16 エミリアside
「エミリア様は随分と広く勉強をされておられたようですね。
普通の淑女教育なら学ばないような分野まで。素晴らしいです」
授業の終わり。
お世辞かもしれないけれど、先生が褒めてくださった。
私は普通の淑女教育を知らないので比べようがないのだけれど。
そうなのだろうか……。
そうだとしたら、このペンダントをくださったシスターのおかげだ。
そっと服の下にある、胸のペンダントに触れた。
ペンダントに励まされた私は、思いきって先生に聞くことにした。
「あの……先生。私の教育はあと、どのくらいで終わりそうですか?」
早く……侯爵家に戻りたかった。
ここは私がいていいところではない。
それに王宮に上がってから、もうかなり日が過ぎている。
伯母様も、《エミリア》様も、きっとものすごく怒っていることだろう。
なるべく早く義姉、《エミリア》様と入れ替わらなければ。
入れ替わりたい。
これ以上ここにいれば
辛くなるだけだ―――――。
祈るような気持ちで返事を待つ私に
先生はきょとんとして
そしてくすくすと笑い出した。
「まあエミリア様。終わりなどありませんよ」
「―――え?」
「王太子殿下の婚約者である貴女はいずれ王太子妃。そして未来の王妃です。
知識は深ければ深いほど良い。王太子妃になられても。王妃になられても学ぶことは沢山あるのですよ」
「―――――そんな……」
目の前が真っ暗になった。
ああ……どうしよう。
―――もう……ここにいたくないのに―――
ペンダントをぎゅっと握る。
「どうされました?連日の勉強に疲れてしまわれましたか?
ならば明日は少し長く休み時間を取りましょうか?」
心配をかけてしまったらしい。
先生の困ったような声を聞き、私は首を振った。
「……いえ。大丈夫です。いつも通りで……お願いします」
「そうですか……?では、また明日。
もし体調が優れないようでしたら言ってくださいね。
焦らずに。先は長いのですから」
私は笑顔を作った。
「……はい。ありがとうございました……」




