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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
黒き光

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ウトリー5


 クレマ司祭の執務室にキンセ助祭、セセンタ助祭とともに入室した。


 三人がクレマ司祭の執務机の前に立つと尋ねてきた。

「一体どうしたのかね? 報告とは何かね? 何が起きた?」

「エルクを伴って魔力訓練室に行きました。エルクが魔力を注ごうとしたところ魔道具が壊れ、溶け崩れました。他の助祭たちが驚き、慌て、エルクに暴行を働こうとして反撃され負傷しました。以上です」


 クレマ司祭は微笑みを浮かべてエルクを見ていたが、報告を受けて徐々に笑みが消えていった。


「エルクくん、何をしたんだね?」

「僕、僕は何も、何もしてないよ。変な瘤に手を置いたら壊れちゃったんだ。そしたらあの人たちが、あの人たちが……服を破けって迫ってきて……」

「さあさあ、落ちついて。もう大丈夫だから落ちついて。ここには君に悪いことをしようなんて人間は……」

 宥めようとエルクに微笑みかけたまま、クレマ司祭の動きが止まった。小刻みに震えて、汗をかき始めた。


 ……ふむ、抵抗には個人差があるな。反感を持っていると強く抵抗するが、宥めようとする気になった途端に抵抗が弱くなったか。反感を持っていたキンセ助祭とセセンタ助祭は抵抗できずに陥落。反感が無くなるまで抵抗したクレマ司祭。個人の意志の強さかな。


「クレマ司祭、座ってもいいかな?」

「これは気が付きませんで、申し訳ありません、エルク様」


 執務机の前にある応接用の椅子にエルクを座らせて、クレマ司祭は扉を背にした席に座った。セセンタ助祭が飲み物を手配するために部屋を出た。エルクの部屋に寄って側仕えを連れてくるように命じられてもいた。


「さて、キンセ助祭。執務机の上にあるあの小刀をクレマ司祭に渡して」

「はい」


 小刀を受け取って、エルクをもの問いたげに見てくるクレマ司祭に命じた。

「左手をテーブの上に広げて置いて。そう。右手に小刀を持って、広げた左手を刺して、テーブルに縫い止めて」

 クレマ司祭は躊躇せずに自分の左手を刺し貫いた。苦痛に歪んだ顔を上げて、エルクの次の命令を待った。

「まあ、こんなもんかな。自分だけ苦痛が無いってのも、不公平だしね。この程度では済まないんだけどねぇ。もう抜いていいよ」


 小刀を抜こうと力を込めたクレマ司祭が、うめき声を上げた。

「うううっ。ぬ、抜けません。テーブルに食い込んで、抜けません」

「キンセ助祭、抜いてやって」

「はい」


 血を流しながら座り直したクレマ司祭に手を見せるように命じ、治癒魔法で止血した。

「ありがとうございます。治癒魔法までお使いになるとは」

「丁寧な言葉づかいはしなくていいよ。それとエルクと呼び捨てで。僕に様付けするのは、他の人に見られたら変に思われるからね」

「はい」

「でだ、いろいろ聞きたいことがあるんだ。キンセ助祭も座って」



 セセンタ助祭とラドが執務室に入ってきた。

 応接用のテーブル上の血と、脇に置かれた血に濡れた小刀とを見て、ラドはエルクの様子をうかがった。


「ラド、大丈夫。僕の血じゃない、クレマのだよ」

 「司祭」と呼ばなかったことに目を細めたラドは、司祭と助祭たちに目を向けた。

「そっちも大丈夫だ。三人は僕のいうことを良く聞いてくれるようになったんだ。ね、クレマ」

「はい。ラド様、ご安心を。我々はエルク様の命に従います」



 ラドがエルクの隣に座るとエルクが話し始めた。

「さて、聞きたいことがありすぎるけど、まずは確認。なぜボリバル司祭はギジェルモ司教に命令できる? ……ほんとはクレマとボリバル、二人とも司祭じゃないんでしょ?」


 クレマ司祭がうなずいて答えた。

「私とボリバルは、司祭と名乗っていますが、司教です。ウノ司教のもとで、彼の後継の位置にあります」

「ボリバルは競争相手?」

「はい」

「うーん、司教で司祭ね。上はウノ司教なんだね?」

「はい。組織図では、ウノ司教の下です。私はドス司教、ボリバルはトゥレス司教に成り代わって仕事をしています。実際には、年老いたドス司教、トゥレス司教は名目のみ議員で、私たちが主座会議議員です」

「……ギジェルモの話は正確だったか。ああ、ギジェルモ、ギジェルモ司教は行方不明だけど、真剣に探さないでいいよ。探してますってふりだけで。僕が処分したから」

「……かしこまりました」


「で、……魔王復活はどうやって知る? ……魔王城に何か仕掛けがあるんだよね?」

「はい。魔王城に魔王が復活する兆しがあると、魔王城地下施設から警報が入ります。ここの地下にある遺跡がその警報を受けて魔王の復活を知ります」

「……兆し?」

「はい、魔王城に急激な魔力の増減があり、おおよそ三カ月以内には魔王が復活します」

「その警報で討伐軍が組織され出征するの?」

「はい、その通りです」

「勇者も一緒に出征?」

「いいえ。その警報もそうですが、ここ、機関の地下と魔王国魔王城とは太古種の通路でつながっています。大軍は通れませんが、討伐軍の侵攻に合わせてその通路を使って勇者たちが魔王城に向かいます」

