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11 ベテランメイドのカーラside




メイドは雇われている屋敷の内情を外の人間に話してはならない。

たとえ相手が、王太子殿下の手の者でも。


だから数ヶ月前の、休日のあの日。


――婚約者候補、《エミリア》様の話を聞かせて欲しい。――


買い物をしていた私を呼び止め、そっと王太子殿下の紋章を見せた男の質問にも、当たり障りのない答えを返した。


けれど。


「兄上ジェイデン様には養女で従妹の婚約者がおられるそうですね。

なんと名が同じエミリア様といわれる方だとか。

《エミリア》様が王太子殿下にそう話されたそうですが」


男はエミリア様の名を出した。

 

―――《エミリア》様が王太子殿下に話されたと。

エミリア様のことを。

養女で。兄ジェイデン様の『婚約者』だと―――



言いようのない感情が胸を締めつけた。

そして、私は男に聞かれるままエミリア様の話をしていった。


私の知る全てを話した。

ただひとつだけを除いて……。



◆◇◆◇◆◇◆



私は頭を下げ、固まっていた。


「知り合いが急用だって裏に来てるよ」と呼び出され、誰かと思い行ってみればそこには王太子殿下の侍従の方がいて。

後ろには紋章も何も入っていない質素な馬車があり、中にはなんと、王太子殿下が乗られていた。


「――エミリアは男性が怖いようなんだけど。何故か知ってる?」


畏れ多いとは思いながらも命ぜられるまま馬車に乗り、席に腰を下ろすかどうかのタイミングでのお言葉だった。


予期していた。きっとそのお話だろうと。

けれど思わぬタイミングで言われたことで、私はあからさまに狼狽えてしまった。


馬車は停まったままなのに揺れを感じるのは私が動揺しているせいなのだろう。

膝の上においた手にぐっと力を込める。


「……知っているんだね。全て話してくれないかな」


狭い馬車の中。

前の王太子殿下と横にいる侍従の方の視線を痛いほど感じた。

頭を上げることは……できなかった。



―――ああ、やはり。秘しておけはしないのか。



私は覚悟を決めると、頭をさらに深く下げた。


「……ここだけの話にすると。他の誰にも話さないと誓ってくださいますか?」


メイドの私が高貴な身分の方に言って良い言葉ではない。

それでも、どうしても願い出ずにはいられなかった。

もし誓っていただけないのなら、どんな罪に問われようが言うつもりはない。


誓っていただけるか、いただけないか。


どちらと言われるのか――考えていた私の耳に届いたのは思いもしていなかったお言葉だった。



「私の、この命にかえても」



思いきって顔を上げると、王太子殿下と目が合った。

まっすぐに私を射抜くその瞳を見て、思わず涙が溢れた。


―――この方は信じられる。


私は心を決めた。


深く息をして呼吸を整えると、私はこれだけは生涯、誰にも漏らすまいと思っていたことを話し出した。



あんな御一家ではなかった。

あんな御一家であるべきじゃない。


間違っている。


もう終わりにしなければいけないのだ。


メイドの私には何もできなくても

王太子殿下――この方が動いてくださればきっと変わる。



救える。



旦那様を

奥様を

ジェイデン様を

《エミリア》様を


そして


エミリア様を―――。




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