出現5
飛び立つ直前に思い出して、戦かった時に剥がれて散ったガランのウロコが貰えないか尋ねてみた。快く了承してもらえたので集めて回った。体から抜けていないがヒビが入っていたウロコも貰った。
……竜のウロコが武具や魔道具の材料として高額で取引されるのはお約束だから、いつか使う時があるかもしれない。綺麗なウロコだ。
飛び立つガランを見送ったら野営だ。周りを見渡し身の丈ほどの岩の陰に設営することにした。
毛皮の敷物を何枚かと大きめの布、なめしてある皮、木製の巨大な棚を取り出した。
横にした棚に布をかぶせて、サイズ調整魔法となめし革を細く裂いたもので固定した。
毛皮を敷いて上から更に毛皮をかぶれば数夜なら十分に過ごせそうだ。
……十歳の体は小さめだからこれで大丈夫だろう。
同じような棚をバラバラにして薪とする。
灰にしないように極々小さい火の玉で着火する。火魔法で調理もできそうだが、キャンプに焚き火は必須だ。
金属の棒を三本使い細めの鎖でトライポッドを作って水を入れた鋳鉄の鍋をかける。
シースナイフ、器を用意した。
宝物庫にカトラリーの種類が少ない。銀と思しきスプーンが何本かあったので、ディナーナイフとフォークを錬成する。
箸は一膳もなかったので、銀の箸も作ってみた。
……うん、漬物が食べたいな。宝物庫には鑑定で食用になりそうな肉塊も入ってるけど、生まれたての今夜は軽いものにしておこう。
鳥肉らしいものを骨ごと煮込んでスープを作る。
圧力鍋のように調理できないかと魔法で加熱、加圧、蒸らし、減圧をしたところ、骨から肉がするりと外せるほどいい加減にできた。
硬いライ麦パンみたいなものをナイフでゴリゴリ削って入れパン粥を作った。味付けは塩。少し臭みがあるが鳥の旨味が出て美味しい。
……料理に使えるお酒とハーブなどの香辛料がこの世界にないか機会があれば探してみよう。この十歳の体は本当なら食欲旺盛なのだろう。魔力を活動エネルギーに変換することで生命維持は可能になってはいる。それほど食べなくてもいいようだ。この世界の美味しいものも探してみよう。ルキフェはほぼ物は食べないそうだ。食べる楽しみ、味わう楽しみを逃しているのはもったいない。人生の楽しみの半分は食べることだ。もっと生き物としての楽しみを感じてもらいたい。
洗浄魔法で調理道や食器を洗った後、カトラリーは革で包んで仕舞い込んだ。
……できれば村か商隊に潜り込んで、この世界の常識を学んでおきたいなぁ。子供は武装しないとか、魔法を使ってはいけないとかじゃないことを祈ろう。
経済、文化、政治。ルキフェはそういう知識は少なかった。
焚き火に背を向け夜空を見上げると、端から端まで長く雲がかかったように星が連なっていた。
離島の海岸で見た星空に近い。あの時見たミルキーウェイとは違った銀河なのだろう。
こうして、この世界に新しく生まれた一日目が終わった。
起こったことが多すぎて情報過多だ。
本当に魔王を継ぐのか?
もう継いでしまって取り返しがつかないことをしたのか?
ルキフェのように狂乱に呑まれてしまうのか?
暴虐の権化になってしまわないだろうか?
流れ星が見え、思わず祈った。
ああ、どうか、無垢の人を不幸せにしませんように……。