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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
黒き光

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ウトリー2


 通り過ぎる集落で、魔物に襲われたこと、旅の一行が散り散りになった話を広めながら、フラゼッタ王国と聖ポルカセス国の国境にエルクたちは近づいていった。

 エルクとラドたち、五騎で向かっていた。


 街道の先に塔のようなものが見え始めていた。

 近づくにつれ、いびつな瘤が積み上がったような形が明らかになってきた。その形と高さに目が離せなくなった。


「エルク様、あれが聖ポルカセス国の入り口、国境にある塔です。『ポルカセスの塔』と呼ばれています」

 ラドの説明にエルクが答えた。

「……かなりの高さだね。でも、自然の造形? 人工物?」


 ……まるで……色も形も珊瑚礁? 岩山が風化したようには見えない……あれを建てる技術があるとも思えないし……あの高さ……有機的……見ていると……なぜか不安になる……違和感……。


「はるか昔からあると、言われています」


 ……周りはなだらかな丘陵、森はあるが、岩山はない。……周りの山脈が風化した? だが、一部に規則的な、装飾の模様に見えるところもあって、とても不自然に見える。魔力の流れが幾重にも重なって流れている。その流れに合わせた形になっている?


「不思議なものだね」



 塔の下に国境の検問所が設置されていた。


 両国の兵士と税吏たちに、魔物の襲撃を受けて聖教会のギジェルモ司教と助祭、自分たちの馬車ともはぐれてしまった事を伝えた。先に着いてはいまいかと尋ねた。


 フラゼッタ王国側の税吏と兵士たちには、バランド公爵がフラゼッタ王に即位したとの急な知らせがあり、さらに税率が変わったことで入国手続に手間取って大騒ぎしていた。出国するエルクたちを構っている暇はなかったが、王都パルムとの間で魔物に襲われた情報に驚き、王都パルムへ向けて急報を送った。


 ギジェルモ司教の名が出て、聖ポルカセス国側が慌ただしくなった。

 一行を詳細に検分する税吏に聖ポルカセス国への入国税を払い、木札に納税を証明する日付を焼印して渡してくれた。


「お前は、ギジェルモ司教の部下か?」

 じろじろと一行を見てきた兵士が問いかけた。革鎧には剣と拳の記章があった。

 エルクは学生証を胸の上に出して見せた。

「……いえ、私はフラゼッタ王国王立学院の学生です。ボリバル司祭からの依頼で来たのです。ギジェルモ司教とはたまたま道連れになっただけです」

「ボリバル司祭の……失礼しました。それでは聖都ウトリーに向かわれるのですね。この街道を進めば、騎馬なら十日ほどです」

「ありがとう。もし私の、この紋章をつけた者が来たら、聖都ウトリーに向かったと伝えてもらえると助かります」

 エルクは平たい角の紋章が描かれた銀貨の小袋を兵士に渡した。


 国境を通り抜け、塔の足元に近づいていった。

 塔を取り巻く魔力の流れは、太さがふぞろいで、流れる速度もまちまちだった。塔を中心にした同心円状でもなく、合流しては分岐を繰り返していた。


 ……今までに見たことのない不思議な流れだ。


 馬が何か感じるのだろうか、一定の距離を置いて近づくのを嫌がった。嫌がった場所のすぐ先は植物が生えていない、磨いたようになめらかな地面が塔を取り囲んでいた。

 エルクは手綱をラドに預けて近づき、塔に触れてみた。


 ……岩、ではないな。瘤の幾何学模様は人工物? それにしては有機的に見える。素材も不明になっている。魔力は?


 エルクは試しにわずかだけ魔力を吸収してみた。


 ……暖かい。これは?


 エルクは周りを見渡し、そばに誰も近づいていないのを確かめた。


 ……声? 音? 誰かが何かつぶやいているような……絵? イメージ? 星? 夜空を見てる? たくさんの望み、いや願い? 魔力に込められものが入ってきたのか?


