表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/104

ベルグン33


 エルクたちが通された部屋は正面が玉座のように高くなっており、床には絨毯が敷き詰められた大きな部屋だった。壁際には帯剣した兵士たちが並んでいる。

 こちらを見下ろして中央に老人、老人の右に中年に差し掛かる男、左に筋肉質の身体を誇示する服装の男の三人が座っている。

 両脇には数人の中年から老年の男たちが立っていた。演壇の横には羊皮紙が積み上がった机があり文官らしき者が座っていた。


 ギルド長は演壇の下まで行き、ベルグン伯爵を見上げた。

「ベルグン伯爵、お呼びになりました冒険者たちを連れてまいりました」

「ホルガー、ごくろうだった。紹介をしてくれるか?」

「はい。この者が、銅証冒険者のエルクでございます、閣下」

 ベルグン伯爵は白髪の老人で骨太そうだが頬から首にかけて脂肪がシワとなって垂れ下がり、顔色が悪い。「衰えた老人」を絵に描いたようだった。


 エルクは右手を胸に当て、左腕を脇に伸ばして優雅にお辞儀した。

「ベルグン伯爵、銅証冒険者エルクです。お見知りおきください」


 先ほどの官吏が伯爵の後ろにまわり耳打ちをした。

「なにっ!」

 伯爵が大声を出して立ち上がった。何事かと皆伯爵を見たが、伯爵はエルクを見つめたままだった。

「お気になさらずに、僕は銅証の冒険者です、閣下」

「あ、あ、いや、閣下などと呼ばなくても、よ、ろ……。今日は皆、敬称を忘れよ。ま、魔物の異常事態だ……今日は尊称を忘れることとする。わ、私はベルグン伯爵、ミヒェル・ベルグンでございます。こ、これは、た、立て。嫡男のエグモントと次男のフリッツ。こちらの者たちは……」

 息子や家臣を自ら紹介する伯爵を見て、周りの人間が目をむいた。

 伯爵が立ち上がったままなので、エルクは声をかけた。

「どうぞ、お掛けください」


「ホ、ホルガー。続けて紹介してくれ」

 ギルド長は全員を紹介した。ラドミールをエルクの執事と紹介したので、伯爵以外はますます困惑したようだった。

「ホルガー、ごくろうだった。ヨルゲン、進めてくれ」

「はい、閣下。では、詳細を聞きましょう」


「灰色狼はゴドたちが、狂鹿も同じくゴドたち八名が討伐しました」

「それは、報告書を読みました。ですが、詳細が報告されておりません。わからないことがあります。灰色狼も狂鹿も目立った傷がなく、脳が焼かれておりました。私が自分で検分いたしました。どうやって倒したのでしょうか?」

「銅証冒険者のエルクさんが魔法で倒しました」

「ですが、魔術師ギルドのマルニクスはそのような魔法は存在しないといっております。そうですね、マルニクス」

「はい、ヨルゲン様。傷がなく、脳だけを焼く魔法など聞いたこともありません。なにか、禁制の毒のようなものを使ったのではないかと思われます」

 伯爵が魔術師ギルドの事務長と紹介した長身痩躯の中年が答えた。


「ギルド長、冒険者が禁制の毒を使うなど許されません」

「いえ、エルクさんの魔法です。職員の多くがその魔法を確認しています」

「……さらに不思議なことがあります。灰色狼も狂鹿もすべてが巨体です。それが全頭冒険者ギルドに運び込まれました。すべて死んだばかりの状態で四肢がかけることもなくです」

「……エルクさん、答えていただけませんか?」


「討伐は魔法。魔物の運搬はアイテムパックです」

「魔法ではないと魔術師が言っていますが。どうやって倒したのです?」

「ですから討伐は魔法で。魔物の運搬はアイテムパックだとお答えしています」

「そんな魔法は聞いたこともない! わ、私は認めない! おまえ、どうやって倒した!」

 マルニクスが大声で聞いてきた。


「どうやら、マルニクスさんが魔法と認めないものは、魔法ではないようですね。ではどうやって魔物を倒したのか、僕にも答えようがありませんね」

「だが、倒したのはおまえで間違いないのだろう? 運んだのも」

 フリッツと紹介された筋肉質の男が聞いてきた。

「はい、私です」

「よし! おまえ! 討伐のほうびに、約束通り我が領国軍の一員にしてやる。魔術師部隊で、今日から俺の部下だ。そのアイテムパックは領国軍で使うものとする! おい、そこの兵、アイテムパックを受け取れ!」


 壁際にいた兵士が手を差し出してエルクに近寄ってきた。

「はぁ? 理解に苦しむなぁ」

 するりと兵士をかわすと伸ばした手を取り、背中にひねりあげた。壁際の兵士たちがエルクに向かって一歩近寄ってきた。


「あのさぁ、まぁ、ベルグン伯爵はここの領主だというから、ギルド長に合わせてそれなりに応対したけど。僕のことをさっきから『おまえ』『おまえ』って本当に失礼な奴だ。礼儀を知らないの?」

「なに!」

「それとさ、『約束』ってなんなの? 初めて会うおまえなんかと、何も約束した覚えはないねぇ」

「なんだと! 領国軍に入れてやる代わりにアイテムパックを差し出すよう言ったはずだ!」

「誰に?」

「……マルニクス! 命令を出したのではなかったのか!」

 フリッツがマルニクスを見て憎々しげに聞いた。

「え、は、はい、閣下、それが、何度、呼んでも、こいつは出頭しないので……魔術師のくせにギルドの命令に従わないのです!」

「自分がギルドの命令に従わないのに、礼儀を語るとは! むっ、おまえ! おまえはなぜ帯剣している!」

 フリッツが左脇に帯剣しているの気がついて吠えた。

「はい?」

「なぜ、その短剣を預けない! 俺が領国軍で鍛え直して命令に従うことを教えてやる! アイテムパックと一緒に取り上げろ!」

「……ねえ、何言ってるの、この人。ギルドの命令に従わなかったことってないよね、ギルド長?」

「ああ、ないな」


 エルクは伯爵を見つめた。

「フリッツ、やめよ。無礼な態度は許さん」

「父上、先ほどの話の通り、こいつは領国軍に入れる。俺が礼儀を教えてやる!」

「フリッツ!」

「お前たち、いいから取り上げろ!」

 兵士を押さえ込んでいるエルクに、兵士たちが手を伸ばしてきた。

「伯爵、あなたではバカ息子を止められないようですね」


 押さえている兵士を近づく者たちに向かって放り投げ、後ろにいるゴドたちに、「目を閉じて!」と素早く伝えた。

 短剣を鞘ごと右手で抜き、伯爵とフリッツに向かって水平に掲げて見せた。

「これは、我が身を証す宝剣。我に抜かせたのはおまえであることを忘れるな、フリッツ!」

 エルクは左手で柄を握り、魔力を流した。


 白く輝く光が鞘から漏れてきた。一気に抜いて左手を掲げる。宝剣からあふれる光が部屋を埋め尽くし、その場にいるものすべてが、目を押さえた。


 エルクは光を抑えて皆が目を開けるのを待った。宝剣は柔らかな白い光を刀身にまとっていた。


「白い光、魔剣か?」

「……せ、聖剣?」

「……聖剣はその身に聖なる白い光をまとうという……」

「「「聖剣!」」」

「……ゆ、勇者、様?」

「「「勇者様!」」」


「……はぁ、王子様の次は……勇者様ときた……」

「……エルクだしね……」

 ゴドとオルガの声が聞こえてきた。


 ……魔王なんだけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