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18 エミリアside




リリローズ様とお別れして温室から部屋に帰る間、王太子殿下に話しかけられても私はどこか上の空になってしまった。


リリローズ様のことばかり考えていた。


淡い金色の髪。榛色の瞳。

それは美しい方だったけれど、それだけじゃない。


生まれながらの公爵家のご令嬢なのだとわかる方だった。


当たり前のようにすっと伸ばされた背すじ。

指先一本に至るまで完璧な、洗練された所作。


金の刺繍が入った空色のドレスを見事に着こなされて。

私が圧倒された、あの温室の美しい花々も霞んでしまうほどの華やかさだった。


王太子殿下の腕を躊躇うことなくとられて

王太子殿下の、それは嬉しそうな笑顔を引き出された方。


二人並ばれたお姿は完璧な対で。

お似合いで

眩しいほどだった。


それに、私が義姉、《エミリア》様の身代わりであることも

リリローズ様は知っていらした。


従兄妹同士だという血の繋がりだけではない。

王太子殿下の信頼が厚い証拠だわ……。


――王太子殿下の婚約者には、リリローズ様のような方こそが相応しい―――。



でも王太子殿下はリリローズ様ではなく

義姉、《エミリア》様を婚約者に望まれた。


それで私がここにいる。

義姉、《エミリア》様の身代わり――王太子殿下の婚約者として。



だけど務まるはずがない。


思い知ったわ。

私には無理よ。



どんなに教育を受けようと私は、リリローズ様のような完璧なご令嬢にはなれない。

それどころか、令嬢になろうと思う資格すら、私にはない。


私は本当のジェベルム侯爵家の令嬢じゃあない。

下位貴族の娘だけど令嬢として育ったわけでもない。

ずっと小さな修道院で暮らしていた……ただの娘なんだもの。


リリローズ様にお会いして思い知った。


どんなに王太子殿下が優しくしてくださっても

私がここにいては駄目なんだと。



だって私は

王太子殿下が是非、婚約者にと望んだ義姉、《エミリア》様じゃない―――。



王太子殿下に是非、婚約者にと望まれた義姉でもなく、

王太子殿下に相応しい令嬢でもない。


そんな私が王太子殿下の婚約者として、この王宮にいていいはずがない―――――



「リア。元気がないね。疲れたのかな」


「……いえ。ただ胸がいっぱいなだけです」


「胸が?」


「はい。温室も……リリローズ様も……それは素敵で」


ペンダントの下でじくじくと胸が痛んだ。


私の横で、王太子殿下は可笑しそうに笑った。


「リリローズはともかく。

そうか。じゃあこれからはどんどん部屋の外に出よう。どんなところがいいかな」


「―――どんなところ……?」


「ああ。リアの好きなところに連れて行ってあげるよ。

何か見たいものや、行ってみたいところはない?」


「……行ってみたいところ……」


「そう。あれば言ってみて。叶えてあげるよ」


胸のペンダントをぎゅっと握る。

私は決めた。



「……あの。でしたら……ジェベルム侯爵家に戻りたいのですが」



そう言った。




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