 さらに吸収してみたが、それ以上の事はわからなかった。

 ラドたちが触っても特に変わったことは感じとれなかったので、魔力を吸収することで起こるようだった。



 通り過ぎる街道や集落、街には国境の「塔」と似た雰囲気の小山や壁、建物のようなものが点在していた。

 それらに触れて、魔力を吸収してみた。「塔」と同じ様な反応が感じられた。

 集落で馬を休ませた時に聞いてみると、古くからある遺物、遺跡だと教えてくれた。どのくらい昔からあるものかは、話す人間によって違った。



 おおよそ二日に一度、六騎程の騎士に行き合った。鎖帷子に拳と剣の紋章が描かれた白いサーコートを着て、槍を携えている。

 なんの感情も浮かんでいない暗い目でエルクたちを見て誰何してきた。入国税の木札を見せて通行を許可されるまで、槍を突きつけられた。

 

 騎士と離れた所で、ラドが馬を寄せてきた。

「あれが聖教会騎士団です。頻繁に街道の巡察をしています……もし、人間ではないと思われれば、大きな集落か街まで後を付いて来ます」

「……国境の兵士と税吏が見つめてきたのもそれか?」

「ええ、そうです。人間でなければ入国税も高額になります。兵士や税吏は普通の人間に見えますが……聖教会騎士団は、感情が表に出ない……少し不気味な者たちなのです」


 何度か聖教会騎士団の巡察に誰何されながら、十日ほど街道を進み、エルクたちは聖都ウトリーに着いた。


 聖都ウトリーは「ポルカセスの塔」に似たものが複数立つ丘の南に広がる街で、白く長い漆喰の壁が張り巡らされていた。

 街の門で国境での言い訳を繰り返し、入国税の木札と学生証の確認を受けて入ることが許可された。


 聖都ウトリーで活動する情報局の商会には行かず、門衛に教えてもらった貴族階級が宿泊する高級宿「夜明の窓辺」に向かった。

 街のあちこちに「塔」と同じ遺跡があり、遺跡を家の一部に利用しているところもあった。遺跡とそれを利用した建物は、調和と言う言葉をどこかに忘れてきたように、何か落ち着かない感じがある。



 宿に着いて聖教会の場所を尋ねると、北側にある丘全部がそうだと教えられた。そこには許可のある者しか入れない。

 案内してくれるはずの聖教会の助祭とはぐれた事を話して、聖教会への訪問方法を聞いてみた。宿近くにある、街の人が祈りを捧げる小さな聖教会を訪ねてみてはどうかと助言してくれた。

 聖教会への事情の説明と今後の指示を求めて使いを出した。

 ラドたちは情報局との連絡に行き、エルクは街中を見て回った。


 聖都ウトリーのあちらこちらの遺跡を見ては触り、吸収してみた。


 聖都ウトリーから南に荷馬車でも半日ほどで海に出る。海に面した漁村から、魚、蟹、蛸、烏賊、貝などの海産物が豊富に入ってくる。塩焼きにしてパンに挟んだり、串焼き、米を入れて煮込んだものなどが、屋台が通りに出したテーブルで食べられる。また、豚肉や羊、山羊などの肉類も豊富だった。

 市場や屋台は活気があり、どこも人でいっぱいだった。


 食べ歩きをしたエルクは人気のない路地に入り、光学迷彩を使って建物の高さまで浮いた。

 街と聖教会の魔力の流れを確認した。街中でも遺跡に魔力の流れがかなりある。遺跡と同じ種類の魔力が聖教会の丘全体を包んでいた。


 ……魔力の流れがありすぎて、パルム王城のような監視網があるのかがわかりにくいな。遺跡と同じ魔力に色をつけて表示してみると……監視網のようなものはないな。全部遺跡と同じか。所々にあるものは、なにかの魔道具かな。


 宿に戻ったエルクが、ラドから聖都ウトリーでの情報局の活動について報告を受けているところに、聖教会へ出した使いが戻ってきた。

「エルク様、私が使いに行った聖教会に、明日の朝来てほしいとのことです」

「了解した。ご苦労だったね。……聖教会の印象は?」

「はい。ボリバル司祭の名を出しましたが、こちらを信用していないような感じでした」

「まあ、あえて紹介状とかもらわなかったしね。……あの案内の助祭が途中で死んだらどうするつもりだったんだろうね? ……ねえ、ラド。ベルグンから聖教会を注視しているけど、なにか、いろいろと、ちぐはぐなのは気のせいかな」

「……エルク様。気のせいではないと思います。エルク様は魔王国中央情報局を機能的に組み上げてこられています。その組織も活動内容も。私たちには最初は理解できなかったことも、今であれば計画的で統一されていて、総合的に考えられたものとわかります。エルク様のように考えて、動いているのではないと思います」

「……僕らより……甘いってこと?」

「はい。以前『敵側のラドは?』とお尋ねになりました。『相手の考えも情報として手に入れて、常に更新したい』『相手は常に自分の上を行く強者だと考える』……そう、おっしゃいました。そういった考えが無いのだと思います」

「……魔王をいつも討伐してきた勇者の側だから、か。おごりか……他山の石……自戒しよう」


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