「……」


 エルクはクレマ司祭を見つめて考え込んだ。

「……ここしばらく、百年、魔王の復活がないけど、対処方法が伝わっているのか」

「はい。聖都ウトリーには聖教会学校があります。そこで教育されます」

「聖教会学校……魔王城とつながっていることがなぜ世間に出ない? ……一部の者しか教えられていないんだな?」

「はい。学校には聖教会の血族だけが入学できます。生まれてすぐに集められ、教育を受けます。その中からさらに選ばれた、成績優秀者だけが主座への道を進み、秘密を明かされます」

「……上層部だけに明かされるか……」


 ……通路……遺跡の記憶にもある……本当は単なる通路ではない、か……。


「魔王城の施設は誰が管理している?」

「魔王城の魔道具、魔力充填、魔石補充、魔力鉱、それらを扱う商会に偽装した担当司祭が管理しています。通路は魔王国には知られていません。国と言っても、蛮族、獣人と魔物の集まり、烏合の衆ですから」

 エルクは、きつく握り合わせたラドの両手に、手を置いた。

「力を抜いて、ラドミール」


「通路を通った勇者たちはなぜ『狂乱』しない?」

「……『狂乱』ですか? その言葉は知りません」

「……知らない? ……『変身』は?」

「……『変身』? 知りません。言葉からすると狂う事と、何かに変わる事だと思いますが……」

「「……」」

 エルクとラドが顔を見合わせた。


 ……知らない……これか……言葉にすれば「変異」が近い。人工的に変異させ、また、変異を取り消すことも出来る……。


「……なぜ、影響を受けない……魔王城の管理者と勇者、パーティが身につける共通の魔道具がある?」

「はい、ございます。『世界の守り手』を身に着けます。勇者の証でもあり、通路を通る鍵でもあります」

「それを、『世界の守り手』を見せてくれ」

「はい。魔王城を担当する者以外の分は、聖剣と共に保管されています。参りましょう」


 クレマ司祭を先頭に聖剣保管室に向かった。途中で白ローブを何人か呼んで同道させた。

 聖剣保管室は長い階段を下り魔力訓練室のさらに下にあった。

 長い廊下を行き、幾つもの大きな金属扉を開けさせた。

 最後の扉を開ける前に、白ローブたちは、エルクの支配の視線を受けて、従順に命令に従うようになった。


 一段と厚い扉を開けさせて広い部屋に出た。入ってすぐの金属の台に聖剣が置かれていた。


 ……ああ、これだ。


 エルクは思わず自分の腹を押さえ、聖剣に刺される痛み、全身を火で焼かれる痛みに耐えた。


「エルク様!」

 よろけたエルクをラドが支えた。

「エルク様! 大丈夫ですか!」

「……ああ、ラド。……ありがとう。……もう大丈夫だ」

 足元を確認するように、立ち上がったエルクは、置かれた聖剣から目が離せなかった。


 エルクは入ってすぐに台上の聖剣に目を奪われたが、ラドに支えられて落ち着くと部屋を見渡した。

「これは……!」

「この部屋にあるすべての剣が聖剣、大聖剣です」


 手前の台上に一本置かれ、その向こうには数十本の聖剣が棚に立てかけられていた。

「……実は……使える大聖剣は……もう、この台の一本だけで、あちらにあるものは壊れていて使用できません。この一本も……正常に使えるのか、魔王を討伐できるのかわかりません」


 ……大聖剣……この形は確かに剣の形……に見えるが……これは剣ではない。剣ではない……太古種の記憶……何らかの動力炉の……燃料棒のようなもの。


「これは剣ではない。魔力を使った動力炉の燃料棒……原子分解とか粒子、素粒子の世界だ」

 エルクが呟く言葉を理解できずにクレマ司祭たちは顔を見合わせた。


 ……ルキフェが討伐されて、殺されたら残るはずの死体はない。これで原子やさらに小さい粒子に分解されてしまう……。


「……これは、これは剣ではないのですか?」

 クレマ司祭が目を見開いてエルクに問いかけた。

「ああ、正確には剣ではない。切るという意味での剣ではない。おそらく物質を目に見えないほどの粒にしてしまう物だ。……発動させれば、人体に有害な放射線を出すか? ……勇者は、これを使った勇者の身体は持たないのだろう?」

「……はい、勇者は皆、魔王討伐時か、もっても数日で死亡します。同道したパーティも全員が病気になり、やはり数日以内に。遺体はこの階のさらに下、最下層に葬られています」

「……ふふふ、その後なんか、初めから無いってことだ。ラド! ラドミール! 勇者は魔王を、ルキフェを討伐したことで死んでいたんだ……くっそっー! なんでこんな馬鹿なことを!」


 ラドミールは、エルクの言葉を背に、聖剣を見つめ続けた。


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