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07 公爵家令嬢リリローズside




「どういうつもりだったの?」


「何が」


「とぼけないでよ。私を貴方の婚約者候補に入れたことよ」


「それが?」


「《あの令嬢》に決めていたのなら、私は必要なかったでしょう」


腹が立った私は、せめてもの仕返しに王太子殿下の前に置かれていたケーキに手を伸ばした。

社交の場なら食すが、本来甘い物が好きではない殿下はどうせ食べないから構わない。


しかも今は、誰も不敬だとか行儀が悪いなどと止める者もいない。

人払いがされているのだ。


私たちは王宮の温室に用意されたテーブルに二人でついていた。


他には王太子殿下の後ろに侍従と、私の後ろに侍女が控えているが、この二人には見慣れた光景なので動じはしない。


それにしても、貴族の一令嬢が王太子殿下にとる態度ではない、とは思うが。

私と殿下は従兄妹同士であり、幼い頃からよく知る仲。

なんなら取っ組み合いの喧嘩までした仲。

他に人がいる場面ならともかく、そうでなければ今さら敬語も出てこない。


すう、と息を吸って。私は王太子殿下に思いの丈をぶつけた。


「私はね。自分が貴方の婚約者候補の一人に入れられたのは、婚約者候補の令嬢たちを観察し、その人となりを見極める為だと思っていたのよ?

王太子妃に相応しい人物かどうかの見極めを、私に任せてくれたと思った。

光栄に思ったわ。ものすごく重要な役目ですもの」


私は公爵家の令嬢だけど、この国の王族に嫁ぐことはあり得ない。

血が近すぎるからだ。

生まれた瞬間から決まっていることだし、私はこの王太子殿下に敵対心を抱いたことはあっても恋心など抱いたことはない。


そんな私が、婚約者候補の一人に名を上げられていれば。

役割は自ずと察せようというものだった。

なのに。

王太子殿下はさっさと婚約者にする令嬢を自分で決めた。

しかも私が、この令嬢だけはあり得ないと思っていた令嬢に。


私の見極めなど、全くもって無意味だったのだ。

怒って当たり前ではないだろうか。


だからもう一度言った。


「《あの令嬢》に決めていたのなら、私がいる必要はなかったじゃない」


「そんなことはないよ。初めから彼女に決めていたわけじゃないんだ。

君を選んでいたかもしれないよ?」


「謹んでお断りしますわ。私には隣国に愛しい方がおりますので」


「そうか。それは残念」


残念だなんて微塵も思っていないくせに、王太子殿下は肩を落として見せた。

笑いながら。


そして言った。


「最初はね。お察しの通り、君に令嬢たちの人となりを見極めてもらおうと思っていたんだ。

君の人を見る目は信頼しているからね。

だが途中から、予定が狂った。私にも思わぬ方向にね」


「そうなの?」


「ああ。でも君を婚約者候補の中に入れたのは正解だったよ。

随分、時間が稼げた」


「……時間……?」


《時間が稼げた》と言われた意味は……わからなくない。


私は王太子殿下の従兄妹。つまり私たちの祖父母は同じだ。

王太子殿下の父――国王陛下は私の母の兄上。


それだけではなく、長年王家と婚姻が続いていた我が公爵家はほとんど王族。

恋愛で結ばれた父と母はなんとか許されたが、次はない……はずなのに。


それでも、この国の最高位の公爵家の令嬢を王太子殿下の婚約者に、と私を推す声が出た。

血が近いという問題がある私を王太子妃に据えておいて、自分たちの娘を側妃に送り込もうという、娘が王太子殿下の婚約者候補になれなかった輩だ。


おかげで王太子殿下の婚約者選定は長引いた。


そのことを言っているのだろう。

それは、わかるけど……だからといって、王太子殿下が自分の推す婚約者を変更したわけではないのに?


「婚約者選定に時間がかかって……何かいいことがあったの?」


「ああ。おかげで十分に調べる時間ができたからね」


「調べる時間?」


どういうことか。


王太子殿下は笑うばかりで答えてはくれなかったが。

調べる時間と言ったのだ。

なら、婚約者に決めた令嬢のことを調べたという意味だろう。


でも。


私はうんざりして言った。


「調べて《あの令嬢》なの?驚いた。貴方、女性の趣味が悪いのね」


「そうかな」


「そうよ。私は《あれ》だけはないと断言するわ。

ねえ。今からでも遅くない。《あれ》はやめたら?後悔するわよ」


真面目に進言したというのに王太子殿下は笑った。



「いいんだよ。きっと君もすぐにわかるさ。

今回ばかりは自分の人を見る目がハズレた、とね」




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