情報共有タイム
「玲奈さんは、シンデレラヒロインの話どこまで知ってますか?」
「レナで良いです、さんもいりません。
前の世界ではみんなそう呼んでくれたので、同じ世界にいたハルカさんにもそう呼んでもらいたいです」
「わたしもハルで良いよ」
わたしに会って安心したのか、涙跡は消えつつ、代わりに少しずつ笑顔を浮かべていた。
「シンデレラヒロインは台本しかまだ目を通してなくて…
初めてオーディションで合格した舞台だったので、まずはファンの方に落胆されないようにビジュアルと演技の練習でいっぱいで。
ゲームの方はインストールしたのですが、チュートリアルが長くて後回しにしちゃってて…こんなことになるならちゃんとやっていればよかった」
「そっか、だからあんなにレナとヒロインの雰囲気がそっくりだったんだ」
「すみません、原作にも触れずに演技するなんてファンの方からすると嫌な気持ちですよね。
きっと罰が当たったんです」
「いやいやそれはさすがに言い過ぎ。
確かにあまり良い気持ちではなかったけど、それは"実写化"に対してで、レナの演技が良ければそれはそれで良いと思うよ。
忙しいのに原作にも触れようとしてくれたんでしょ?」
「それは本当です!
スマホがあれば見せられるのにっ」
「うん、それなら良いよ。
よし!この話は一度終わりにして、これからの話をしよ。
時間もなくなってきてるし」
わたしは大まかなシンヒロのストーリーやシステムを話し、レナは台本の読み込みで得ていた知識を話し、それぞれの情報を共有した。
舞台台本のティアラと結ばれる相手の名前を聞いた時はさすがに胸が痛んだけど、歪曲した物語ではなかったから台本の読み込みをしていたレナもすんなりと理解できたようで良かった。
「レナ、その、前に言ってた彼氏は…」
「そうですね、さすがに一年も分からない世界に居て、戻れるどころか話は膨らんでいくし、もう気持ちは整理しました。
大丈夫です、ティアラとしての役目、果たします」
「そっか、無理はしないでね。
わたしならいつでも相談に乗るから」
「ハル、ありがとうございます!」
「そうだ、レナ、最後に一つ大事なこと」
「なんですか?」
「ティアラが誰とも結ばれずに卒業した場合、この世界では大きな戦争が起こるの。
パラレルワールドのイベントで一度その大戦争があったんだけど、アンストしようか悩むくらい辛かった…
国同士で優劣つけられるのも嫌だけど、自分が関わってきた大勢の人たちが傷付く方が辛い。
だから絶対誰かとは結ばれてほしい」
「…わたしも人が傷付くのは嫌です。
そして、その中に大切な恩人のハルが含まれるのは絶対に嫌です。
任せてください、きっと良い世界にします」
さっきまであんなに泣いていたレナがにこっと笑う。
こんなの女のわたしでも落ちるよ…
あまりにも無垢な笑みを向けられてしまい、できれば武術の国と結ばれてほしい、なんて黒い欲望は胸の奥に押し込んだ。