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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
風と炎

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アグナー6


 アザレアに自分の銀証を手渡して、探知魔法で階級証を見分けられるか試してみた。


 見分けられたが、他にも銀証があった。全部で八つ、他の階級証を探すと銅証と鉄証が合わせて五つあった。全部、大トカゲから反応がある。

 ここで取り出すのはやめておいて、合掌し、大トカゲ全部をアイテムパックに入れた。



 まだ陽のあるうちにアグナーの街に戻ってきた。

 戻ってくる途中で、地面に座り込んだ男たちと、乗りつぶして死なせた馬に出会ったが、助けを求める声は無視した。


 ……馬がかわいそうだ。


 北門はアグナーの街を脱出しようとする荷馬車や人で身動きがとれない状況で誰もが大声で叫んでいた。


 門の外で、エルクは馬上からルキフェの声をのせた大声を出した。


「大トカゲ六十五頭は討伐したぞ! 証拠が見たければギルドの訓練場で待て! 道を空けろ! 逃げ出す必要はない! 道を空けろ!」

 一瞬の内に静まり返った。

「道を空けてください。討伐の証拠が見たければ冒険者ギルドの訓練場でお待ち下さい」

 よく通る声でエルクが言うと、人々は荷馬車などを動かし、道を空けてくれた。


 あの若い門衛に、騎士団が街道にいることを伝えた。

「何人かひどい有様で、帰ってきました……討伐に向かったと聞きましたが、俺たちは、この街を守れるでしょうか? どうすれば守れるのでしょうか?」

「安心していいよ。大トカゲは全部討伐してきたから。皆にも広めてね。大トカゲは討伐されたと、証拠が見たければ訓練場に来いと」

「……討伐された?」

 門衛に手を振ってギルドに向かった。


 ギルド内は喧騒に包まれていた。武装した冒険者達が、どの門に誰が行くのか、と大声を上げている。……指示や命令ではなく、大声で騒いでいるだけだった。


 受付は板で封鎖され、職員が誰も居ない。探知魔法でギルド長を探すと、二階のあの会議室にいた。

 扉を叩いて返事を待ったが、怒鳴り合う声しか聞こえてこなかった。

 エルクは扉を押し開いて中に入っていった。銀証の冒険者たちがつかみ合いにならんばかりに怒鳴り合っている。


 エルクはルキフェの声を混ぜた。

「静かにしろ」

 一瞬で怒鳴り合いが収まり、へたり込む者もいた。ギルド長のところまで歩いて行く途中で、エルクに怒鳴りだした者がいた。

「偉そうなことを言って出ていったのに、逃げ帰ってきたか! 領国騎士団と同じお飾りか!」

 エルクは目もくれず、ギルド長のそばまで歩いた。

「ギルド長、大トカゲ六十五頭を討伐してきたよ」


「なんだと、出ていっていくらも経たない! お飾りがなんでそんな嘘をつく!」


 エルクはそういった男の目の前のテーブルに、二つに割れた大トカゲの頭を出した。頭はテーブルからはみ出した。

「「「うわぁー!」」」


「これが頭だよ。目が見えるならわかるよね。それともまぬけ……」

 手を振って、ギルド長に向かい、にっこり笑いかけた。


「街中大騒ぎだったからね、討伐の証拠を見にギルドの訓練場で待つように言っておいたよ。今から一緒に行って討伐を確認してね」

「……と、討伐した?」

「だからさ、その頭、見てみなよ。死んでるでしょ? あ、僕はアイテムパック持ちだから全部持って帰ってきたから。訓練場で数を数えてね」

 そう言って頭をしまった。テーブルには血の跡だけを、わざと残した。

「「「……!」」」


 ほうけたギルド長に代わり、職員と冒険者に指示して訓練場に向かわせ、街の人の整理をさせた。

「ほら、行くよ、ギルド長。街の人が見てるからしっかりして」

「……あ、ああ、よし。訓練場だな」


 冒険者ギルドの訓練場には大勢の人が詰めかけていた。

 訓練場の真ん中を空けさせ、エルクが進み出た。後ろには揃いの戦闘服を着た「大鹿の角」が続く。

 人々に声が届くよう空気で先の広がった筒を作り、拡声するかを試してみた。

「聞こえますか? 後ろの人も聞こえますか? 聞こえたら手を振って!」

 後ろの方まで声は届くようだ。


「これが、今回の大トカゲでーす。まずは一頭ねー」

 断ち割られた頭と身体を出した。


 悲鳴とともに大声が上がった。

「でかい!」

「大トカゲの大きさじゃねぇ。竜じゃねえのか!」

「……あんなのが来たら、街は終わりじゃねえか!」


「これがぁ! 六十四頭いましたぁー。ボス以外のぉー、残り六十三頭ぉー、出しますぅー!」


 エルクは六十三頭を並べて出した。


 もう声を上げる者はいなかった。一頭一頭が、牛や馬の何倍もあり、その口は人など丸呑みにできそうだった。


 唖然とするギルド長に言った。

「ほらほら、ボーとしてないで、数えて! 数えて!」


「六十四。確認した……」

「じゃあ一度しまうね」

 六十四頭が一瞬で、エルクのアイテムパックに入れられる。見ていた街の人からどよめきが起きる。


「次はぁー、ボス、いきまーす!」


