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40 ジェイデンside




家令のカーソンをはじめ多くの使用人たちが辞めていった。


残った者たちも日和見しているだけ。

条件の良い家が見つかればすぐに辞めていくだろう。


王太子殿下の婚約者エミリアの実家だとはいえ、それは形ばかり。

実際はエミリアに酷い仕打ちをしていた家だと王太子殿下に睨まれているのが実情だ。


王太子殿下の心ひとつでどうなるかわからない家。

屋敷に勤めていた者たちは皆それを知っている。


しかも当主は俺だ。

エミリアを――あいつを、父の心を痛めつける道具にしていた俺。


この侯爵家に好んで残りたい奴などいないな。当然だ。


カーソンに推薦され、父が雇った新しい家令のガンナーが使用人の人数不足を解消しようと躍起になっているが……無理だろ。



俺は一人庭の隅に置かれたベンチに座って空を見ていた。


ベンチの後ろは塀だ。

ベンチの前には大きな木がある。

その大きな木の前には低木が一列に植えられている。


ここは昔からの俺の場所だ。

ここに俺がいることは誰も知らない。



屋敷の方は慌ただしい。


領地へ向かう馬車を準備しているのだ。


人形のようになってしまった母と、母の世話をする為についていくと申し出たメイドのカーラ。

いつ王宮に乗り込むかわからず屋敷に置いておけない妹の《エミリア》。

そして爵位を俺に継がせ、ジェベルム元侯爵となった父が乗る。


……どこまでも勝手な男だ。

あとは全て俺に押しつけて去るとは。


最低な気分だというのに空は青く、のんびりと白い雲が浮かんでいる。

俺は目を閉じた。


何も考えられなかった。


8歳の……父の不貞がわかった日から、父を憎むことしか考えてこなかった。

俺の信頼を裏切った父を傷つけること。俺の頭の中はそれだけだった。


その父がいなくなる。

俺はこの先、何をしたらいい?


侯爵を継ぐ者としての教育は真面目に受けた。


爵位を継いだら父を無一文で家から追い出す。

そして俺の手で父が侯爵だった時とは比べ物にならないほど繁栄した家を見せてやろう。

それが最後で、最大の復讐だと決めていたからだ。


だが今や父の評判は地に落ちた。

もう俺が落としてやる隙など全くないほどに。


ならば


「潰してしまうか。こんな家など」


一家全員で路頭に迷うのだ。俺も含めて。

父にできる最後の、最高の復讐だ。

素晴らしい発想に思えて笑った。



「―――やめてください。困ります」


「……は?」


一人でいたはずなのに、すぐ前で聞こえた声に目を開ける。


そこにはメイドがいた。

茶色の髪と瞳。そして同じ色のそばかすが顔を飾っている。


うちに来て一番日の浅いメイドだ。

とは言っても数ヶ月は経っただろうが。


俺は眉根を寄せた。




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