それはティアラのストーリー
「ハルカ、ここにいたのか。
そろそろ式が始まるぞ」
「あ、レオ、今行くね。ありがと」
騎士団への挨拶が終わったらしいレオがわたしを探しに来てくれた。
式まで残り10分しかない。
気付けば周りには誰もいなくなっていた。
すっかり話し込んじゃった。
「あなたが"レオン"…?」
わたしがレオに話しかけられた時、隣にいるレナの存在を忘れてしまっていた。
レナがゆっくりとレオの名前を繰り返したことにドキッとする。
「あぁ、レオンは俺だけど。
ハルカの友達?」
「あっレイナです!
ハルとは友達と言うか、恩人です」
「そっか、よろしくな」
レナに笑いかけるレオを見て、あまりにもお似合いな2人に心が痛んだ。
そりゃ、ヒロインとヒーロー(中でもレオンはメインキャラ)だし、当たり前なんだけど。
そのままの流れで3人一緒に入学式の行われる会場へ向かうことになった。
わたしの知っている物語より早く、ティアラとレオンが出会ってしまった。
出会いをなくすのは不可能なんだけど、さっきレナから聞いたシンヒロ舞台の話がちらつく。
"ティアラと結ばれるのは、レオンって人だよ"
台本だけを読み込んでいるレナは他のヒーローを知らない。
レオはまさにヒーローに見えているのではないか。
もしレナがレオを選ぶことがあれば、モブのわたしはその仲を邪魔することはできない。
「レオン君、かっこ良い。
さすが乙女ゲームの看板キャラクターって感じ」
先を歩くレオに聞こえないようにレナが呟いた。
同担拒否とか言葉あるけど、これはそういうものじゃない。
きっとレオもレナのこと可愛いって思ったはずだし、こちら側の一方的な好意だけでなくレオの気持ちも存在する。
ヒロインのデフォルト名はないから、みんなヒロインちゃんって呼んでたけど、レナレオってカップリングしっくりき過ぎて泣きそう。
もしかして今度こそ、幼馴染退場の危機…?
「レイナは隣のクラスで、俺とハルカはこっちみたいだ」
あれ、たしかヒロインとレオって同じクラスだったような…
疑問に思うのも束の間、レナは頬をぷくっと膨らませた。
「わたしもハルと同じクラスにして!」
『あーあ、キミって生意気』
不満そうなレナの声の後に、久しぶりに聞く謎の声が脳内に響いた。
そして一瞬カメラのフラッシュのような光に目をつぶる。
「…あー、悪い。
レイナも同じクラスだったな」
「嬉しいっ、ハルと同じクラス!
レオンさんもよろしくお願いします」
「あ、あぁ」
ちょ、ちょっと待って…?
今の何?
わたしはモンスターに襲われたのに、一言で決まりを変えちゃうような、ティアラにはそんな権限があるの?
都合良くストーリーを変えられるなんて聞いてないよ。
こんなの、チートすぎる。
一言、レオを指名したら終わりだ。
「ハル、行きましょう♪」
「う、うん」
勝てない。
レナがレオを気に入ったら、わたしが何をしても一瞬で全部変えられてしまう。
やっぱりこれはティアラのストーリーで、わたしはあくまで脇役なんだ。
一瞬にして、思い知らされた。