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自作小説倶楽部 第25冊/2022年下半期(第145-150集)  作者: 自作小説倶楽部
第145集(2022年7月)/季節もの「情熱(7月誕生石ルビー)」&フリー「本(図書館・書店)」
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01 奄美剣星 著  本 『ヒスカラ王国の晩鐘 28 』

【梗概】

半世紀に渡り対立していた人類王国ヒスカラと、複数の亜人たちからなる連合種族帝国の平和条約は、「姫大佐」と呼ばれる王族の突飛な行動に端を発していた。――大陸の趨勢は、天才魔法使いの気まぐれで転機を迎える!


挿絵(By みてみん)

Ⓒ奄美「姫大佐がさらってきた子」

   第28話 本


 私、ロメオ・パスカル大尉は、予備役となって数年、家族と田舎暮らしを楽しんでいたのだが、特別任務のため、軍務に復帰することになった。

 上官はカミラ・ヒスカラ女公。女王の大叔母にあたる女公で、「姫大佐」の二つ名をもつ人だった。

 ノスト大陸の西端、大陸全体の一割を版図とするヒスカラ王国。カミラ・ヒスカラ女公の広大な邸宅は、同名王都の王宮前に構えられている。姫大佐の一日の大半は、書斎を兼ねたアトリエに籠っての実験に費やされていた。

 出張のとき以外、私は、上司である「姫大佐」に、欠かさず定時報告を行っている。

「ご機嫌よう、パスカル大尉」

 壁際の書架には羊皮紙の古書がずらりと並び、部屋の中央には大机。机上には、フラスコ、試験管、アルコールランプ、試薬。そしてレポートの原稿が散乱していた。――仮想敵国である連合種族帝国の大帝をして「亜神級」と言わしめられた「姫大佐」は、恐らく、大陸屈指の魔術師であろう。「姫大佐」の異能は、エレメンタル生命体の一種、「野良使魔」を、無地ノート『使魔図鑑』に描くことによって冊子に封じ、必要に応じて香を焚いて、召喚させるという超高等魔術だった。

 ところが、奥義であるはずの『使魔図鑑』が、――どうせ私以外に使いこなせるわけないと存じますわ――と言わんばかりに、無防備に見開いたままになっているではないか。

 閉口しかけた私は、最新の頁に描かれた少年の図を見て驚いた。

「こ、これは、先日潜入した帝国宮廷の侍童。まさか大佐、『天使』を一柱盗んだのですか?」

「ああ、一緒に『生霊』になって、むこうの大帝陛下を暗殺しようと、『ペット』の鮫を屠られちゃったでしょ。ふふ、嫌がらせに、一柱、かっぱらって差し上げたの」

「何が、ふふ、です。これだけでも帝国は、会戦の口実にしてしまえる!」

「大帝は私の美貌にぞっこん。『天使』君一柱は、婚約指輪替わりってところ。大丈夫よ」

 ――その根拠のない自信はどこからくるのだ?

 ヒスカラの王族は、総じて翡翠にも似た青髪だ。カーキ色をしたジャケットとスカートの軍服を羽織った姫大佐は、見かけこそ一五そこらだが、実のところは六〇歳になっている。所謂「エルフ体質者」だった。「ロリババア」ともいう。


 ――なんてことをしてくれたんだ。「姫大佐」がまた問題を引き起こした!――


 案の定、休戦協定中の帝国から、特使が派遣されてきた。

 私の頭髪には白いものが混じっていたが、残りの頭髪が一気に白くなったのはこのときだったであろうと思う。


          *


 王宮・謁見の広間にはドーナツ状の机が置かれ、王国側要人と帝国使節側は、対面して座った。王国側要人は、オフィーリア女王、「姫大佐」カミラ女公、アンジェロ卿。女王の後ろに女王顧問官レディー・デルフィー、侍童カミユ、そして「姫大佐」の後ろには私・パスカル大尉がそれぞれ立った。

 帝国全権大使は、宮廷服と儀礼鬘を被った、モンド卿という蜥蜴頭の亜人・リザードマン。別種族の随員が、三人ついている。

 モンド卿は、『カブトガニ』の分体であるアンドロイドを憑代とした少年・カミユを一瞥した。

「『カブトガニ』に関しては、先の国境紛争における貴国の鹵獲・戦利品として認めましょう。しかし『天使』について、当方・帝国側は、窃盗として取り扱っている。決着はいかがなされる? 戦端を開くもよし、申し開きをして詫びるもよし。詫びるのであれば、何かしらの『代償』を必要とするが……」

 「代償」というのは、具体的に、賠償金ないしは領土の割譲を意味する。

 議場はしばらく静まり返った。

 沈黙を破ったのは、「姫大佐」カミラ女公だった。

「ここにいる『天使』君を私の侍童として、そのまま私が大帝陛下に嫁ぐ。――この私が『代償』というわけです。ご不満でも?」

 蜥蜴象の全権大使は、隣にいた女性秘書の姿をした、眼鏡をつけたスーツ姿の有翅族女性を見やった。

「私は、皇姉内親王フィルファ。――良い落としどころだと存じます。その『代償』を受領いたしましょう」

 そんな拍子抜けの感じで、半世紀にも渡り抗争していた王国と帝国の抗争は、一応の終焉を迎えた。平和条約締結後、両国は相互の首都に大使館を設置することになる。


          *


 使節一行が帰国した後、王国要人は再度議場に集まった。

「大帝はともかく、――嫁・小姑の問題は根が深くなるやもしれぬ。――皇姉内親王フィルファは厄介そうだ」

 灰色猫を憑代にしている亜神・護国卿アンジェロがそう言うと、「姫大佐」が自らの胸を叩く。

「大丈夫、皆様、私にお任せくださいませ」

 議場にいた一同は、不安そうに、互いの顔を見合わせた。

 半年後、カミラ・ヒスカラ女公は、連合種族帝国大帝に輿入れした。

 ――結果オーライ。これで、悪くても数年、運が良ければ数十年、ノスト大陸は平和になる。

 というわけで「姫大佐」輿入れとなり、輿入れに伴って少佐に昇進した私は、家族を王国に残し、帝国大使館駐在武官の肩書で、随行することになった次第。――帝都では、白髪になった頭が、禿げなければよいのだが……。


ノート20220727

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