコ、こいでいるもの。」


 ブランコは、風もないのに揺れていた。

 まるで子供がブランコで、遊んでいるかのように揺れていた。


「それにつよしくん、びょうきでしんだって、ママがいっていたもん。」


 確かにつよしくんは、少し前に病気で亡くなっていた。


 もともと身体が弱く、お医者さまに激しい運動を止められていたつよしくんは、公園に来ても母親と一緒にずっとベンチに座っていて、みんなが遊ぶ姿を羨ましそうに眺めていた。


 きっとつよしくんは、ブランコで思いきり遊びたかったのだと思う。

 今は重たい生から解き放たれ、ずっと乗りたかったブランコを楽しんでいるのだから、邪魔はしたくなかった。


 つよしくんは満面の笑顔で、ブランコをこいでいた。


「れいちゃん、うそつくのは、いけないんだよ。」

「うそじゃないもん。つよしくん、いまもブランコであそんでいるよ。」

「しんだひとは、ブランコであそばないよ。」


 そんなことは私にも、わかっていた。

 死んだ人は、もうブランコでは遊ばない。遊べない。

 それでも・・・・・・・、私には見えていた。


「でも、つよしくんは、ここにいるもん。ブランコであそんでいるもん。」


 私の目にはブランコで遊ぶ、笑顔いっぱいのつよしくんが映っていた。


 こんなことが何度もあって、誰も私と遊んでくれなくなった。


 子たちの親も、私を気味が悪いもののように見るようになり、誰も近寄らなくなった。


「もう嘘つき玲ちゃんと、遊んではダメよ。」

「うん、わかった。うそはわるいことだもんね。」

「幽霊がいるとか、ほんとうに気味が悪い子だわ。」

「ゆうれいなんて、ほんとうはいないよね。」

「そうよ。もう玲ちゃんとは、遊んではダメよ。」

「うん。もうれいちゃんとはあそばないよ。」

「そう、いい子ね。」


 ――――――私は、嘘は言っていない。


 しかし、私の見えているものが、他の人には見えていない事実を、この時初めてはっきりと気づいてしまった。(ちょっと遅すぎたけどね。)


 今まで私が喋っていたことは、本当は口に出して言ってはいけないことなのだと知った。


 それからの私は、寡黙だった。見えても、何も見えないふりをした。


 たけしくんのお父さんのそばに、小さな赤ちゃんの霊が沢山いることや、あすみちゃんのお母さんに気味の悪いおじさんの霊がついていることも、言ってはいけないとぐっ!と我慢した。


 私が小さな赤ちゃんの霊を見た数日後。


 お母さんたちの井戸端会議を漏れ聞いた話では、たけしくんのお父さんは愛人さんがいることが奥さんにばれて、離婚したらしい。


 小さな赤ちゃんの霊は、水子と言うのだとこの時に知った。流産または人工妊娠中絶により死亡した胎児の霊だったらしい。


 さらにその数日後。

 朝のテレビのニュースを見ていた時、あすみちゃんのお母さんがストーカーに襲われて大怪我をしたことを知った。


 テレビのニュースに出ていた警察に捕まった犯人は、あの気味の悪いおじさんだった。

 あのときに見たあすみちゃんのお母さんについていた気味の悪いおじさんは、生霊というものだったらしい。


 もしあの気味の悪いおじさんの霊が見えた時、あすみちゃんのお母さんに教えてあげていたら、襲われなかったのかもしれないけど。

 そんなことを言っても、誰も信じてはくれなかっただろうなとも思う。


 しかしそんな私の努力は、すでに遅すぎたようでーーーーー。


 この時に私についたあだ名が、『ゆうれいのれいちゃん』


 名前の結城玲(ゆうきれい)を文字って、()()()()になったらしかった。


 子供の世界は残酷だ。異質なものを、徹底的に排除しようとする。

 それに親が加われば、いじめなどと言う生易しいものではなかった。


 幸いにして私の場合はあだ名の通り、幽霊として扱われただけで、暴力を受けたり、虐められることはなかった。

 ただそこに居ても、いない者として扱われただけのこと。


(幽霊だからね。)


 私が4歳の時、弟の大輝が生まれた。


 母は私をいないものとして、扱うようになった。

 父はいたが味方になって守ってくれるはずもなく、仕事を理由に私のことは捨て置かれた。


 明るくお喋り好きだった私、結城玲は、この時から無口で暗い、まさにあだ名の通り影の薄い幽霊のような少女となった。

読んでいただき、ありがとうございました。これからもどうかよろしくお願いいたします。

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