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19 王太子殿下side




浮かれていた。



エミリアを《私の婚約者》として王宮に連れて来られて。

エミリアが王太子妃教育を順調にこなしてくれていて。


男性を恐れていたエミリアが少しずつ私に慣れてくれて。

手をとり笑ってくれるようになって。

少しだがダンスも踊ってくれるようになって。


そして


今日、初めて一緒に外を歩いた。


緊張しながらも私の腕に手を添え歩くエミリアを、遠くから侍女たちが笑顔で見ていた。

多分エミリアの侍女キャシーが、エミリアがどんな女性か同僚たちに話したのだろう。

エミリア本人は全く気づいていないようだったが、後ろを歩くキャシーは誇らしげだった。


温室を初めて見たエミリアは子どもの頃のように輝いた目をしていて。

それは可愛らしかった。


「そんなに見回していると目が回ってしまうよ」


「申し訳ありません。そうは思うのですが……圧倒されてしまって」


「気に入った?」


「はい。……素晴らしいです」


温室の草木や花々は、私には珍しくもない見慣れたもののはずだった。

だがエミリアが素晴らしいと言えば、楽園かと思うほど色鮮やかに輝いて見えた。


思いがけず私と目が合えば慌ててお辞儀をし、恥じらう顔を隠し。

そうかと思えば、リリローズの棘のある挨拶にも動じず冷静に対応してみせたエミリア。



「――ちょっといい?」


緩む口元を手で隠していても胸の内は隠しきれなかったのだろう。


リリローズはエミリアに声が届かない位置まで私をひっぱって行くと言った。


「この……ペテン師!

何が今回ばかりは私の人を見る目はハズレだ、よ。

別人じゃないの……!」


私はこらえきれず笑い出した。


「気づいた?」


「気づくわよ……!姿形は似ていても全く違うもの!

……なるほどね。納得できたわ。

あの子が慈善活動で教会に行っていたジェベルム侯爵令嬢ね?

そして貴方が本当に婚約者に迎えたかった女性」


「鋭いな」


「そうなの……ふふ。楽しくなってきた。

紹介してくれたんだもの。仲良くしていいのよね、あの子と」


「彼女の名前もエミリアだよ。違うのは彼女が私のリアだということだ」


「私のリア?」


「詳しくはまた後日ね。戻らないと彼女が不安に思う」


「貴方にそんな心配りができるなんてね……。―――でも」


――良かった。貴方、女性を見る目はあったのね――



リリローズの言葉が嬉しくて。


私は浮かれていた。


リリローズと別れエミリアの部屋へと帰る間ずっと

今度はいつ、どこへエミリアを連れて行こうか考えていた。


だからエミリアに聞いた。


「何か見たいものや、行ってみたいところはない?」


「……行ってみたいところ?」


「そう。あれば言ってみて。叶えてあげるよ」


浮かれて――自分の気持ちで胸がいっぱいで。



「……あの。でしたら……ジェベルム侯爵家に戻りたいのですが」



肝心のエミリアの気持ちを

思いやれずにいたほどだった。




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