ベルグン36
「……ラド、大丈夫か?」
「……はい、もう立てます」
「治癒魔法が完ぺきじゃないかもしれない。出血も多い。少しでもおかしく思ったら言って」
「……はい」
エルクはバルブロが使った陶器の小瓶を探し、アイテムパックにしまうとラドと部屋の外に出た。
ペッテルとインガ、フォルカーが廊下に座らされて、オディーとラウノが剣を突きつけて見張っていた。
「アザレア、モーリッツを探して。商館の全員を玄関ホールに集めさせてね」
「了解しました」
「さて、ペッテル、インガ、フォルカー。バルブロがああなった理由を教えてもらおうか。フォルカーは驚愕していたが、お前たち二人は今と同じ様に胸を押さえただけだったな? 知ってるのだろ?」
インガが服の中から慌てて革袋を取り出して放り投げた。
「……ヒュー……ヒュー……」
「落ち着けインガ。その小袋がどうした?」
「……ヒュー、い、いやよ……あ、あんな化け物……になるなんて聞いていない! いやよ!」
その言葉を聞いてペッテルがかすれ声を出した。大男の身体がしぼんだように見えた。
「……おれ、おれの胸に……バルブロ……と同じ魔石が埋めてある……お、おれは……強くなりたかっただけのに……あんな化け物……魔物になるなんて……」
聞き出した話では、ペッテルは肉体を常人より強くできると、バルブロに説得されて魔石を埋め込まれた。直ぐに自分も埋め込むというバルブロより前に埋め込んだ。懐から出した小瓶の薬を飲めば強化は終了と聞いていたが、飲めずにいた。
インガは若さを取り戻し、老いを避けられると聞いて自分に馴染むまで魔石に魔力を注ぐように革袋を受け取っていた。十分に馴染めば埋め込む手術を受ける予定だった。
「バルブロは……老いを……若さを取り戻せると言ったけど……あれでは」
「じゃあ、ペッテルはバルブロの前に埋め込まれたんだね。実験台だったんだろうね。先にああなってもおかしくなかったね」
「実験台?」
ペッテルは愕然とエルクを見上げた。
ラドの隣にヴィエラが来たので話しかけた。
「ご苦労さま。けが人とかはいない?」
「はい、けがを負ったものは一人もいません」
「良かった。こっちは僕が油断してしまってラドにけがを負わせてしまった。すまない。治療はしたがしばらく無理させないようにしてね」
「エルク様!」
ラドを手で制して続けた。
「もうすぐ領都警備隊が騒動を聞きつけて来るだろう。この後はモーリッツに仲間の選別と拘束をさせる。ラドの仲間たちはそれを見届けたら姿を見せないようにしていいよ」
「はい、かしこまりました」
インガの革袋とペッテルの小瓶を鑑定してみた。
「ふーん、この革袋は魔力を遮断する処理がされてるね。ラド、見たことある?」
「……はい、魔石や魔力鉱を運ぶ容器に似ています」
「ああ、魔力を遮れないといけないのか。で、この小瓶の中身は……魔力の液体? どんな技術なのか。魔力が液体化するまで圧縮して高濃度にしてるってことか。で、これの入手先は? 埋め込む手術はだれがやった?」
インガは首を振り、ペッテルがぼそぼそと答えた。
「バルブロは……カルミア商会は……後ろに……聖教会がいる、いました。バルブロは聖教会から指示を受けていました。ベルグンの聖教会は機能していないが……定期的に他所から人が来て、魔石も手術もその者たちが持ち込んで行いました」
「おまえは、同じ手先なのだろう? バルブロと一緒にこの街に来たんだったよね?」
「いや! 俺は王都で雇われて来たんだ。バルブロがどこから来たかは知らない」
「エルク様、玄関ホールに集めました。これがモーリッツです」
アザレアが長身で金髪の中年の男を連れて戻ってきた。モーリッツはエルクの前に来ると膝をついて頭を下げた。
「モーリッツです。下の部下は全員が、バルブロに、好きで従ったわけではありません。もちろん悪党たちです。ですが、どうか彼らの命ばかりはお助けください」
