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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
風と炎

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パルム22


 禁書室を出て寮に戻った後、相手は夜明け前の時間とわかっていたが、光学迷彩を使い空を飛んで、里のレオナインを訪ねた。

 レーデルの事、精霊魔法の事、太古語について、フラゼッタ王国の現状、エルクが立てた仮説について話した。


 翌朝、レーデルに、エルクが準備しようとしている内容を伝えた。性急な行動をせず、準備が整ってから行動するよう話し合った。辺境大森林への予定はエルクと共に立てることも了承してもらった。



 エルクは専門学校に向かい、二の鐘からの治癒魔法講義に出席した。

 薬草や外科的な対処は参考になったが、ほとんどの病気の原因が、魔王の仕業であると教えられていた。


 ……魔王には悪者になってもらわないといけないか……勇者に頼らせないといけない訳だね。……顕微鏡もなく、公衆衛生の概念もないからね。……魔王国での教育は基本的な科学からかな。


 昼食後の四ノ鐘から防壁と治癒の実地訓練が、専門校の西側に建つ闘技場で行われる。 エルクも参加を求められた。

 闘技場では奴隷剣闘士同士を戦わせたり、魔物と武術師、魔術師を戦わせて見世物と賭けの対象にする。

 奴隷ではなく、職業として剣闘士の試合に出る者、貴族の中にも参加する者がいると聞いていた。


 エルクは、人が傷つけ合う姿は見たくない、それも金銭のために傷つけ合う場には、行きたくもないと断った。

 エルクのこれまでの噂を聞いて血の気が多いと思われていたらしく、大層驚かれた。


 ……あの時代のものは、民衆の目をそらすためとか、人気取りのためとかだったな。まあ、いつの世でも為政者の思惑で行われるものが、必ずある。競技会とか。民草は踊らされて、内政の瑕疵からそらされる……てっね。



 専門校の図書館で、古い羊皮紙の束を走査している時に、専門校の寮の側仕えが来た。

「エルク様、ラドミール様からの伝言が届いております」

「ん? 伝言が? ありがとう」


 ラドミールから、屋敷にエルクを訪ねて客が来て待っているというものだった。


 ……客? 名前は書いていないな。ラドが追い返していないのなら……会うか。


 専門校から屋敷に戻った。


 客間に入ると、椅子から三人の女性が立ち上り、エルクに頭を下げた。

「エルク様」


 ……ん? んん? 弱いが……魔力の反応が弱いが!


「……ガラン? ええっ! ガラン! ガラン! ホーロラにスランも!」


「はい、エルク様、ガランです」


 三人の女性は改めて頭を下げた。

 三人とも長身で均整の取れた肢体、簡素な布を体に巻き付け、革の履物……三人とも絶世の美女と言っていい。


「……あの夜の話! ……出来たんだね!」

「はい、人の姿に変身できました」

「すごい! すごい! 驚いたぁー!」

 三人は顔を見合わせて、にっこり笑った。


「もー! ゆうべは一言も、こんなこと言ってなかったのに!」

「エルク様に驚いていただこうと思いまして。申し訳ありません」

「いやいや、謝らないで。嬉しい驚きだよ。……でも……三人とも男性だと思っていたんだ。女性だったんだね、……女性に手を上げるなんて、失礼したね、ガラン」

「いいえ、竜族には、他の生物のような雌雄がありません。人間に変身するのであれば、女性でも男性でも、どちらの姿にもなれます」


「ラドミール。君も共犯だね。名前を伏せた伝言を寄越して」

「私も最初は驚きましたから。『私の背に乗って、共に里に行ったではないか』と言われまして……」

 珍しくラドミールが、にやにやと笑っていた。


 ……人の姿になれたのか! それも絶世の美女とは! ……連絡網がいけるか! ……あの巨体の竜が……たおやかな女性の姿に……質量は? 圧縮されても質量は変わらないのでは? 一歩ごとに床が抜けたりしてない……女性に体重の話は禁物! か?


