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自作小説倶楽部 第25冊/2022年下半期(第145-150集)  作者: 自作小説倶楽部
第146集(2022年8月)/季節もの「夫婦(8月の誕生石 ペリドット)」&フリー「博物館」
8/26

03 らてぃあ 著  夫婦 『天使の思い出』

飲食店で知人の孫娘に出会った看護婦が意外な思い出を語り始める。


挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美「孫娘」




 失礼。つい見とれてしまったわ。噂通りお綺麗ね。隣に座っていい? 少しあなたとお話がしたいのよ。そんなに警戒しないで。私はただの看護婦よ、今夜は仕事も休みで夫も息子も留守だから外食しようとこの店に入ったの。運が良いわ。あなたとお話しなくてはならないと思っていたのよ。

 よく公園通りを散歩なさるでしょう? あの道に面したビルの2階に夫の職場があって昼休憩によく窓から見下ろして通る人を観察しているらしいの。あなたを見て「ドースンさんがすごい美人と歩いていた」と家に帰るなり興奮して話してくれたわ。

飛んでもない。夫はあなたとドースンさんの関係を推理していたけど、家政婦のフロルさんに孫娘だと聞いたわ。

 ドースンさんのことはよく知っているわ。夫婦で生活を始めたアパートの大家さんが彼だったの。彼の怒りっぽさも今ではいい思い出よ。下の階のお婆さんがドースンさんの亡くなった両親とも友人でよく昔の事を話してくれたわ。彼の離婚した奥様と実の娘が音信不通になっていたこともね。娘さんの名前を知った時、神様は私に何をさせたいのだろうと不思議に思ったわ。

いえ、宗教勧誘じゃないわ。

 私が孤児院育ちなせいよ。聖書を丸暗記させる以外は普通の施設だったと思うわ。そこで私が面倒を見ることになった新入りがドースンさんの娘で、私の親友、名前はアリスよ。いえ、間違いは無いわ。施設は閉鎖されていたけど、残っていた記録を調べたから。

 私ね。小さなころは無感動で世の中が灰色に見えていたの。本当よ。3度も里親を断られたの。皆が不気味な子供で怖いって理由で。

 でもね、相性なのか。アリスと一緒にいて、アリスが笑うと私も笑顔でいられるようになった。


 あら、顔色が悪いわよ。

 待ちなさい。アリスの話を聞いて。ここであなたが聞かなければ、ドースンさんやほかの誰かに話したくなるわ。

 母娘はスラムで暮らし、ある日母親は失踪して戻らなかった。アリスは可哀想な女の子だったけど、天使みたいに優しい女の子だった。

 出会ってたった一年。寒い冬の日にアリスは本当に天使になってしまった。肺炎だった。彼女は今際の際まで私のことを気にかけてくれた。私を枕元に呼ぶと、自分の分まで幸せになって欲しいと願ったから、私は約束したわ。何て残酷なことをするのだろうと思ったこともあるけど、夫に出会い、今は本当に幸せよ。夫のことは世界で2番目に好きよ。

 ドースンさんにアリスの最期のことを話そうと思ったことはあるけど、知らないほうがいいこともあると思って黙ったわ。写真の一枚もないし。

 まさか、30年後にアリスの娘を名乗る人間が現れるとも考えなかったしね。

 待って。逃げる必要は無いわ。あなた次第では警察には訴えない。

私ね。ドースンさんの主治医の下で働いているの。歳のせいで進行は遅いけど彼は癌よ。もって3年。

 私は彼の遺産に興味は無いわ。何なら口添えもする。


 だから、焦らず3年は彼の天使のような孫娘を演じなさい。


          了

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