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自作小説倶楽部 第25冊/2022年下半期(第145-150集)  作者: 自作小説倶楽部
第146集(2022年8月)/季節もの「夫婦(8月の誕生石 ペリドット)」&フリー「博物館」
7/26

02 柳橋美湖 著  夫婦『北ノ町の物語 99』

 季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。

 異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。ダンジョンの試練を達成し、第三の女神となったクロエ。さらにもう一つ待ち構えた最後の試練、恋もクリア――したかに思われたのだが……。梗概/女神クロエ、彼女をふった貴公子に、披露宴会場で迫られる?


挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美「挙式」

     99 夫婦(8月誕生石) 


 波間からおびただしい人の群れ。いえ、人の形をしてはいるのだけれども


 むかしの有名な青春映画に『卒業』というのがあります。

 主人公は美男の陸上選手。主人公がヒロインの家に遊びに行くと、その母親が、熱い目線を送ります。そう、母親は肉食系で、主人公を誘惑。そのことがヒロインに発覚。恋人二人の関係は壊れてしまい、ヒロインは新たに表れた男性と結婚することに。

 結婚式当日、主人公は、車に乗り損ね、式場まで走っていき、花嫁を奪取。周囲が唖然とするなか、路線バスに乗り込んで走り去っていくというお話しでした。


          ◇


 ご機嫌いかが、クロエです。

 ダンテの『新曲』で、宇宙観を示すとすれば、この世が地界、異世界が天界、中間にある煉獄のようなところが北ノ町。

 この世での私は、東京の画廊で、オーナー・マダムの秘書をしていましたが、異界の試練を受けた私は、第三の女神をすることが決まっています。

 女神になるための試練を受けた後、私は三人の候補者の中から配偶者を選ぶことになり、瀬名さんという年の離れた、お爺様の顧問弁護士を夫にすることに決めました。東京での私の雇用主だったマダムに言わせれば、私は、ファザコンならぬ、グランドファザコンなのだそうですけど、

(それは言い過ぎ。……瀬名さんは父より年下だし、私とだって十歳ちょっとしか離れてませんって)

 神前で式を挙げ、披露宴をしていた私と、新郎の瀬名さん。

 そこへです。

 私をふったはずの白鳥さんが、今になって、披露宴会場に現れました。

 白鳥さんは、吸血鬼、魔族の貴公子です。いつも白いスーツを羽織っていて、ジャケット胸ポケットには赤いバラ一輪をさしていた。

 吹っ切れたと思ったのに、私の心臓の高鳴りはおさる気配がありません。

 白鳥さんが来た途端、会場の雰囲気が変わった。

 円舞曲が流れ、出席者たちは、手に手をとって踊りだしたではありませんか。

「白鳥さん、なんで今ごろになってきたんですか?」

 不安になった私は、花婿の瀬名さんの姿を探しましたが、どこにもいません。お爺様、お婆様、父と母、浩さんの姿もない。マダムは、踊る他の来賓人の皆さんに阻まれて、こっちへこられないでいました。

「クロエ、このまま、君を魔界へといざなう」

 白鳥さんが、お召替えしてドレス姿になった私の手をとり、くるっと私をターンさせるようにエスコートして踊った。というか私を躍らせた。いつものお洒落なスーツからは、ミントの香りがしていた。

 上位の女神である祖母・紅子と母・ミドリ、死神の祖父が、本気を出して束になってかかれば、いかに魔界の貴公子である白鳥さんと言えども、かなわないはず。

 瀬名さんの名を呼びました。

 私を取り囲みロンドをしていた皆さんが、一斉に、万華鏡に映しだされたかのように、白鳥さんにエスコートされた私の姿になっている。

(そういうことですか……)

 つまり幻術ですね。私は魔法を解く術式を詠唱。すると今度は極寒の地の風景になり、私たち二人を除いて誰もいなくなりました。

 

 ——お婆様、今度こそ、これが最終試験なんでしょうね?——


「おやおや、クロエ、成長したわね。どうして分かったの?」

「白鳥さんはいつも薔薇の香りがするの。でも今日に限ってジャケットがミントの香りよ」

「吸血鬼の匂いといえばブラッドでしょうに」

「ブラッサムです、ローズ・ブラッサム……」

 姿は見えないけれど、身近に声を感じる。

「お婆様、いったい、このバカげた余興はなに?」

「怒らないでクロエ、最終試験であり、あなたの言うところの披露宴の余興でもある」

「やっぱり、お婆様の仕業だったのね、プンプン!」私は頬を膨らませて見せました。

「私だけ悪者になるのは嫌だから、共犯者を名を言うわね。瀬名さんとあなたを除く会場にいる人全員よ」

 会場が明るくなり、さっき踊っていたはずの来賓の皆さんが、席でお料理を頬張っていました。

「クロエは、もう、迷わないのね」

 マダムが、瀬名さんと並んで席についている、私の前にやってきて、半泣き半笑いで涙をハンカチで拭っていました。

 私は、はっきり、「はい」と言葉を返してさしあげました。

 そのとき、黒タキシードの式場支配人さんが、「白鳥様からのお届け物です」と話しかけてきたので、そちらを向くと、数百本はあるでしょう色とりどりの薔薇が、数十人の童男童女たちに運ばれて、会場に届けられてきました。

 招待状も送ったんだから、こんなことをするくらいだったら、くればよかったのにな。

 従兄の浩さんが、得意のピアノを弾じ始めました。


          ◇


 次回は最終回。では皆様、また。


 By クロエ

【主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。

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