蝕む過去
六章 蝕む過去
日野椿
部屋のドアを開ける。風呂に入るのも億劫だ。
そのままベッドへ飛び込む。瞼を閉じ眠りについた。
「俺はお前とは違う、椿」
「椿...魔術師になったの後悔してない?」
親友だった男が怒りながら俺に叫んでくる。
尊敬してたはずの男が俺へと問いかけてくる。
あぁ、最悪だ。本当に。思い出したくもない。
手にはべったり血がついている。
呼吸が荒い。
視界が歪む。
そこで目が覚めた。
動悸が激しい。
時計を見ると寝始めてから三時間過ぎていた。
一度気持ちを落ち着かせよう。
共有スペースに行きお茶を淹れる。
同期の奴らが買い溜めていた安いお茶。
今は味など気にならないから何でも構わない。
まだ冷めてないお茶を一口飲み、物思いに耽る。
一年前のあの時からずっと満足に寝たことはない。
いつになったらこの悪夢から解放されるんだろう。
心にかかった靄は未だに晴れない。
こんなんで魔術師を続けられるだろうか。
そう思いながら窓の外を見ると空が少し明るくなってきている。
流石にもう少し寝ないと身体がもたない。
お茶を全て飲み干し紙コップを捨て部屋へと向かう。
部屋に戻ると睡眠薬を飲みベッドに寝転がり目を瞑り眠った。
もう一度寝てから三時間近く経った頃目が覚めた。
時計を見ると朝八時頃。
任務が深夜だったんだ。寝坊も許されるだろう。
二人の見舞いに行こう。
そう思い身支度をする。
着替えながらまずあの二人に謝ろうと思った。
もっと強くならなければ。
そう痛感した。
朝日に目を細めながら部屋を出る。
医療棟へと行くと二人が朝食をとっているのが見えた。
「先輩!おはようございます!」
「雪うるさいし、傷口開くぞ。」
「あぁ、おはよう。」
相変わらずな二人だ。
だが今日はこんな事を言いに来たんじゃない。
「二人とも。すまなかった。俺の判断ミスでお前らに傷を負わせた。本当にすまない。」
その言葉に二人は驚いた表情を浮かべた。
「そんな!先輩のせいじゃないですよ!あの化け物が強すぎただけですよ!」
「そうですよ、それに俺らが避けられなかっただけです。」
雪だけでなく萊人まで言葉を掛けてくれた。
あまりにも自分が情けなく思えた。
「次は絶対にお前らを守る。」
「それは違います。」
萊人が言葉を発した。
「俺らは先輩に守ってほしいんじゃない。強くしてほしいんです。」
彼の目は真っ直ぐに自分を見つめていた。
偽りのない、心の底から出た言葉だろう。
「…そうだな。すまない。」
「事あるごとに謝らないでください。」
「…すまない。」
「それですよ!先輩!明るくいきましょうよ!」
雪が大きな声で指摘してくる。
「…あぁそうだな。じゃあ退院したらビシバシ鍛えるぞ。いいな?」
「はい!」
俺には眩しいなこいつらは。
自分の醜さが浮き出てしまう。
そう思っているとスマホが鳴った。
開くと任務依頼が来ていた。
任務内容を見て驚愕した。
「『創生神』保持者の回収…?」