「うん、いいよ。その選定をして欲しかったんだ。バルブロ側とモーリッツ側に分けて、バルブロ側は拘束してね」
「はい、はい、ありがとうございます」
モーリッツが一階に降りたところで、アザレアたちに次の指示を出した。
「この三人を裸にしてこの芋用の大袋を着せて。それとこの首枷をつけて鎖でつないでね」
エルクはアイテムパックから粗い布の袋と革紐、木製の首枷、鎖を取り出した。
階下が騒がしくなったのでラドと二人で降りていった。
「これは何の騒ぎだ! なぜこいつらは拘束されている!」
領都警備隊の兵士がモーリッツを問い詰めていた。
「兵士さん、兵士さんって隊長さん?」
「なんだ、おまえは? どこの子ど……ひょっと……して、エルク?」
「そだよ。隊長さんなの? 違うなら隊長さん呼んで」
「は、はい」
領都警備隊の隊長が来ると羊皮紙を渡した。
「そこにある通り命令に従いなさい。この拘束された男たちを商館の外に並ばせて。野次馬が私刑をしないようにしてね。それと二階に罪人の死体がある。人殺しや強盗なんかと同じ様に始末してね」
「はっ!」
二階から鎖に繋がれた三人がアザレアに引き連れられて降りてきた。首枷は穴が三つ空けられ頭の横に両手を掲げた形だ。
「そうそう、これをつけなきゃ様にならないねぇ」
そう言ってエルクはアイテムパックから革紐のついた板を取り出した。その板には名前と「私は酷いことをした罪人です」と文字が焼き付けられていた。三人の首にぶら下げると二枚の板が余った。
「余ったねぇ……」
エルクは首枷をつけられた三人と、ラドたちだけに聞こえるようにした。
「バルブロの件が漏れれば、お前たちはその生命を狙われるだろう。あれだけのことだ、秘密を守ろうとする者は決して諦めない。漏れれば、だれが秘密を知っているか、拷問にかけられるだろう。だが、知っている者の名をすべて吐いても決して信用はされない。まだいるだろうと拷問にかけられ続けるだろう」
エルクは三人を見た。ペッテルに向かって忠告した。
「魔石はお前の心臓と一体化している。取り出すことは不可能だ。もし魔力を流されればバルブロと同じになる」
目を伏せるペッテルからインガとフォルカーに目を向ける。
「お前たち二人は、魔石はないが、捕まれば実験台として魔石を埋め込まれるだろう。秘密が漏れないよう、拷問者と暗殺者が来ないよう願って、おびえて一生をすごせ。それは罰だ。……これから東門の広場に晒し者にする。自分の罪を告白しろ。……もしかしたら、すべてを告白すれば死刑にしてもらえるかもな。お前たちにとってそれは救いかもしれない」
全員で商館の外に出た。大勢の人が商館を取り巻いて何事かと話し、騒々しかった。振り返り商館を見ると、壁や窓が穴だらけだった。
「あらら! ひどいねぇー。どうして穴だらけなんだろうねー」
「「「……」」」
「ねえ、モーリッツ、ここまだ使う?」
「いいえ。カルミアの匂いは全て消します。私たちは元の名に戻して、場所を変えます」
「そう、じゃあっと」
エルクは二枚の板を玄関の扉に打ち付けた。下がって出来具合と商館を眺めた後、振り向いて集まっている大勢の人々に語りだした。
「聞け! 静かにして、話を聞け!」
ルキフェの声をごくごく僅かに混ぜると、声を出すものがいなくなった。
「ここ、カルミア商館は悪事を働くバルブロが作った組織の根城だった。伯爵の命で捕縛に来た我らに、あろうことか秘密裏に持ち込んだ魔物をけしかけた! 魔物は銅証冒険者の僕、エルクが討伐した! バルブロも攻撃をしてきたため、僕が殺した! ここにいる者たちはバルブロと同じく罪を犯した者たちだ。これより東門の広場にて晒し者にし、その罪を告白させる!」
東門広場に一党を引きすえた。
領都警備隊に見物人に私刑をさせないこと、告白を記録し余罪を追求すること、伯爵が自ら裁定をするように伝えることを言いおいて、冒険者ギルドに向かった。




