出現3
実験で荒らした場所に降りた。
練習を切り上げて、ルキフェと打ち合わせた事に着手することにした。
魔王が二人になったことを魔族には知らせておく必要がある。
ルキフェの目的を果たすためには、協力者と情報の入手がどうしても必要だった。
最初は魔王配下の黒竜ガランに連絡を取ることにしていた。
……魔王騎乗竜ガラン……乗ったことはないそうだが、その役目を持ち、魔王に次ぐ命令権を持つ存在か。
ルキフェに、呼ぶ時は忘れるなと言われた通り、羽が彫られた金のペンダントを身に着けた。
呼び出し方は、魔力を黒竜ガランに向けて放つこと。
……テレパシーで三つの部下を呼ぶ感じかな。
「黒竜ガラン、呼びかけに応じ、我のもとに来たれ」
病っぽく両手を空に向けて広げ呼んでみた。
……おお、なにか反応を感じた。応答したってことだろう。
十分ほどして山の方から黒いものが飛んできた。かなりの速度で飛んできて頭上でピタリと止まった。
黒竜ガランは大きかった。
人間の大人ほどもある鋭い爪が生えている二本の前足と、太く大きな後ろ足が二本、四枚の羽。胴回りは軍用輸送機くらい。長いしっぽまで入れると全長は輸送機の倍はある。
全身は黒く突起があるウロコで覆われ、ヌラヌラとしたようなテカリがある。
首は太く長く、頭には大小四本の角、こちらを睨んでいる眼は深く暗い赤い光を放つ。
口は大きく太い牙がずらりと生えている。
羽はコウモリの被膜みたいなものではなく黒い羽毛が生えたものだ。羽ばたきをして空中停止していないので魔法で飛んでいるのだろう。長い尾の先には爪よりも鋭そうな棘が生えている。
「何者だ! 我を呼んだおまえは、何者だ!」
大音声で叫んだ。
「魔王ルキフェ様はどこだ! この人間めがぁー!」
と、叫ぶなりこちらの返答を待たずに、炎を吐きかけてきた。
ゴオォォォォォォー。
竜のブレス。白熱の濁流がエルクを包む。
黒竜ガランとの対処方法は、あらかじめルキフェと考えておいた。
黒竜ガランは浅慮短気を装い、エルクを試すだろうからと。
ペンダントは魔道具。機能は他者には探知できない防壁を展開すること。
ブレスが止まってもエルクにはなんの被害もなかった。
ブレス攻撃で溶けた岩石の中に平然と立つエルクを見て黒竜ガランは驚いた表情を浮かべた。
……竜は表情豊かだなあ。
ガランは次のブレスを吐かずに、空中から右前足を大きく振り上げて鋭い爪で攻撃してきた。
その動きを目で追い、届くギリギリで一歩下がり、かわした。
目の前を通り過ぎる爪の風圧でローブがはためく。左右交互に爪攻撃をしてくるが、どれも屈んだり、下がったりしてかわす。
左右からの攻撃速度が上がったところで、頭上から噛みつきがきた。
これも動きについていって相手の左前へと踏み出す。
ガランの息がかかったが、焦げた匂いや生臭さはまったくなく、甘いようないい香りだった。
ルキフェの用意した体の基本スペックは高い。人間の子供の大きさに巨体の魔王の身体能力を盛り込んだので強度、速さ、耐性、腕力、視力も高性能だ。
……次は尾か。
ガランは体を独楽のように回転させた。尾の横薙ぎが来た。
後ろに下がるか屈んだだけではかわせない。飛び上がってかわす。
ガランの頭上まで高速で飛んで、尾とともに回転するガランの頭に踵落としをみまう。
ガランは地上に顔から打ち付けられた。
地面に落ちた体の右腹に飛び蹴り。
吹き飛ぶところをさらに飛ぶ速度を上げて反対側に回り、後ろ回し蹴りを打ちつける。
地面を長く削って手近の岩山にめり込んだ。
ガランの前にふわりと降りて声をかけた。
「黒竜ガランさん。いきなり攻撃しては状況に合わせた正しい対処はできません。相手の力量が不明なら話し合いから始めましょう」
「な、なにっー。人間風情が我に向けて大層な口をきくなぁー!」
「ルキフェからは、ガランであれば魔力を感じ取り、魔王であると理解できると聞いていたんですがねぇ。私は魔王エルクと申します」
「……魔力はルキフェ様と同じだが、おまえのように弱々しいお姿ではない! 高貴で威厳に満ちたお姿だ。魔王を騙るお前は何者だ」
「はぁー。ルキフェが言う通り浅慮を装っているのでしょうが、そろそろふりは止めてもいいんですよ。答えは予想できるのでしょう? ……これをご覧ください」
魔王ルキフェの姿をガランの前に映し出す。
『我は魔王ルキフェ』
重低音が交じる低く轟く声だ。
声が聞こえた途端に黒竜ガランは頭、腹、尾を地面にベッタリと付け臣下の礼をとった。
『魔王エルクを我が跡継ぎとした。以後はエルクの命に従え。エルクの命は我が命である』
殷々と声が響き、ゆっくりとその姿とともに消えていった。
黒竜ガランはゆっくりと岩山から這い出してきた。
「あらためて初めまして、黒竜ガランさん。ルキフェからは魔王としてすべてを譲り受けた魔王エルクです。もちろんガランさん、貴方も含めてです」
黒竜ガランに向けて手をかざした。
「命ずる! 黒竜ガラン、我に従え!」
黒竜ガランはその言葉に頭、腹、尾をベッタリと地面に付けた。
「頭を下げたままでいろ。お前を縛る言葉の力を感じるか? おまえに力で命令できる我は魔王、魔王エルクである」
……うーん病だ。前世でこんな風に誰かに命令したことない。正直ちょっと恥ずかしいが慣れなくてはいけないんだろう。威厳がないとルキフェに恥をかかせるかなぁ。
「魔王エルク様。貴方様に従います。何なりとお命じください」
「状況の説明とお願いもあるので、話し合うことにしましょう」