厄介コンビ
式の間ずっと記憶を辿っていた。
確かにヒロインと最初に出会うのはレオだ。
だけど出会い方が違いすぎる。
ヒロインは突然ティアラに任命され(元々は転生でなく、天界の女の子)、入学式が終わっても友達ができず心細いまま教室に移動した後に、ツヴァイとレオの口論に巻き込まれるのが始まりだ。
…普通どっちかがヒロインに絡んで、それを助けるとかだと思うんだけどなぁ、製作サイドは犬猿の仲を強調したいみたい。
その後に口論の時にヒロインが一人なのを気にしたレオが放課後に声をかけてくれるのがファーストコンタクト扱いになる。
そして守り損ねた幼馴染と重ねる、こんなに似てないのに。
式は少し特殊だったが、何事もなく無事に終わった。
学園のルール説明がほとんどで、前世の学校みたいに生徒会長の挨拶みたいなものもなかった。
…これ以上ヒーロー候補登場されても困るし、有難いけど。
式を行ったホールから指定されたクラスへ戻る途中、再びツヴァイに出会った。
シナリオ通り、レオとレナとツヴァイは同じクラスだから必然的にわたしとツヴァイも同じクラスになる。
行き先が同じなので、避けたくても一緒に移動することになってしまった。
さっきは勢いであんなこと行ってしまったけど、冷静になればストーカー並に気持ち悪かったなぁ。
すごく気まずい…
ちらっとツヴァイを見ると、ツヴァイもこちらを見ていたようで、目が合った瞬間に逸された。
そして、再度わたしと目が合うとこっちにやってきた。
「さっきはすまなかった」
「えっ」
「なんだよその顔。
人が自分の過ちを認めてるっ言ってんだろ」
謝っているのか、怒っているのか。
この人相変わらずトゲがある。
「ツヴァイさんは」
「ツヴァイで良い。
俺もハルって呼ぶ」
ちなみにこの世界には前世みたいに名字とかはなく、個人の名前しかない。
"さん"を付けるのが名字で呼ぶようなイメージで、呼び捨てがさん付け、砕けた呼び方をするのは親しい仲って感じ。
口調は悪いけど、ツヴァイはわたしに対して心を開いてくれたらしい。
レオの物理的な距離の近さといい、このツヴァイの内面的な距離の近さといい、この世界の人たち距離の縮め方変だよなぁ。
さすが乙女ゲーム。
「ツヴァイは学園で何をするの?」
「天界の防具に触れられる貴重な期間だから、技術練に通う予定だ」
「そっか、たくさん習得できると良いね」
学園は割と自由で、週に数回ある授業さえ受ければ残りは自由行動で良い。(ゲームなのでステ振り重視設定のカリキュラムになってるらしい)
ツヴァイの行動パターンは知ってたけど、こうしてきちんとキャラクターに触れて直接本人からその回答されると、荒っぽい要素と真面目要素のギャップの差が引き立つ。
少し会話をしながら歩いていると、後ろからわたしの名前を呼ぶ声がして足を止めた。
「これはこれは、ハルちゃん。
相変わらず可愛いね」
げ…めんどくさい人もう1人来た。
わたしは引き攣った笑顔を必死に浮かべて振り向いた。
「殿下も素敵ですよ」
「で、"殿下"だと!?
まさか、貴様、あの魔術の国第二王子の…」
「テオドールだよ、よろしくね。
ハルちゃんに負けたツヴァイ君」
わたしの隣でツヴァイが驚きすぎて倒れそうになっている。
教室に戻りたいだけなのに、新たな厄介コンビに捕まって最悪だ。
この2人は喧嘩はしないけど、テオドールはツヴァイが手出しできないことを良いことによくちょっかい出してるんだよなぁ。
わたしもテオドールの素性を知っているから無理に止めるのは怖いし。
まぁ、ヒロインは普通に叱ってたけど。