アグナー5
大トカゲを探知魔法が捉えた。
「探知魔法に感! 正面! 数は六十五! 内ひとつはボスらしき大きさ! 川の向こう岸の森にいる! 狂鹿に似た魔力! 異常な魔物と認定!」
街道は川の手前の土手で南に折れている。エルクたちはそのまま川岸まで進み、下馬した。
「商館の人は馬を受け取って、街道まで戻って待機! 大鹿の角は集合! 飛翔隊形を作れ!」
大層な名前だが、エルクを中心に全員が丸く輪になって、両隣と手を繋ぐだけだ。重力魔法と風魔法に防壁魔法で全員を宙に浮かせて川を飛び超える。森に続く土手のようなところに降りる。
「六十五頭全部を監視してるよ。大トカゲがわかる?」
「いいえ。森が静かすぎるのはわかりますが、具体的に大トカゲがどこに何頭いるかまではわかりません」
オディーの答えに、皆がうなずいた。
「大トカゲを呼び込むよ。一頭ずつにするから、攻撃を試してみて」
エルクは魔力を伸ばし、大トカゲたちの注目を集めた。大トカゲ一頭ずつに防壁魔法と重力魔法をかけて動きを止める。
「一頭、こちらに向かわせる。まずは足止めの魔法を試そう。詠唱を始めて」
森の下生えがガサガサ音をたてて動き、濃い茶色の塊が出てきた。短い足で低い体勢だが、その体高は人の背よりも高い。口の大きさを見れば、あの、手を食いちぎられた冒険者が、いかに幸運だったのかがわかる。
ラウノが氷魔法を放ち、四本の足を氷で地面に固める。急に足を止められた大トカゲは拘束を解こうともがく。
「ラウノどう? 止めておけそう?」
「……あと数分は……重ねがけしないといけないようです」
「じゃあ、弓を射てみよう。アザレア、オディー、攻撃効果の確認ね。氷の上に出ている身体を狙って」
二本の矢が大トカゲに飛んだが、硬質な音ともに弾かれた。
「通りません」
「硬いねぇ。頭はどう?」
頭部を狙った矢は同じ様に弾かれた。目を狙うように指示を出したが、危機を感じたのか頭を下げられて当たらなかった。
「こりゃ確かに、手ごわいね。致命傷を与えるの時間がかかりそうだ。……切れるかな」
エルクは剣を抜いて近寄っていき、大トカゲに会釈した。
「ごめんね」
そう言って横に回り、人の胴回り以上の首を一太刀で切り落とした。動かなくなった身体に手を置き、黙とうする。
皆を呼んで、剣や槍を試させた。剣は弾かれ、槍も体重をかけて突いても刺さらない。
「浅くしか、傷をつけられません」
「うーん。ちょっと下がって、魔法を試してみよう」
火魔法では少し焦げ、氷の槍も浅く刺さるだけだった。
「火魔法だと結構大規模に燃やすしかないのかな。ちょっと離れて、光魔法を使うよ」
灰色狼と狂鹿を倒した魔法を使ってみたが、体の表面で破裂した。破裂した場所を調べると、表皮は貫いているが次の骨の皮膚で炸裂している。威力を調整し、灰色狼討伐時の三倍ほどの魔力量で貫けた。
「こりゃほんと硬いね。ねえラド、首を切り離したら、買取の値段って下がると思う?」
「……下がるでしょうね……エルク様の様に切れれば、ですが」
「うーん、じゃ外から心臓を握りつぶして……心臓は魔石があるか。脳はどうだ?」
重力の手をイメージして、落ちた頭の脳を触れずに握り潰した。頭を割ってみると脳が潰れて液状になっていた。
「脳は使いみちがある?」
「いえ、一部では食べると聞きますが、あまり大きくないので他に使いみちは聞いたことがありません」
……まあこれが一番やり易いか。これで死ぬかどうかだな。バルブロは脳にダメージを受けても別の頭が生えてきたな。バルブロの魔石が数頭分を混ぜて作った人工魔石とすれば、触手の蛇やもう一つの頭、脳もありか。
「どう? どうしたら倒せる?」
「……一頭を皆で足止めし、少しずつ頭を削れば不可能ではないですが……一度に一頭を長時間かけて、になるでしょう。その間に他から攻撃されたら無理ですね」
アザレアの言葉に皆がうなずいた。
「うん。もし、全部が一度にアグナーの街に襲いかかったら……。防衛しても一頭も倒せずに全滅もあり得たね。やっぱり避難させるのが正解だったね。……よし、灰色狼も狂鹿も僕が倒したところを見せてないから、魔王エルクの実力の一端を見せよう」
……失敗したら恥ずかしいけどね。
重力魔法を緩め、残りを集める。森から川までの土手が、茶色い大トカゲで埋まった所で、再度足止めする。
森の木をなぎ倒し、巨大な一頭が現れる。同じく足止めすると、その場で大トカゲたちのようにもがき、地面が大きくえぐられた。
ラドたちは我知らず一歩下がった。
「「「……!」」」
「いくよ。一頭の脳を握りつぶす」
必要はないのだが、右手をかざし、握り込む。一番手前の一頭が息を吐いてうずくまった。足と尾が動き続け、完全に沈黙するまでしばらくかかった。
「脳を潰せば絶命するが、心臓が止まらないと攻撃が止まらないか。厄介な相手なんだな」
硬い身体に強い生命力。普通に戦っては冒険者の勝ち目は薄い。
「オルガたちならどうするかなぁ。全部を一度に焼き尽くすような火の魔法を、広範囲に使わないと群れを止められないか? ……次いくよ。ボス以外の脳を握りつぶす」
ボス以外の大トカゲが息を吐き、一度に全てが崩れ落ちた。
辺り一面に生き物が地に伏し、脳を潰されながらも手足と尾を動かす姿は、悲しかった。
エルクはボスに近寄り、動けないボスに一礼した。
「ごめんね」
そういうと、手をかざし握り込んだ。「フーッ」と息を吐きボスがうずくまった。
頭に近づき宙に浮かんで、ボスの開いたままの目を閉じてやった。
浮かぶ高さを上げ、両腕を広げて全ての大トカゲに声をかけた。
「良き転生を」




