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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
風と炎

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パルム3


 その日の午後、ラウノ、ヴィエラと魔法書の写本に「セリアの学び」を訪ねた。


 「セリアの学び」は東門の南側にある。更に南側、南門の辺りが学院の敷地だ。その側には私塾が多い。大きな私塾には訓練場もある。

 私塾には魔術師、武術師が弟子を求めるという目的もある。また、学院には入れないが、能力のある者の職業訓練所としても存在している。


 「セリアの学び」はセリアの丁寧な教えが好評の私塾だった。木造の塀に沿って進み門から中に入った。

 事務室で名を告げると会議をするような部屋に通された。ヴィエラが事務員と話してお茶の用意をしてくれる。


 扉が叩かれ、セリアが数冊の本を持って入ってきた。

「エルクさん、これから、ご記入いただいた書類と推薦状を学院に提出してきます。こちらは初級編と呼んでいる基本となる魔法書です。写本用の羊皮紙と筆記用具はお持ちになられてますね。では不明な点は事務室にお申し出ください」

 ヴィエラからのお茶を飲んだ後で退室した。


 魔法書を開いてみた。

 やはり魔法の呪文はこの世界の太古語で書かれていた。太古語の発音が現代語で併記してある。エルクは太古語を読んで理解することが出来た。内容は、ラウノたちに教えてもらった初歩の魔法だった。


 ……やっぱり宣言と変数を組み合わせて唱えるのか? 太古語がわかれば変数を代入して唱えればいいみたいだ。うーん、まてよ。記憶を映像化出来るなら、逆は? 走査して記憶に落とし込む。瞬間記憶に近いか。さらに、内容の語句を整理された情報の集まりとして検索できるようにする。人工知能の様に深層学習をしてみれば……。


 一冊の魔法書をめくって数秒で取り込む。

 透過して一冊を一度に読み込めないか試すが、羊皮紙の質や厚さが一定ではないせいか、うまくいかず、一枚ずつめくるしかなかった。それでも一冊を数分で走査できた。

 試しに「火の玉」と思い浮かべると呪文がわかる。あとは唱えればいいようだった。


「セリアさんはもう出たかな? ヴィエラ、声を掛けてもらえるかな。お借りした魔法書にある呪文を試してみたいので、訓練場所をお借りしたいと伝えて」

「かしこましました」


 まだ出かけていなかったセリアと一緒に建物の裏手にある訓練場に出た。

「エルクさん、魔法書を読んだからといって直ぐには詠唱できるものではありませんよ。発音や節を訓練しなければなりません」

 エルクは短杖をアイテムパックから取り出して構えた。セリアがそれを見て「アイテムパック!」とつぶやいていた。

「まあ、試してみましょう。あの標的に火の玉を撃ちます」


 訓練場の土塁の前にある丸太に向かってゆっくりと詠唱した。魔力を込めすぎない様に注意して放つ。的の真ん中で破裂した。

 

「読んだばかりで……いえ、きっともう詠唱を習得している魔法なんだわ」

 セリアの声を背に、次はラウノに魔法書を持ってもらい、適当に開いた頁の魔法名を読み上げてもらう。

 聞くと即座に呪文が浮かぶ。始めはゆっくり唱えて魔法を放つ。次に詠唱の速度を上げていく。

 何度か繰り返すうちにほぼ一言唱えるぐらいの速さで詠唱できるようになった。


 三冊全部の魔法を詠唱して放てることを確認すると、ヴィエラが称賛してくれた。

「先程お借りした魔法書を全て自分のものに。さすがはエルク様です!」


「……エルク様なので……納得はできますが……能力の差には、複雑なものを……初めての魔法を憶えるのに……あんなに苦労したのに……」

 暗い顔でつぶやくラウノにエルクは困った顔をした。


 ……すまないね。なにせルキフェの特別製だから……。


「あの短い間に三冊とも習得されたのですか? 驚きです!」

 セリアの声に振り返って笑顔を向けた。

「もう、憶えましたので写本せずにお返しします。次の本をお借りできますか?」


 結局、初級編全部と中級編合わせて二十冊を走査した。

「なんて学習速度が速いのでしょう! 信じられません。書類提出の時に学院に伝えます! 素晴らしい才能だわ!」

 そう言うと、セリアは慌てて出でていった。


 ここにはもう本がなかったので、リブシェ商会に戻り、大鹿の角全員で、王都の偵察を兼ねて、王都見物に出た。


 馬車はミルシュカが用意してくれた「大鹿の角」の紋章を付けた大型のもので、ラドの魔道具を作動させている。馬車としては高価な部類だが、振動と騒音がひどいので重力魔法で少し浮かせている。


