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自作小説倶楽部 第25冊/2022年下半期(第145-150集)  作者: 自作小説倶楽部
第145集(2022年7月)/季節もの「情熱(7月誕生石ルビー)」&フリー「本(図書館・書店)」
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02 柳橋美湖 著  情熱 『北ノ町の物語 98』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。

 ……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。

 季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。

 異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。ダンジョンの試練を達成し、第三の女神となったクロエ。さらにもう一つ待ち構えた最後の試練、恋もクリア――したかに思われたのだが……。異界第三の女神になったクロエが北ノ町で挙式。そこへ吸血鬼の白鳥さんが乱入!


挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美「花嫁」

     98 情熱(7月の誕生石) 


 波間からおびただしい人の群れ。いえ、人の形をしてはいるのだけれども、まぶたを大きく見開いた鱗のある魔物——魚眼人。

 私は渚に一人立っていた。

 ゆらゆらと迫りくる魚眼人たちが私を取り囲み、最前列が、跳びかかってくる。


 ——かつての私のリアル体験を再現した悪夢だ——


 異界へ旅立つ前、私が絶体絶命になると決まって、家族が助けてくれたものだった。でも近頃、過去の夢のラストは、こんなふうに書き換えている。


 私は無詠唱術式を唱え、海辺の砂を焼き焦がした線で、巨大な聖紋を描く、聖紋内に侵入してきた敵は、容赦なく、焼かれていった。

 魚眼人たちの大群は、私のいる聖紋を取り囲み動かなくなった。

 けれども私も身動きがとれない。

 そんなときは、神魚さんからの頂き爺様が加工した、御神木の枝の呼子を吹く。すると、北ノ町・上ノ湖に棲んでいらっしゃる神魚さんが、炎竜のピイちゃんに変身して飛んでくる。面倒なときはピイちゃんにお任せ。

 聖紋の内にいる私は、ピイちゃんが吐き出すブレスから守られているのだけれども、聖紋の外側にいる魚眼人たちは上空からの炎槍で一網打尽。瞬時に焼き尽くされる。


 そしてベッドの私は、小鳥の鳴き声を窓越しに聞きながら大きく伸びをし、半身を起こすのだ。


          ◇


 クロエです。

 異界最後の試練を終えて、懐かしい北ノ町へ帰ってきました。

 今、私がいるのは、海辺が望める小高い丘の頂きに佇む、お爺様・鈴木一郎のお屋敷です。

 実は、お婆様だった通いの家政婦さん紅子、それから現世では病死したことになっている母・ミドリが作って用意した朝餉を、家族と一緒にとる。広間にいるのは、お爺様、父・寺崎明、従兄の浩さん。

 食後、お婆様と母にお手伝いして貰って、和式の花嫁衣裳に着替える。ほどなく迎えのリムージンが来たので、式場となる一宮神社に向かう。


 神社拝殿には、魔法少女OBである職場雇い主の画廊マダムや親類縁者たちが来ていた。

 異界への旅のきっかけになった、神隠しの少女救出作戦。——すべては、異界の女神であるお婆様と母が、私をそこへ呼び込むための企て。——神主夫妻には失踪した娘など存在せず、記憶を改ざんしていたのです。

 神主さんたちは、正しい記憶に戻され、日常の生活に戻っていました。

 花婿の瀬名さんと並んで神主さんの前に立ち、頭を垂れる。神主さんは、私たち二人の頭の上を榊で祓う。


 ——祝詞——


 それから私たちは境内の一隅にある披露宴会場に席を移す。

 浩さんが司会となり、宴が始まる。

 宴もたけなわとなったとき、ふと、来賓の中に、黒いタキシード姿の見覚えのある若い紳士が、紛れ込んでいるのに気づきました。


 ——白鳥さん!——


 魔界の貴公子。

 細身長身、切れ長の碧眼双眸。

 この殿方に、心乱さない女子がこの世におりましょうや。

 グラスに注がれた大吟醸酒を手にした白鳥さんが、こっちへやってくる。

 ピアニストのような長い指にはルビーの指輪がはめられていた。

 ——異界第三の女神になったというのに、私には、まだ迷いがあるようです。


「駄目よ、クロエ。彼は危険だわ!」

 マダムの声で、我に返る。

 そうよ、白鳥さん、なんで今頃になって現れるの。でも、


 ——ドキドキ—— 


          ◇


 では皆様、次回また。


 By クロエ

【主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。


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