魔術師の存在意義
説明パートで初出の情報や言葉多いんでちょっと読みづらいかもしれません。
二章 魔術師の存在意義
日野椿
やけに講義室が静かだなと思いドアを開けると30人ほどのアカデミー生たちが座っていた。
全員顔が硬っており緊張してるのが窺える。
「一級魔術師の日野です。
今日はみんなに魔術界の基本的なことを教えにきました。
よろしく。質問とかあったらじゃんじゃんしてな。」
と言った途端すぐに質問が飛んできた。
「あのなんで私達スカウトされたんですか?
教官達の言う魔力っていうのも初めて聞いたしあまりわかってないんですけど…」
顔立ちからして中学生ぐらいだろうか。
少々怯えながら聞いてきた。
「質問ありがとう。順序を追って説明してくな。
まず神様のお話をしようか。
信じられない話かもしれないけど今あるこの世界っていうのは創生神っていう神様が作ったんだ。
簡単に言うとなんでも作れちゃう神様。
で創生神は何か作るとそれに魔力が篭ってしまう。
人間ももちろん創生神によって作られた。
俺ら人間は全員魔力を持ってるんだ」
「私達のお父さんやお母さんも?」
とさっきの少女が言った。
「そう。君のお父さんもお母さんも友達も先生も。
みんな魔力を持ってる。
まぁみんな自覚はしてないけどね。」
「みんな自覚してないのになんで言わないんですか?」
「危ないから。話す順番変わっちゃったけどいっか。
俺ら魔術師は「盃の森」って場所から生まれる魔獣が人間界に来ないようにやっつける仕事なんだ。
で、その魔獣達はなぜ人間界にくるかと言うと魔力を食べに来るんだ。
人間の内側に秘められたものをね。
魔力は自覚するまでは本当に微量しか流れない。
だけど一度魔力の話を聞いたり、目の当たりにしたりすると
本来の魔力の流れ方、量を思い出し魔力量は増加する。
つまり魔力の存在がみんなに知れ渡っちゃったら
沢山の魔獣達が魔力を食いに人間界にやってくる。
魔術師は数が少ないからね。
とてもじゃないが全員を守り切ることはできない。
だから言わないんだ。
君の質問に答えるなら君らがスカウトされたのは
無意識に魔力を自覚しているからだ。
そういう人間は魔力をうまく使いこなせるようになる。
魔術師になるのに打って付けなんだ。
ここまででなんか質問ある?」
教室を見渡すが大丈夫そうだ。
「じゃあ進むね。
魔術師の話をするね。
まず魔術師は強さによって階級があるんだよね。
下から四、三、準二、ニ、準一、一、準特、特級ってね。
特級は今ニ人だけかな。
そう滅多にいるもんじゃないし。
で、魔術師の中には魔式っていって
生まれながらに特殊な能力を持ってる人がいる。
この中にももしかしたらいるかもね。
俺もその一人。
本当なら魔式ってあんまり他人に言っちゃいけないんだけど俺のはバレてもそこまで問題ないし見せるね。」
プリントを一枚上に向かって投げ正面に来た瞬間手を横に振りかざした。
「空」
そう唱えたらプリントは真っ二つに切れた。
生徒たちは目を見開いて見ていた。
「俺の魔式は半径1メートル以内のものを切断する『空』。
本当になんでも切断できる。
まぁ自分を中心とする半径1メートル以内という条件のせいで扱いが難しいんだけど。
こんな風に魔式に難があったり、そもそも魔式がない人は魔具っていう魔力を込められる武器を使う。
まぁ多分それが基本かな。
でここからが大事。
創生神は自分以外にも神を作り出していてね。
色んなもの、例えば炎とか氷とかを司る神様、そして九神がいる。
九神は人間の持つ八つの感情が混ざった新たな感情を司る神様。
『絶望』、『服従』、『後悔』、『懸念』、『希望』、『冷淡』、『畏怖』、『葛藤』、『拒絶』。
で、神様から選ばれると「契約」という形でその神の能力が使えるんだ。
俺は『炎神』、『風神』と契約してる。
普通二体と契約は体が耐え切れないからできないはずなんだけど出来ちゃったんだよね、俺。
まぁ能力は名前のまんまだけど炎と風を操れる。
それをどう工夫するかは使用者次第。
難易度高いけど自分の魔式と絡めて使う人もいる。
俺のみたいな応用性効かない魔式だと無理だけど。
あと強い魔獣を服従させて能力を使う術師もいるよ。
いつかアカデミーを卒業して魔術師になる時参考にして。」
生徒たちは熱心にメモを取っている。
「もう終盤だね。これからみんなには魔力検査を受けてもらう。
正術っていう特殊な魔力が使えるか使えないかを確かめるためのものだ。
それが使えるか使えないかで講義内容が変わるからね。
詳しくは担当の教官に聞いて。
俺は正術使えないから。
これからの講義は一般的には魔力操作についてや魔具の扱い、あと解弦術、封印術、結界術の基礎をやってそのあとその三つの中から選択して学ぶ。」
「解弦術って何ですか?」
さっきの少女が尋ねる。
「うーん。魔力のことしっかり知らないと説明が難しいんだけど簡単に言うと結界や封印を解除するための術。
最大十二種類ある。
一番身を守るのに適してるから
大体解弦術を選ぶ人が多いね。」
「先生はなんだったんすか?」
今度は活発そうな少年だ。
おい先生って…俺まだ16だぞ…
「封印術だったね。封印術極め過ぎたせいでその他全くできないけど。」
生徒から笑いが起こる。緊張がほぐれたのだろうか。
「はい、最後に。
これは俺が受け持ってる後輩にもよく言ってるんだけどね。
魔術師は魔獣とかから一般人を守るためにいるんだ。
力を持ってる俺たちが持ってない人を助けるんだ。
そのための訓練をここアカデミーでする。
みんな早く魔術師になって多くの人を助けてくれ。
はいじゃあ今日はこれで終わり、解散。」
ようやく講義が終わった。
結構長いことしたな。
疲れた。
だけどこの後訓練するんだった。雪と萊人に連絡を入れる。訓練場へと向かおうとした時、声をかけられた。
「久しぶりだね、椿。」
「紅樹さん。お久しぶりです。」
「そんなかしこまらなくてもいいのに。」
と言い、笑みをこぼす。
天沼紅樹。
30代前半にも関わらず魔術界の上層部『十二統』の一人。
老人の多い十二統の中で自分の意見をはっきり言え、彼の考えた政策で救われた人は多い。
俺もその一人だ。昔はとても世話になった。
「いやそんなわけにはいかないですよ。」
「そうかい?これからどこに?」
「後輩二人の鍛錬に付き合います。」
「椿も随分教官として様になってきたね。」
「いやこれも去年に教官になるように促してくれた紅樹さんのお陰ですよ。」
「それはありがたいね。やっぱこうして正解だった。去年の上層部の仕打ちは許せないものがあったからね。」
「いつも気にかけて頂いてありがとうございます。」
「いやいや。こんな時間か。僕そろそろ行くね。
頑張りなよ椿教官。強い子達を育ててね。
特に建速って子。しっかり育てないと上がうるさいよ?」
「あー...はい...頑張ります...。」
「あはは。歯切れ悪いな。じゃあね。」
行ってしまった。相変わらずな人だ。
よし、訓練場へと向かおう。