 みんなで席に着き、ガランたちを見知っているアザレア、オディー、ラウノにも来てもらった。

「……ガ、ガラン様? え、こ、黒竜ガラン様? 人のお姿に……」

 アザレアが口を開けてガランたちを見つめていた。


「あの夜から、エルク様がおっしゃった事で、本当に面白い思索が出来ました。他の竜たちとも話しました。我々竜族のこと、人種のこと、世界のこと、そしてルキフェ様のこと……太古種のこと……一族に伝わる古い話、私の中に埋もれていた古い記憶……。そういったものの中に、人種に変わる伝承、記憶があったのです」

「……世界とルキフェ……太古種か……古い伝承……埋もれていた記憶、その中に。……記憶……自分の記憶……魂は輪廻転生すると前世の記憶は無くなる……本当に? ……完全には無くならないとしたら……前世の記憶……上書き? ……答えはわからないが、シナプスの消失で失われる記憶が、予備の複製として魂に記されていくとしたら……前世、今世、後世……埋もれていた記憶……」

 エルクが、目を上げると、皆が見つめていた。


「ああ、ごめん、ルキフェの名前につられて、つい考え事を。ガラン、その方法を思い出したってことだね」

「はい、その方法を。人種の言葉では表現できず、お教え出来ませんが、ホーロラ、スランたち竜族には伝えることが出来ました」

 ホーロラとスランがうなずいた。


「竜族に広めていますが、私自身とホーロラ、スランが訓練をするうちに、別の事実がわかりました。……変身は己の魔力を体内で……回して? ……維持します。その訓練で魔力量が増えたのです。二人とも、隠蔽魔法の時間と念話の距離が延ばせました。私ほどではありませんが」


「……ラド、連絡網が、迅速な連絡網が作れるかな?」

「はい、もしガラン様たち竜族が、知られずに動けるとなれば……」

「うん。作れそうだね」


 ……そうか! 魔王国に、空軍が出来たってことだ。隠密の戦闘機、輸送機、高高度偵察機、魔王国空軍が誕生したんだ。


 その後は長い会議になった。


 ガランたちと記憶と変身について話し合う内に気がついた。


 ……「狂乱」に関する記憶、伝承はなかったが……。そもそも「狂乱」ってなんだ? ルキフェから「狂乱」と聞いただけだ。ガランは「狂乱」を知らなかった……もし、他のものをそう表現しただけだとしたら……。


「ラド、新たなお願いなんだけど……」

「はい、エルク様」

「ガランや魔王国のクラレンスたちから情報を集めて欲しい。ルキフェが復活した時に自分たちに何が起こったのか。『狂乱』とルキフェから聞いたけど、僕が思っていたものとは違うものなのかもしれない。その時の様子を、経験した者たちから聞き取りをして分析してほしい」

「……『狂乱』の分析……」

「うん、てっきり狂乱魔法というものがあって、皆その影響を受けたと思っていたが……そもそも僕の早とちりかもしれないんだ。僕が間違えていたのかもしれない」

「エルク様が……」


「ガラン、人種、女性に変身して、竜でいる時と違っていることはない?」

「違っていること……この姿では火が吐けません……飛べません……力も弱まり……先程出していただいた人間の食べ物、味わいが違って感じられて、大変美味しく……人間と自分を考えていたり、でしょうか?」

 ガランが小首をひねって考える姿は、とても女性らしい。


「味わいが違う、自分を人間と……。感覚や考えも変わるのなら、『狂乱』とはそうなのかもしれない……」


「……ねえ、ガラン。こんな事聞いてごめんなさい。……竜から人間……人間から竜……その……服はどうなるの? 裸?」

「エルク様。……裸です。人種の服を着たまま竜に戻ると破けます」

「パルムに入る時に困らなかった? 人種は人前では裸で歩かないから……その」

「クラレンスに相談しました。エルク様が魔王国からの者に求められたことは、人種に紛れること。私たちの変身におかしな所がないか見せました。裸では問題があると、宝物庫に入れなかったアイテムパックを借りています。元の姿の時はパックの革紐を咥えています」

「よかった」

「火は吐けなくなりますが……」


「ヴィエラ、アザレア、お願いがある」

「はい」

「ガラン、ホーロラ、スランに教えてやってほしいんだ。人として街で暮らしてもおかしくないようにいろいろとね。一人でも行動できるようにね」

「「わかりました」」


 ガランたちがヴィエラたちの教えを受けている間、エルクはラドと書斎に向かった。


「来てくれたばかりだが、ガランと里に相談に行って欲しい。今朝レオナインとは話したけれど、ガランの存在で事情が変わった。……距離と時間が短縮できる」

「はい」

「それと、今夜から、僕が王宮と聖教会を探ろうと思う」

「すみません。未だ情報を探り出せておらず」

「謝らなくていいよ。ラドのせいでも情報部のせいでもない。ガランが事態を動かしてくれたおかげだよ。それに忍び込んで探るのに、一番適任なのは僕だ。そこで、忍び込むためのいろいろな情報がほしいんだ」

