19.わたくしとマイロ3
第一王子殿下も何を考えていらっしゃるのだろうと、不敬ではありますけれど心の中では思ってしまいますわよね。
まだ第一王子殿下ですのにと。
ご婚約者の方とは政略かもしれないけれど、婚約は家と家との契約であり王家と公爵家ともなれば契約違反など国が傾いてもおかしくないのですわ。そもそも国を背負う方が契約を守れないのではお話になりませんわ。国として信用がされなくなってしまいますもの。
ご婚約者のノーブル嬢だって幼い頃から王妃教育を嫌でもさせられていたはずですし、その努力たるやわたくしたち普通の貴族令嬢には計り知れないものでございましょう。
その努力に感謝こそすれ、別の女性と仲良くするところを見せつけられる謂れはありませんわよね!
マイロに聞いたところによると、淑女の微笑みが気に入らない。隙が無くて可愛げが無いと・・・。
何を馬鹿なことをおっしゃっているのかしら!
淑女の微笑みができなくて高位貴族などやってられますか!舐められてはいけないのですから腹芸ができて当然でしてよ。
いついかなるときも微笑みを絶やさず、悔しさや悲しさを滲ませてはなりません。けれど、意図して表情を作ることそれもまた社交の一つである。
それは伯爵家のわたくしですら叩き込まれますのに。
殿下は阿呆ですの?
もう心の中でも誤魔化すのはやめますわ。
阿呆ですわよね?
ちょっと可愛らしいご令嬢がいたからと言って、ノーブル嬢をご覧になって?
美しさの次元が違うのですから。
可愛らしい令嬢がどうしたというのです!あのノーブル嬢の笑顔が見れたときには天にも昇るような気持ちになるとは思いませんの?
思いませんのよね。
いつでも無邪気な笑顔を無駄なまでに振りまく子供のような方とは違いましてよ!
あの気品がおわかりにならないの?
ならないのよね。
スティフ公爵令息様や、フラーク侯爵令息様、ティミ伯爵令息様にもおわかりにならない。
グレイス嬢も高位貴族ですもの。そんな誰彼構わず笑顔を振りまいたり、はたまた泣き出したりなんてありえませんわ。
幼い時から仲睦まじかったお2人でしたのに、本当に残念でなりませんわ。政略結婚では無かっただけに余計にお辛かったと思いますわ。
ハーシャー嬢だって伯爵令嬢ですけれど公爵家へ嫁ぐのですからもちろん淑女教育は完璧に学んでらっしゃるでしょう。伯爵令嬢だからこそ公爵家へと嫁ぐ為の努力は相当されたはずです。
ティミ伯爵令息様に至ってはファイブラス侯爵家へお婿入りするするのに、どうして他の女性に現を抜かしていられるのでしょう。正直に申しまして、代わりはいくらでもいるのですよ。
どうしても口にせずにはいられません。
「阿呆なの?」
「そうなんだよ。阿呆だよねえ。俺も何度も言ってるんだけど聞く耳を持たないんだから阿呆なんだよ」
とマイロがわたくしをぎゅうぎゅう抱きしめながらため息を吐いていましたけれど。
「俺は絶対にロッティを裏切ることは神に誓ってないけど、もしロッティが彼らの婚約者ならどうする?」
「わたくしはマイロから聞いた話と休み時間の彼らしか知らないけれど、女性とべったりしているのも贈り物や婚約者との時間を作る義務を放棄しているのも
もうわたくしとは関係を構築したくない、わたくしの事は蔑ろにしても良い。うちの家門との約束事は反故にして構わない。では婚約はもちろんあちらの有責で破棄ね!と考えると思うわ」
「だよなあ。もうたぶんジェネシスとクインは無理だと思うんだよ。せめてメイソンとノアは引き止められるといいけど」
とまだ説得を続けようとするマイロは優しいとしか言いようがありませんわね。
本当にマイロと婚約できてよかったと心から思います。