柊紫江琉
もう一人の主人公的なキャラです
七章 柊紫江琉
2021年10月21日 柊紫江琉
「破壊神を封じてるあの餓鬼は今すぐ殺すべきだ。」
冷静に和修家の当主が言う。
「だが十二統の奴らが止めている。
御三家と十二統は別機関だが逆らうのは少々面倒になる。」
今度は星の所だ。
「今は魔人族とも友好関係を結んでいて戦力もある。
殺すなら今のうちだ。
…聞いてるのか、泰然。」
和修家当主が不服そうにうちの当主に言う。
「五月蝿いなぁー。まだ先のある子供でしょ?
そんな殺す殺す言っちゃってさ。
十二統も言ってるでしょ。
創生神いる時にやらないと均衡が崩れるって。
そもそも殺すもんじゃないの。
神様っていうのは。」
「そんな文献は過去存在しない。
神殺しが禁忌であろうと
人類が生き残る為には重要な事だ。」
和修の当主がそう言う。
「そもそも日本の独断では行えないでしょ。
勝手に殺ったら中国、ギリシャが黙ってないよ。」
「魔術三大国と言えど日本以外は魔獣被害が少なく、
魔術師も減ってきている。
もうあの二国に力はないも同然だ。」
「ギリシャは分からないけど中国には霊毀がいる。
あそこと関係を悪くするのは
得策とは言えないんじゃないかなぁ。」
あぁーめんどくせぇなー。
昨日の曇った天気とは違い、今日は朝から快晴だった。
その上今日は任務も入ってない。
絶好の休暇日和だったのだ。
朝はサンドウィッチとコーヒー、
そしてその後は買い溜めていた漫画を読む…
そんな喜びに満ちた休日を送ろうとしてたのに。
何故今日に限って御三家会議に呼ばれるんだ。
俺必要か?
そもそも俺他家から嫌われてるし。
話の内容も胸糞悪いし。
魔術界御三家。
千年以上前から続いている
創生神と破壊神の戦いの中で活躍し、
創生神から認められた三つの家。
星家、和修家、柊家。
各々の家が相伝の魔式を持っている。
魔式持ちの親から魔式を継いだ者は優秀、
次期当主はほぼ確実だ。
俺は魔式を持っていない。
だが生憎うちの当主様は御三家の中じゃ
ある意味イカれてる。
分家で魔式も継いでない俺に活躍の場を与えてくれる。
当主様には感謝してもしきれない。
星と和修の当主がギャーギャー言い争ってる時使用人のじいやがやってきた。
「失礼します。紫江琉様。十二統からの任務で御座います。」
十二統から?
珍しい事もあるもんだな。
「同行相手は日野術師で御座います。」
その言葉に驚愕する。
「マジ?椿なの?ラッキー」
椿が教官になってから一緒の任務なんてほぼ無かった。
久々の親友との再会に胸が躍る。
すると星家当主が口を開く。
「あんな餓鬼によく任務を出せるな。十二統は。
まぁちょうど良い。殺してこい。
落ちぶれ者でも不意ぐらいつけるだろう?
破壊神が出た後は対処をしてやる。」
和修の当主も横で頷く。
流石に今の発言は許せない。
椿はアカデミー時代を共に過ごした親友だ。
悪く言うな、クソ野郎。
反論しようとした時うちの当主が口を開く。
「北斗。それは無いんじゃないの?
子供に課す事じゃないんだよ。
第一、椿君を殺すなんて決まってない。
あと紫江琉は落ちぶれ者じゃない。」
その声には怒りが篭っている。
星家当主がうちの当主様を睨む。
すると和修家当主が口を挟んでくる。
「貴様以外ほぼ全員賛成なのだ、泰然。
破壊神持ちの上あの大罪人の教え子なんて、
誰だって怖いだろう。
いつ裏切るか分からない。」
「はぁ…それは君らが彼の事を知らないからだろう?
埒があかない。
紫江琉、行ってきな。
この場は収めとくから。」
やっぱ優しいぜ当主様は。
「サンキュー!当主様!行ってくる!」
部屋から出てじいやと並んで歩く。
「任務ってなんなの?」
「さっき皆様の前では言えなかったんですが…
創生神を持つ者が見つかったらしく
その人を回収することが目的のようです。」
「まじ?」
思わず声が出てしまった。
創生神って去年から行方不明だったんじゃないのか?
「あんま知らないけどさ。創生神って安曇?って家のやつしか使えないんじゃないの?」
「安曇家は創生神から気に入られていただけなので。
契約者は安曇家でないといけないということはないです。」
へー知らなかった。
じゃあ創生神側から選ばれれば誰でも使えるのか。
「因みに持ってるの一般人なの?」
「そのようですね。」
「それなのに一級二人…?」
「念には念を。ということでしょう。創生神関連のことですからね。
本来なら特級、低く見積もっても準特級に行ってもらう案件だったんだと思います。」
「まっ、椿に会えるし良いけど。」
そう言うとじいやの顔は強ばった。
頬笑んではいるがその奥に複雑な感情が見える。
「ねぇじいやはさ、やっぱ椿のこと怖い?」
その問いに一瞬驚いた表情を見せる。
「…そんなことは…」
「正直に言って良いよ。
てかじいやが嘘ついても分かるし。」
そう言うと申し訳なさそうな顔で話し始めた。
「正直に言うと怖い、という感情もあります。
ですが椿様のような方が裏切るとは思っておりません。
椿様を、というより破壊神を恐れています。」
まぁそうだよな。
創生神と対をなす破壊神。
千年以上の戦争でも決着がつかないんだ。
近い時で三十年ほど前にもその戦争はあった。
じいやのその感情は破壊神の強さ、
怖さを目の前で見てるからこそなのだろう。
「俺の親父、破壊神との戦いの後遺症で死んだんだろ?」
「そうですね...。
優然様は片眼を失明、右脚を無くしましたが十六年近く生き続けました。
...優然様は強く立派な方でした。
だからこそ破壊神を畏怖してる自分がいます。」
正直俺にはその恐ろしさは分からない。
だがあいつは周りの人間を守るために
その身に破壊神を封じた。
そんなあいつを殺すなんていうのは許せない。
だからこそ今回の任務で創生神を
確実に回収しないといけない。
創生神と破壊神を同時に手中に収めてれば椿は殺されない。
「うっし!はりきって行くか〜!じいや、行ってきます!」
「いってらっしゃいませ、坊っちゃま。」
「坊っちゃま呼びはもうやめろよ!」
そう言い残し、窓へと向かう。