 訓練場の中央に置かれた大トカゲは巨大だった。集まった人々が息をのんで後ずさり、誰一人として声を上げられなかった。


「これがボスですぅー! 大トカゲはすべてぇー、銀証パーティ『大鹿の角』が討伐しましたぁー! もうアグナーの街には来ませーん!」


 街の人、職員、冒険者たちから、大きな喜びの声が響き渡った。


 喜びの声の中、エルクは大トカゲをしまい、喜び合うギルド長と職員に話しかけた。

「……ギルド長、あなた方には、悲しい仕事がある。喜んでばかりいられないよ。解体場についてきて」


 エルクと「大鹿の角」に人々が喜びと感謝の声をかけるのを押し分けて、解体場に向かった。


 解体場に着くと、アイテムボックスから天幕を取り出して、ついてきた見物人から見えないように囲わせた。

「……これから出す大トカゲの胃袋に、階級証が入っている。取り出してやってくれ」

「「「!」」」

「全部で十三の大トカゲを出す。腹を切り裂いて胃袋を取り出す」


 エルクは一体ずつ取り出して腹を裂き、胃袋を取り出して、職員に渡していく。

 幾つか目で胃袋を裂いていた職員から、声が上がる。未消化の遺体が出てきたのだろう。エルクは振り向きもせず、十三体全部から胃袋を取り出した。


 十三の胃袋から、遺体と階級証を取り出した後で、エルク以下「大鹿の角」は遺体に黙とうを捧げた。


 ベルナールがエルクに声をかけてきた。

「エルクくん、大トカゲの解体には時間がかかる。手不足で一カ月以上かかるだろう。終わるまではボルイェ商会の館が連絡先でいいかね」

「……大トカゲを解体してもらう必要はないよ。買取もね」

「いや、しかし、ギルド本部とアグナー伯への報告もしなくては」

「それは、僕には関係ない。僕は大トカゲを討伐した、ギルドに討伐を確認してもらった。それだけのこと。明日にはアグナーの街を出立するよ」


 エルクの返事を聞いてベルナールが慌てた。

「いや、それはできない。報告をしてもらわねば困る」

「僕は、困らない」

「いやだめだ。大トカゲについてアグナー伯への報告が絶対に必要だ」


 エルクはベルナールを冷たく見上げた。

「……勘違いしてない? 冒険者が魔物を討伐したら領主に報告する義務があるとでも? ……今日は角ネズミ討伐しました。僕は四足コウモリ討伐しましたって報告しなきゃいけないの? 魔物が大きくなったからって『冒険者』には領主への報告の義務はない。危機を救ってもらったことに感謝して、後始末ぐらいは自分たちでして」


 なおも言い募るギルド長に返事をせずに天幕を回収した。外にいた見物人が一斉に近づいてきた。

「そうそう、ギルド長! 大トカゲの討伐依頼をお願いしてたよね。どうなったの?」

「……いやそれは……」

「そう。大トカゲを討伐できるとは思ってなかったわけだ。まあ、討伐部位も渡さないんだし、仕方ないね」


 みんなで館に戻り、明日の出立の準備をした。

 必要なものが他にないか会議室で話していると、ラドがアザレアを見てうなずき、アザレアが聞いてきた。

「……エルク様。先程のギルド長とのやり取りですが……。何か問題があったのでしょうか? いつものエルク様とは違い、お怒りのようでしたが」

「……」

 ラドもうなずいて、聞いてきた。

「ベルグンでの様子とは違って、お怒りのようだと思うのですが、理由がわかりません」


 エルクは大きなため息をついて、答えた。


「……すまない、みんな。気を使わせてしまったね。……八つ当たりだったんだ。……たまたまだよ、僕らがこの街に来たのは。僕らがいなかったらどうなってたと思う? この街は全滅してもおかしくはなかったんだ。それほどの事態なのに、彼らが、まともに防衛の準備すらできないことに苛立ってしまったんだ……たぶん、後ろに聖教会がいるかも知れないこともあってね」

「「「……」」」

「人に、人々に不幸が襲いかかろうとしているのに、何も準備されていない。誰も指揮をとって防ごうとしない。彼らはそうだった。……じゃあ、僕はどうなんだ? ……僕の準備が間に合わなくてルキフェが復活してしまったら……魔王国とこの世界の人々を不幸にしてしまう。僕が間違えたら……人々を不幸にしてしまう。……改めて、自分の覚悟の無さ、未熟さに、苛立ってしまった。……ふふ、かわいそうなギルド長。八つ当たりしちゃったのさ」


 翌日は、早くに出立した。昨日の馬には十分な休息を取らせてやれなかったので、新しい馬に替えてもらった。


 北門に向かうと、若い門衛がエルクに手を振った。

「エルクさん、大トカゲの討伐、ありがとうございました。……俺は、僕は……どうすれば強くなれますか? どうすれば強くなってみんなを守れますか? 武術を習ったほうがいいですか?」

「……人を思いやって、その幸せを守りたいと思うなら、もう十分強いと思うよ。武術や魔法は単なる道具だ。幸せを守るために自分がどうすればいいのか、どうしたいのかを考え続ければいいんだ。……でも、一つだけ……死んだら誰も守れない。どうすれば死なずに守れるか考え続けるんだ」

「……考え続ける……はい!」

「うん、じゃあねー!」

 門衛ににっこり笑いかけ、エルクたちはアグナーの街を後にした。


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