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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン29


 翌朝、朝食を済ませて借りる屋敷を見に行った。

 ラドが用意した四頭立ての馬車は昨日のものより大型で六人が十分に乗れた。香油を使っているのか、ほのかにいい匂いがする。


 領主館に向かう通りを行き、領主の家臣である下級騎士、郷士たちの屋敷街をすぎて、裕福な商人や男爵が住む辺りに屋敷があった。


 土塁と石、漆喰で作られた塀が続き、大きな木製の門で止まる。ラドが門衛に合図して門を開けさせて中に入った。屋敷は石と漆喰の造りで二階建ての建物だった。傷んだ様子もなく、空き屋敷とは思えない。広い馬車回しがある玄関で降りた。


 ラドの案内で屋敷の中を見て回り、広い中庭と馬小屋も確認した。中庭は建物が目隠しになって、近隣の建物からは見えない。

「ラド。ここは人が住んでいるの?」

「いえ、いまは管理する使用人たちがいるだけです。昨日からいつでも使えるように準備させていました。裕福な商人のもので、自身はノルフェ王国王都に住んでおります。以前から必要ならば住んでいいと許しを頂いておりました」

「ラドが選んだってことは、使用人の方たちの信用度は高いってことかな?」

「……はい、全員が魔族です。信頼できる者たちです。魔族であることはご内密にお願いします」

「ラド、ここはいつから移ってこられる?」

「今日、今からでも大丈夫でございます」

「……そう、費用とかは言ってね。会議に使える部屋を用意してもらえるかな。まずはアザレアたち三人と話したいんだ。済まないがラドとヴィエラは遠慮してくれるかな」

「はい、了解いたしました。ご用意いたします」


 応接間にアザレア、オディー、ラウノに座ってもらい、ラドとヴィエラは飲み物を給仕した後で退室した。


 ……ラドの魔道具の仕組みはわからないが、似たようなことが出来ないか試してみよう。


 声が伝わらないように部屋の壁、床、天井に魔力の薄い膜を張る。空気や物質を通じて振動が伝わらないようにイメージしてみた。息ができなくならないよう、無音の時は空気を循環させる。


 ……ラドならきっと盗聴してるだろうな。


「魔王国からの急ぎ旅、ご苦労さま。昨夜はよく休めたかな。……これから、三人には協力してもらわなきゃならないが、アザレアとは数時間、二人とは昨日会ったばかりだ。……最初にしなければならないのは、君たちが疑問に思っていること、僕が本当に魔王かと言うことに答えることなんだが」

 アザレアはうなずき、二人はエルクを見つめ、次の言葉を待った。


「だが、ルキフェの姿を呼び出し、命令を伝えることは出来るが、それは人間の街の中では目立つ。とても難しい。魔王復活と判断されて、魔王国に討伐軍が向かう恐れがある」

 三人がうなずいた。

「アザレア、君は前に僕とあった時どう思った? 正直なところを聞かせてくれないか?」

「……ガラン殿がエルク様に接する態度、魔王城宝物庫、魔法の数々、ルキフェ様のお話、エルク様が住んでおられた世界の話。魔王様と信じないわけにはいきませんでした。オディーとラウノにはあの時何が起きたのか伝えています。ガラン殿からもクラレンスからも、ブリアレンからも」

「うん。でもすぐには信じられないよね? 僕もルキフェと初めてあった時は彼が言うことを信じられなかった。でも、それが当たり前さ。初めてあった人から聞いたことをそのまま信じるほうがおかしい」

 三人は不思議そうな顔をした。


「僕のもとで魔王国のために働いてほしいけど、それは国という目に見えないもののためじゃない。そこで生きる人たちのためだ。僕といて、魔王なのかを自分の目で見て判断してほしい。もし信用に値しないと思ったらはっきり言ってほしい。僕が間違っていると思ったら『間違っている』と言ってほしい。帰るのは自由だ、止めはしない」

「エルク様、私たちは覚悟を決めて来ました。ご心配には及びません」

「ああ、わかってるよ。でも信じて行うのと、疑問に思いながら行うのでは結果が違ってくるんだ。そこは今後の僕をみて信じてもらうしかない。ルキフェの姿を見せられるが、危険なんだ。そう、見たら狂うかもしれないし」


 エルクはアザレアたちと別れてからのことをかいつまんで話した。エルクの設定や目的なども話した。

「ラドミールたちの正体は不明だが、その知識は、僕が作りたいと思っている魔王国中央情報局に必要な知識だ。どんなことを学べばよいかはその都度教えるが、彼らを手本としてほしい。彼らの言動を注意深く観察するように」

「了解いたしました」

「ところで、アザレアたちはどうやって国境を抜けて街に入った? 身分をどう証明したかだが」

「魔王国から魔力鉱を運ぶ商人の護衛としてきました。商人の身分証明で通りました」

「うん。今後、他の国にも行く予定だからいつも商人と一緒とはいかない。冒険者の登録をしてもらう。首かせになる危険もあるが、旅をするにはよいと思う。今日これから登録しよう」

