経験値ゲリラ
モンスターが高く跳んだ瞬間、わたしはその場で頭を押さえてしゃがんだ。
終わりだ、このまま、アイツらが落ちてきて、食べられるんだ…!
しかし、その瞬間は来なかった。
「レオン!」
モンスターは地面に着地すると同時に素早くターゲットを変えていた。
その先には、わたしの何倍も流血したレオンがいた。
ターゲットとの距離よりも血の量に反応している。
既に相手しているモンスター数体に、わたしからターゲットを変えた群れの残りが勢いよく向かっていく。
だめだだめだだめだ、このままだとレオンが死んじゃう!
助けて!!
せめてレオンの防御が上がれば…
耐久が上がれば助けを呼びに…
「こんなとこにいたのか」
祈るようなわたしの頭上から聞き慣れない声がした。
わたしが助けを求める前に突風がわたしの隣を通り過ぎていった。
あれは…
「騎士、団…」
馬に乗った武装した人々がレオンの元に一瞬で駆けつけた。
た、助かったの…?
「討伐要請が出ていたのに途中で逃してしまい、申し訳ない、こちらのミスだ」
馬から人が降りる音がして、わたしの隣に高い影が伸びる。
「第二騎士団長、アルベルトだ」
「あ、アルベルト…様」
この人がアルベルト騎士団長。
攻略してないからうろ覚えだけど、この人もたしかシンヒロのヒーロー候補にいた。
レオンよりもずっと背が高く、威厳のある佇まい。
怒られている訳ではないのに、つられてこっちまでピリッとした雰囲気になる。
「奴ら次々と溢れ出てくる、苦戦しているな」
確かに騎士団の勢力が加わったにも関わらず、数は減るどころか分裂するように増え続け、一向に終わる気配がない。
はっ、もしかして…
これ経験値稼ぎのゲリラのやつじゃ…
だとすると終了時間まで待つか、弱点の魔法攻撃で一斉排除するかの二択しかない。
だけど終了までって、1時間くらいあったような…
無理無理、いくら騎士団がいてもこのペースじゃもたない。
…そうだ!
「アルベルト様!
魔術使えますよね!」
「なぜそれを…」
「お願いです!
あの小型モンスター、一定時間戦闘するか、魔術で一気に叩くかでないと止まりません!」
アルベルト様はわたしを怪しそうにじっと見た後に、騎士団とレオンに退避の合図を出した。
退避する騎士団とレオンに釣られて向かってくるモンスターに対して、アルベルト様が手を翳すとその周辺に大きな雷が落ちた。
目が痛くなるほど眩しい閃光、全てを奪う大きな音、地面が大きく揺れる。
これが騎士団長の魔術…
数分後、そこにはモンスターの姿はなく、代わりに焦げ臭さと、大きな焼け跡だけが残った。