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31 ジェベルム侯爵ミゲルside




あの子が置いていったエレノーラの手記を机に置いた。

涙と嗚咽が止まらなかった。


エレノーラは正確に、私の気持ちの変化を見抜いていたのだ。

徐々に妻へ惹かれていった私の……気持ちを……。



最初は妻がただ憎かった。

卑劣な方法で私とエレノーラの仲をさいた女なのだ。

仕方のないこととはいえ、そんな女を妻にするなど吐き気がした。


それこそ命を奪ってやりたいほどだった。

妻がジェイデンを身籠もってさえいなかったら―――――。


だから無視を決め込んだ。

同じ空気を吸いたくもなかった私は別邸に移った。


使用人たちは妻が卑劣な手を使い、まんまと私の妻の座におさまったことを知っている。

そんな妻を、主人である私が別邸に住むほど避けている。


妻が使用人たちからどんな扱いを受けるか手に取るようにわかったが知ったことか。

当然の報いだ。本邸で、散々な目にあえばいい。


私は妻を捨て置いた。

それは息子ジェイデンが生まれてからも変わらなかった。


ただ――ジェイデンがいる。

さすがに執務に支障が出始めた。

私は仕方なく本邸に戻ったが、それでも妻をいないものとして扱った。


妻が使用人たちから白い目で見られていようが、他の貴族たちから蔑まれ、貶められていようが私は気にもしなかった。

愛しいエレノーラだったらもちろん助けたが、妻は自業自得なのだから。

むしろ、音を上げて離縁を望み出て行けば良い。

そう思っていた。


……だが妻は音を上げなかった。

それどころか徐々に使用人たちからも、他の貴族たちからも認められるようになっていた。

果ては私の両親からも。


いつからか。

私はそんな妻に惹かれていった。


愛するエレノーラに似てはいるが表情は全く違う。

何ものにも怯まない、強い目をした妻に……。


ジェイデンと、妻といる時間は

私にとって幸せな時間になっていた。



私は苦悩した。

私はなんという不誠実な、情けない男なのだと。



エレノーラのことはもちろん愛していた。

それでも同時に妻に惹かれていた。



エレノーラに別れを切り出されたのはそんな時だった。


私は、エレノーラに愛想を尽かされたと思った。




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