傷だらけの推し
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「レオン…わたし、ハルカだけど、起きてる?」
お父さんとお母さんからは怪我が治るまでは家の手伝いは休んでて良いって言われたから、朝のうちに病院へやってきた。
初めて入る病院なのに、受付のやり取りなどもスムーズに出来る様になっている。
前ほどの違和感はないけど、改めて思うとやっぱり変な感じ。
「…レオン?」
返事がないのでそーっとカーテンを捲ると、ベッドに寝たレオンがいた。
くっ…推しの寝顔!!!
最高かっ!!!!
ってだめだめ!
包帯だらけのレオンが心配なのに、喜んでしまった自分のオタク心が嫌になる。
「レオン、こんなに傷だらけにしてごめんなさい…」
早く、元気なレオンに戻ってほしい。
小さな画面で何度も見た笑顔を…
あの大好きな笑顔を…
女神の加護なんて名前だけのスキルもらったけど、使い道なんて知らないし。
わたしがこのスキルを使いこなせていればレオンはこんなに傷だらけにならなくて済んだのかもしれない。
ごめんね。
レオンが一瞬痛そうに顔を顰めたのを見て泣きそうになる。
レオンの右腕に巻かれた包帯が緩んでいることに気付き、手を伸ばした時の一瞬触れるか触れないかの距離だった。
温かい光がレオンを包み込んだ。
見覚えのある、謎の声がわたしにスキル継承の話をした時と同じ光だ。
「…え、ハルカ?」
光が消えると共に、レオンがゆっくりと目を開いた。
そしてわたしに気付くとすぐに上体を起こした。
「れ、レオン!
怪我してるから寝てた方が良いよ!」
「いや、それが…」
そう言いながらレオンは自分の腕を回したり指を閉じたり開いたりを繰り返す。
血の滲んだ包帯が痛々しい。
や、やめて…
「やっぱり…完全に治ってる。
痛みがない、と言うか、急に身体が軽くなったと思ったらハルカがいた。
お前なんかした?」
「な、何もしてないよ!」
まさかさっきの光が女神の加護ってやつ!?
騎士団レベルでも治せなかったのに、最高位の治癒魔法?
わたし自身は精神力?と呼べるようなものが減った気がしないし、身体は全然変わりない。
「傷跡がない」
レオンが包帯を取ると、言った通り、傷一つ残ってなかった。
さっきまで出血していたのに。