 エルクが簡単に冒険者について説明し、ラドたちを呼び入れた。


「ラド、待たせたね。これから冒険者ギルドに三人を登録しに行くよ。魔物討伐で訓練をしようと思ってるんだけど、ラドとヴィエラも登録する?」

「……私とヴィエラは……別の人間として銅証を持っております。魔力情報の開示は都合がよくありません」

「個人が特定できちゃうんだったね。僕がパーティを作って、参加してもらおうと思ったけど」

「執事とメイドでお側にいます」

「それと『宵の窓辺』は今日引き払っても大丈夫かな?」

「準備は出来ていますので、今夜から滞在できます。宿にはエルク様が行かれますか?」

「うん、一度顔を見せとくよ。じゃ出発だ。今後のことは夕食を取りながら話そう」


 冒険者ギルドで三人の登録をお願いした。

「ブリッタさん、みんな問題なく登録できた?」

「はい。みなさん、初心者の子供たちとは違い、武装に対する知識も魔力値も高く、木証ではなく銅証でもおかしくはありません。魔石収集の条件さえ満たせばすぐにでも昇格試験の資格がとれます」

「そう、よかった。ブリッタさんありがとね。で、みんなでパーティを組もうと思ってるんだ。審査が必要なんだよね?」


 ブリッタからパーティについて説明を受けた。

「エルクさんがパーティをお作りになるのは問題ありません。階級の違う木証を加入させるには簡単な審査がありますが、リーダーの信用調査ですので問題はないでしょう。この用紙にパーティ名、リーダー名、メンバー名と階級を記入してください」

「はーい。あ、そうそう、今日から宿替えをするんだ。えーと場所は……ラド、あの屋敷はなんと説明すればいい?」

「はい、ボルイェ商会の会頭邸です」

「だそうです。パーティみんなもそこに住むよ」

「……はい、わかりました。ではエルクさんのパーティ『大鹿の角』のホームですね。この前倒した狂鹿をパーティ名にするのですね」

「……いや、鹿の種類がちがうんだ。狂鹿の角とは違ってヘラのような角を持つ大型の鹿のことなんだ」


 登録を済ませ、宿を移ることを告げに「宵の窓辺」に行った。

「エルク様、昼に魔術師ギルドから使いの方が見えてこの手紙を置いていかれました」

「そう、ありがとう。どれどれ。……うーん、この人たちどうかしてるね。昼に届けて昼に来いって」


 ……時間を守らなかったと、責めるんだろうな。こちらが行く義理はないってことをわかってないのか、勘違いしてるのか。何を考えてるんだか。


「支配人さん、使いの人が来た時間は、今日の昼なんだね?」

「はい、昼の鐘の後でございました」

「わかりました。支配人さん、ボルイェ商会の会頭邸って所を借りることになったので、今夜からそっちに移ります。ここは本当にいい宿でした」

「そうでございますか、それは残念です。ですが、頂いた宿代はお返しできないのですが」

「うん、仕方ないね。それともし魔術師ギルドから人が来ても、引き払ったと言って手紙は受け取らないでください。移った場所はわからないと」

「了解いたしました」


 リリーとハイディに事情を話し、馬や荷物は後で取りにこさせると別れを告げた。


「ラド、いくつか買い物をしたい。大量の布、革、金属、木材とか。それと『羽』って靴屋にブーツを取りに行きたい」

「かしこまりました。革と金属は『蛇の牙』がよろしいでしょう」

「それと魔術師ギルドについての情報も欲しいかな。高圧的なのは単なる無能なのか、なにか意図があるのか気になるね」

「それでしたら、調べてございます。使いを寄越した者は小物ですが、指示を出しているのは私たちの目標と同じところです。昨日の冒険者ギルドでの件も同じところにつながっていました」

「……ねえ、ラド。ラドこそ何者なの? って聞きたいよ。そつがなくて万能、便利過ぎるよ。やっぱり僕に雇われない? あ、金貨と宝石のお金じゃ足りないね。稼がないとなぁ」

 

 ブーツを受け取り、買い物をして屋敷に戻った。どこでも大量の商品がアイテムパックに収められるのに驚かれた。


 夕食は屋敷の食堂で取った。専属の料理人がいて、子羊のグリルは美味しかった。ボルイェ会頭のワインも出してくれた。南の国から輸入され、ノルフェ王国では高額な飲み物になるそうだ。


 食事を済ませた後で、応接室を使って会議をする。これまでの事件や相関図、行動計画を三人に説明してもらった。説明役はヴィエラにお願いした。

 始まる前にこの会議自体が教育の一環であり、説明や質疑応答の仕方も覚えてほしいと伝えた。


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