そしてまた
「へぇ〜、武術の国の女性は逞しく麗しいね」
また増えてしまった…
そしてこの癖のある話し方…
魔術の国のヒーロー候補、テオドール。
厄介なのは、この人の隠された実力は凄まじいってこと。
加えて、魔術の国の第二王子で女たらし。
でも本当はテオドールの実力を恐れる第一王子の圧力から逃れるための姿で、血の繋がらない妹を大切に思っている設定がある。
ブラコンの次はシスコンのコンボだ。
一番関わりたくない相手だけど、邪険に扱うのは良くない。
命の危機さえも感じるし、対応を間違えないようにしないと。
「僕はテオドール、魔術の国出身さ。
お見知り置きを」
「テオドール殿下、もちろんご存知ですよ。
武術の国出身のわたしハルカと、こちら幼馴染のレオンです」
「僕を知っていたか。
顔を見たこともないのに、名前を聞いても動じないなんて、やはり武術の国の女性は逞しい」
「ありがとうございます。
では、わたしたちはこの辺りで…」
見透かしたような冷たい視線を感じ、逃げるようにレオの手を取ってその場を離れた。
知識のツヴァイに魔術のテオドール、着々とシンヒロのヒーロー候補が集まってくる。
ヒロインと同級生のヒーロー候補は各国2人ずつで計6人。
同級生以外にも候補はいるけど、まだしばらく出会うようなイベントはないはず。
レオと一緒に行動しているからか、モブなのにしっかりと物語に巻き込まれていく。
シンデレラヒロインが幕を開けようとしている。
そして、ついに時は訪れる。
レオは天界で活動している騎士団へ挨拶に行くと言って別行動をしていた。
「玲奈さん!」
学園内でどれだけ人が多くても目立つ、キラキラしたオーラが放たれているのではないかと錯覚さえしてしまう。
その人物の周りだけ浄化されたような神聖な空間に感じてしまう。
男女問わず周囲の視線は同じ人物に釘付け。
わたしの声にパッと上げたその顔は天使そのもの。
「良かった、ハルカさんっ」
涙目になりながら駆け寄ってくる玲奈さんはやっぱりかわいい。
現実世界の姿ではなくわたしと同じようにこの世界の"役"の姿だったけれど、その姿に重ねて玲奈さんの本来の姿が見えた。
たぶん玲奈さんにも同じように見えたからすぐわたしに気付けたんだと思う。
「ううう、ハルカさんっハルカさんっ
わたし、この一年間、何がなんだか分からずに」
「お、落ち着いて、玲奈さん。
入学式まで時間あるし、少し外に出ない?」
「………はい」
式のために建物に入ってくる入学生の流れに逆らって2人で外に出る。
わたしは近くにあったベンチに玲奈さんを座らせて、玲奈さんの涙が止まるのを待った。