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15 エミリアside




いつもの挨拶だと思った。


王太子殿下が手のひらを差し出されて

私は、その大きな手のひらの上に指を乗せて。

そして王太子殿下は微笑み私の部屋を後にされる。


でも、今日は……


――「―――今日は少しだけダンスをしようか」――


そう言われて、驚いて一度手を引いてしまったけれど

失礼に思われなかったかしら……。



私は火照る頬を押さえた。


はじめての。王太子殿下とのほんの一瞬だけのダンスは

いつもの先生と踊る時とは全く違った。


あっという間に

軽々と私はまわっていて


そして


――「―――ああ。どうしよう。抱きしめてしまいたい」――


あんなこと。言われるなんて……



手で顔を覆う。


胸の鼓動が早い。

けれどもいつもの、男性を見た時におきる全身が凍りつくようなものとは違う。

全身をあたたかく、軽くするもの。


でも恥ずかしかった。

何故あんなことを言われたのかしら。



「―――たよ。お二人のダンス」


「―――え?」


顔を覆っていた手を外すとキャシーが横にいた。

私につけられた侍女さんだ。


そのキャシーが涙ぐみながらの笑顔で言ってくれた。


「とってもお似合いでした。素敵でしたよ。お二人のダンス」


「―――――」


キャシーは私が男性を怖がることを知っている。

知っていて、何も言わずにさりげなく庇ってくれる。


だから私が王太子殿下とほんの一瞬でも踊れたことを、心から喜んでくれているのだ。

そうわかる笑顔だった。


「……そう?」


「はい」


「……ありがとう……キャシー……」



私はやっと気がついた。


ダンスの練習の相手役にと男性が来ることはなくなった。

部屋の外の護衛は女性にかわった。


きっとキャシーは王太子殿下に言ってくれたんだわ。

私が男性を怖がっている、と。


それで王太子殿下は心配されていたんだわ。

このままでは私に婚約者は務まらない、と。


それで

毎日様子を見にきてくださったの。


それで

私が王太子殿下の手をとり、少しだけでもダンスができたことを喜んでくださったの。

思わず「抱きしめてしまいたい」と言うほどに。



そうだった。

忘れてはいけなかったわ。


私は義姉、《エミリア》様の身代わりにすぎないことを。


私が王太子殿下の婚約者としての教育を全て受け終えたら

《エミリア》様が王宮に戻って来られ、私の役目は終わる。

私は、侯爵家に帰る。


馬鹿ね、私。

いくら王太子殿下が優しくしてくださるからって。


何を期待していたんだろう。

私は単なる身代わりなのに。

王太子殿下に求められたのは『私』じゃないのに―――――。



――「リア」――



王太子殿下にそう呼ばれたから期待してしまったんだわ。

偶然、同じだったから。



私を『エミー』と呼ぶ人たちの中で


唯一、私を『リア』と呼んでくれた彼女と同じだったから―――――。




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