君次第だよ
レオンに連れて来られたのは、村から少し離れた森にある花畑と泉の綺麗な場所だった。
「綺麗…っ」
思わず声が漏れる。
そんなわたしを見て、レオンは満足そうに笑っていた。
幸せか……
カラフルな花が咲いた野に2人並んで座る。
陽だまりが気持ち良くて、時折爽やかな風が2人を撫でていく。
「本当は昨日来たかったけど、俺も訓練だったし、お前も家の手伝いだっただろ?」
そうだ、レオンとヒロインが出会った頃、レオンは騎士団見習いとしてだった。
今のレオンは騎士団に入るための訓練中、つまり、ヒロインと出会う前のレオンだ。
「昨日?」
「お前の誕生日だろ」
「誕生日…」
じゃあ、誕生日にこの身体の持ち主は…
この景色を見せたかったのはわたしではない誰か。
申し訳なさにチクリと胸が痛む。
「ちょっと待ってろ」
「うん」
立ち上がったレオンはそのままどこかへ歩いて行ってしまった。
身体の持ち主には悪いけれど、やっぱりここは気持ち良い、幸せ…
このまま浄化されそう。
思わず目を瞑りそうなわたしの脳内に、またあの不思議な声が響いた。
『君は前世の記憶を取り戻しただけで、その前の記憶もその身体も、他の誰のものでもなく、君のものだよ』
「またあなた!?」
『そりゃ前世の方が長く生きてるからそっちの存在が大きくなってるだけで、そのうちちゃんと融合するよ。昨日より前もちゃんと君が生きてきたから心配しなくて良いよ』
この記憶も、身体も、わたしのもの?
『そうだって言ってるじゃん。
……あ、お客さんが来たようだからそろそろ僕は行くね』
『壊されるのは嫌だけど、物語を変えるのは君次第だよ。
楽しい物語になるよう願ってるね』
あ、待って…!
「……………」
居なくなっちゃった。
もう少し情報が欲しかったのにと、がっかりしたわたしの背後で草を踏む音が聞こえた。
そっかレオン戻ってき…
「っ!」
振り返ったわたしの視線先にいたのは大好きなレオンの姿ではなく、狂気に満ちたモンスターの群だった。
ここは隠れる場所も武器になりそうものも何もない草原。
泉があるけど水の中だって追ってくるかもしれない。
唯一の逃げ道はモンスターの群れに囲まれてる。
おそらくこの身体は運動が得意ではないから、走って村を抜けるなんて絶対無理だ。
「レオン助けー……っ!?」
急に記憶が流れてくる。
そうだ、シンヒロの紹介文。
【初恋の相手をモンスターに襲われ、そのきっかけを自ら作り守りきれなかった自分と、全世界のモンスターへの復讐心により剣の達人となる。その腕を認められ騎士団へ加入する。】
もしかしてこの初恋の相手がわたし!???
もうすぐ死ぬの確定じゃん…!!!
何が物語を変えるのは君次第よ!!!
あのバカ!!!
「ハルカっ!!!!」
パニックになるわたしの耳に、遠くからレオンがわたしの名前を叫ぶ声が聞こえた。
でもわたしはその声に返すことも出来ずに物語の結末に怯えるしかできなかった。