ベルグン37
ギルド長に面会を申し込み、エルク一人で会議室に通された。
しばらく待っているとギルド長が、ロッテとブリッタを連れて入ってきた。
「ああ、ごめんなさい、ロッテ、ブリッタ。……ギルド長、これからする話はあなた一人に聞いてもらって判断してもらいたいんだ。もし聞けば、命にかかわる危険がある」
驚く三人が顔を見合わせたが、ギルド長が二人を下がらせた。
「さて、カルミア商館に行ったけど……」
カルミア商館で起こった出来事をギルド長に報告した。
「……人が……魔物に? 信じられん!」
「事実だよ。これは僕の推論なんだけど、灰色狼と狂鹿は普通じゃなかったんだよね? 誰かが、魔石を使って操作してるんじゃないかな。確たる証拠はないけどね」
「……そ、そんなこと」
……申し訳ないけど、物証となり得るインガの革袋に魔石と、ペッテルの小瓶は預かるよ。信用できる者がいない。
「バルブロの後ろには聖教会がいるという証言があった。その魔石を持ち込んだのも手術したのも聖教会だと」
「そ、そんな、勇者を助ける聖教会がそんな事を……」
「組織ってさ、一枚岩……いろいろな思惑を持つ者が集まってるよね。必ずしも善の人間ばかりじゃないでしょう?」
「……」
「この情報をどうするかはギルド長、あなたが判断して。あなたが相談できる相手は、伯爵ただ一人だと思うけどね」
冒険者ギルドを出て屋敷に戻り、遅い昼食を皆でとった。ラドについては腸をつなぎ合わせたのでパン粥にさせた。
外傷によるショックが精神的な負担になる事があること、多量に出血したので新鮮な内臓や野菜を柔らかく料理して食べさせること、消化具合に注意することをヴィエラに伝えた。他の者にも今日は休息を取るようにさせた。
実験室で魔石などを詳しく鑑定してみたが、新たなことはわからなかった。
……そもそも、魔物はどうして生まれる? 魔力と魔法、魔物について誰か体系的に研究していないだろうか? 「学院」には研究者がいるのか?
……人間を魔物に変える手段があることを公にしてはどうだ? 多くの人が知れば秘密にしたい者はどうする? ベルグンの街一つを消滅させる相手か?
……僕が魔王の世継ぎと公表したらどうか? 聖教会の動揺を誘えるか? らしいという噂は? 討伐の軍に追われるか?
……情報不足だな。
目立たぬ服に着替えて「流浪の果て」に向かった。馬車を出そうというのを断わって歩いていった。
店に入りゴドたちのテーブルに向かった。
「やあ、みんな」
「エルク。……おやじ、奥に移るぞ」
「皆さん、あんな事になって申し訳ない。せっかく伯爵に呼ばれたのに褒美の言葉一つなかったしね」
「いや、もともと灰色狼と狂鹿はエルク一人の手柄だからな。……一体お前さんの正体は何なんだ?」
「まあ、始末をつけるのに、こっちの身分を誤解してくれた方が都合が良かったからね。僕の執事やメイド、屋敷なんかもそのための仕込みさ」
「私をお嫁さんにしてくれる約束を守ってくれれば、後はどうでもいいわ。あ、でも身分がね、貴妃でもいいわ」
「……いつそんな約束したかなぁ、オルガさん?」
「ふふふ」
「はぁ。オルガに聞きたいことがあって来たんだ。学院について詳しく教えてほしいんだ」
「……あんまり好きな話題じゃないわね」
「学院で図書館を利用したいんだけどどうしたらいい?」
「図書館? 許可のない者は入れないわ。王族か魔術師、聖教会関係者しかだめね。そこいらの貴族でもはいれない。……ああ、学院の学生は入れるわね」
「オルガは学生だったの?」
「……通ってたわ。魔術師の資格を取るまでね。入学するには、王族か貴族、魔術師の推薦が必要で、多額のお金がかかる……」
「学院」には、有資格者が推薦する者か、魔術師または武術師の弟子が入学できる。入学には多額の学費を払う必要がある。他にもこまごま条件があるが、オルガがすべてを知っているわけではなかった。
「とにかく行ってみなくてはだめか。ベルグン伯爵の推薦なら入れるかな?」
「……微妙ね。一応魔王国との国境を守る貴族だから名は売れてるわ。学院がどう判断するかはわからないわね。三男が学生のはずだから、全くだめってことはないでしょう」
「そっか。まあ、推薦状を書かせといて損はないか」
「……書かせとく……」
「エルク、学院は危険なところよ。エルクほど強ければ大丈夫だとは思うけど。卒業できれば、高待遇で各国で就職できるのよ。入学しても才能のある者同士が殺し合うこともある……」
オルガが暗い顔で話した。
「……あそこは欲望が渦巻く……。いやで仕方がなかったわ。魔術師の資格を取るまで我慢して、取れたらさっさと逃げ出したわ……。気をつけるのよ、エルク」
屋敷に戻りラドを見舞った。顔色は悪くはないがエルクを見る目が少し泳いでいたのが気になった。