「はい」

「ほしい情報は……」


「次ね。レオナインとの相談は、こういう結果がほしい……」



 その夜、エルクは王城の上に浮かんでいた。

 情報部からの概略図と実際の王城を比較する。


 魔力を同調することで夜間監視網を抜け、警備兵の詰め所に向かった。

 天井に張り付き警備兵の動きを監視し、巡回、交代時間、交代要員を把握した。詰め所の書類からは、王城の大まかな間取り図を得た。


 親衛騎士団の詰め所に忍び込み、同じ様に監視することで王族の居室、来客の予定、警備が必要なほど重要な部屋を割り出した。


 暗がりと天井を移動して、王城に数カ所ある台所を回った。

 夜明けまではまだしばらく時間があるが、下働きの人間は働きだしていた。火を起こして回る者、料理用魔道具に魔石を用意する者、下働きを監督する者。その動きを基に総料理長の事務室を突き止め、書類を走査する。

 料理材料の発注と入荷状況、用意する量、食べる人数、届ける部屋。


 親衛騎士団の来客の予定と突き合わせている所に人が近づいてきた。事務室の外に立ち、鍵を使った瞬間に、風魔法で隣の部屋の扉を揺らした。

 物音に人の気配が遠ざかる。すばやく書類を戻し、浮かんで天井に張り付いた。

 再び人が近づき、今度は扉を開けて入って来た。エルクは空けられた扉の上部をするりと抜け出した。


 夜明けとともに動き出した王城内を、人の流れに付いて行き、エルクは動き回った。


 欲しい情報は、「本当にギリス王国侵略を目論んでいるのか」の確証。フラゼッタ王国首脳部の考えの把握だった。把握したいそれらの情報がある部署は、財務。

 フラゼッタ王国、王室、派遣される王国軍の会計情報が知りたかった。


 軍を使って侵略するには、とてつもなく軍費がかかる。単純に兵を招集しただけでも金が出ていく。

 人件費はもちろんだが、兵は食べさせなくてはならない。さらには騎乗する馬、予備の馬たち、飼料、運ぶ荷馬車。戦闘員ではない人員、側仕えたちも。

 食料や補給物資を十分に用意せず、輸送の手段も確保せず、全てを現地調達で賄うつもりなら、勝利を得るには相当苦労することになる。

 侵略される側からの抵抗を予想して時間と物資に余裕を持たせなければ、いたずらに兵を死なせるだけだ。

 軍費の調達状況がわかれば予測ができる。


 欲しい情報の二つ目は、侵略の戦略情報。侵略の落としどころを何処にしようとしているのか。


 使った軍費と人的資源は補完されなくては、国が潰れる。そこを見誤る指導者は、頭の不自由な無能者だ。

 経済的に見合うものを何処と定めているか。単純な鉱山奪取だけでは割りに合わない。金に変えるまでに時間がかかりすぎる。ギリス王国を併呑してまかなえるかが、問題になる。

 辺境大山脈、辺境大森林……魔王国への侵略・侵攻も視野に入っているかを確認しなくてはならない。


 さらに、他国、他組織との調整をどう考えているか。

 特に聖教会は魔王討伐以外の消耗を嫌うはずだ。軋轢をどう処理するのかが重要になる。


 ……もしも聖教会がフラゼッタ王の考えを読んでいたら……僕の予測が当たることになる。僕がそれに便乗するのも、一つの手ではある……。


 それから三日間、エルクは王城を探り続けた。


 ガラン、ラドミールとは念話で連絡を取り合った。

 屋敷に残るアザレア、ヴィエラとは、ホーロラ、スランを通して連絡を取り合った。レーデル、ベランジェから伝言が入っていた。


 エルクは朝に、屋敷に戻った。

 調査結果は報告書としてまとめ、情報部に提出した。


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