 ……いずれ懸架装置を作って、乗り心地のいい馬車を開発しよう。


 同乗したミルシュカが案内してくれた。

 ジュスト商会に行ってもらったが、会頭のジュストは商隊を率いて南方に向かい留守にしていた。ヘリたちもジュストに同行していた。


 聖教会、王城、学院、専門校、闘技場……。王都のおおよそを掴む。

 パルムの北西部には屠殺場や革工房などのきつい匂いの職人街があり、その北側と北門を抜けた先まで、治安の悪い貧民街が続く。


 屋敷に戻ったところで、ラドが伝言を受け取った。

「エルク様、里から連絡がありました。辺境大森林のエルフ、大山脈のドワーフの長が共に協力に賛同しています。しかし、一族全体には知らせておりません。個人的な協力という段階です。具体的なものはまだ何もありません」

「うん、今はそれで十分だよ。……聖教会の情報を集めることが必要だ。それに協力してもらえる計画を立てないとね。そのエルフとドワーフは人種と交易などがあるって言ってたよね」

「はい」

「……じゃあ、このまま会議をしようか」


 屋敷の会議室に全員が入り、エルクが尋ねた。

「……聖ポルカセス国の情報収集の件は?」

「現在、組織と拠点の組み直しを指示しています。結果はまだです」

「……距離と時間か……」


 ……通信速度を上げたいなぁ。


「最初に聖ポルカセス国の防諜、警備状況を探らせてほしいな。王城のような夜間監視網があるかどうか……こちらの連絡の速度を上げたい。ガラン、ホーロラ、スランたち竜族を連絡要員にしたら、なんらかの監視網で察知されないか、だな。それとレオナインの使い魔が緊急連絡以外で使えるといいんだが」

「使い魔を遠距離に伝令に出すのはかなりの魔力が必要で、そのため緊急にしか使えないと……」

「うん、そうなんだけどね……なにか方法を考えないとね」


 ……レオナインのところで精霊魔法を教えてもらうか? ……そう、あれも始めよう。


「ラド、パルムでの影の一族の活動は、具体的にはどんなもの?」

「魔王討伐隊が編成される兆候はないかを探すことを最重要としています。学院、王国軍、騎士団、闘技場などに使用人として入り込ませています。また、その近くに商店、食堂、飲み屋などを営んで注視しています。学生や各団体の使用人たちが利用するので、勇者出現があれば世間話としても入ってきます」

 エルクがうなずき先を促した。

「武具、糧食などの物資の動きはリブシェ商会が集めています。情報の集積を元に兆候の判断をするのはミルシュカと商会幹部たちが行います」

「……兆候があった場合の対処はどうしてきたの?」

「各地の影の一族に警報を出して、輜重隊を遅延させる妨害や物資の不具合を誘発するなどを行います。……直接的な攻撃は……よほど条件が揃わなければできません。こちらへ注目が集まるのは避けてきました……」


「そう……僕が考える魔王国中央情報局、MCIAの組織はこういう構成からなるものであればいいと思っている」


 エルクは大きな羊皮紙を取り出してテーブルに広げ、アザレアにうなずいた。

「ここに書いたものが組織の概要だよ。統括する『作戦部』、情報を評価・分析する『情報部』、防諜を担当する『公安部』、情報収集および漏洩技術を、常に開発・改善する『技術部』、作戦部の立案した作戦を実際に行う『活動部隊』だ」

 羊皮紙に書かれていることを指差して説明した。


「ラドミール、これをこのパルムで作ってほしい。それを元に各地に支部を作る。魔王国から離れていて、狂乱の影響を受けない所に総本部を置きたい。いずれ狂乱をなくした時、ルキフェが復活した時には魔王国政府内に責任者として国家情報長官を置くつもりだ」

「……えむしーあいえい……魔王国中央情報局……」


 ……うん、まあ名称はSISでもMI六でもいいんだけどね。


「影の一族にはここに所属してもらいたい。エルフとドワーフからの増援にも。皆、僕は学院に入る。そちらを、『狂乱』を最優先にするよ。だから、皆にはここ、王都パルムでラドミールと一緒に魔王国中央情報局を作ってほしい。最初からうまくいく必要はない。いろいろと試してほしい。……いずれ皆の下には部下、部隊、組織が置かれる。その長として組織を育て、動かすことも学んでほしい。詳細は都度、話し合っていこう」


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