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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン28


 服屋を出て馬車で「蛇の牙」に向かった。

「ラド、ギルドに回ってくれない? どうやら待ち人来る、だ」


 冒険者ギルドではちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。ブリッタの前で、女性と二人の連れにフーゴが絡んでいるらしい。

「ラド、あのフーゴってやつの情報はある?」

「はい、裏組織からの仕事を請け負っていると報告が入っています」

「そう、飛んで火にいるなんだ。手を出さないでね」


「私は忙しい、お前などに付き合っている暇はない」

「いやー、そう言わずにさ、エルクのところに行くなら俺が案内してやるからよ」

「フーゴ、迷惑かけないで」

「だまれ、おまえに迷惑はかけてない。用があるのは、こっちのエルフだ」

「いやー、ゴミも懲りないねぇ」

 そう言って、エルクがアザレアとフーゴの間に割って入った。

「エルク様!」

「てめえ!」

「やあブリッタさん。彼女が待ってた人なんだ、ありがとう。アザレアさん、よく来たね。さあ、行こうか」

「て、てめえ、無視するな!」

「あれ? ゴミに用はないよぉ」

 フーゴにちらりと視線を向けると、エルクは背を向けてアザレアに向き合った。


 ガキンッ


 と、エルクの背中から音がした。

「キャー!」

「「エルク様!」」

 ブリッタが悲鳴を上げ、アザレアとラドが声を上げる。エルクの背中にフーゴが短剣を突き立てた。エルクの魔法で、腕も短剣も突き立てた格好のまま動かせずにいる。


「あらら、この短剣はなにかなぁ。刃が黒く濡れてるのはなんだろねぇ?」

 エルクは振り向いて、悲鳴を聞いて集まった職員と冒険者に問いかける。


「……あの色、毒か?」

「ありゃ黒蛇毒の色じゃないか? かすり傷でも死ぬぞ!」

「禁じられてるやつだ。持ってるだけで罪人だぞ」


 フーゴは短剣を動かそうとするがピクリとも動かない。

「ふーん、怖い毒の剣を、後ろから突き刺したんだぁ。言い訳できない殺人未遂だねぇ。触るのも危ないから、こうするね」

 エルクは横に動いて剣を抜いた。フーゴは毒剣を突き出したまま動けない。


「しかたないよねぇ」

 そう言うとフーゴの動かない腕に向けて剣を振りかぶる。

「このへんかなぁ」

「や、やめてくれ!」

 何をするつもりなのかに気づいたフーゴが悲鳴のような声を上げる。

「やめてほしい? やめるわけないじゃん」

「ヒッ!」

 剣を振り下ろしたが、腕を切断せずに腕の上で止まった。


「ねえ、やめてほしいのならさ、教えてくれない? 誰に言われて僕を狙ったのか? 毒剣を用意してるんだから、計画的に僕を狙ったよね?」

 フーゴは首を横に振った。冒険者たちも職員も、固唾を飲んで見守った。

「い、言えない。言ったら殺される」

「へぇー、言わなくても殺される状況なんだけどなぁ。この腕いらないんだね」

 再び剣を振りかぶり、振り下ろす。また腕の上で止めた。


「もう、剣を離せば腕は自由になるよ」

 それを聞いたフーゴは剣から手を話してへたり込んだ。宙に浮いている毒剣を持って防壁を消し、受付カウンターに静かに置く。自分から離れたところに置かれたが、ブリッタは毒剣から目が離せなかった。


 エルクは剣をフーゴの鼻先に突きつけた。にっこり笑うと大きく振りかぶった。

「今度は止めないかもね」

 見上げるフーゴも周りも誰もその剣の速さが見えなかった。次の瞬間には見上げる額に剣があった。

「へ?」

「自分の頭の中に何が入っているか見たくない? 縦じゃなくて横に切ってみたほうがわかりやすいかなぁ」


 フーゴから尿の匂いがしてきた。

「あら、漏らしちゃった? こんなに人が見てるのに恥ずかしいねぇ」

 エルクは魔力の膜でフーゴと自分を包んで言った。

「外の人間には声が聞こえない。いえ! 誰に頼まれた!」

 額の剣に目を釘付けにしたまま、か細い声が答えた。

「……カ、カルミアのペ、ペッテルに、た、たのまれ、ました……」

「君はそのペッテルとどんな関係なの?」

「……し、仕事を依頼されます。い、いろいろ、し、始末をしてます」

「そのペッテルってのもお前に仕事を頼むなんて。よっぽど人材不足か、抜けてるねぇ」


 魔力の膜を解除し納剣して、職員に笑いかけた。

「あーあ、こんなに床を汚しちゃって。掃除する人のことも考えてほしいよね。後は任せていい? 領都警備隊を呼んで。そうそう、あの短剣の毒って、簡単に手に入るの?」

「……いや、危なすぎて魔物討伐にも使えんし、そもそも禁制品で、おいそれとは入手出来るものじゃない。裏ではかなり高額で取引されている」

 職員が答えてくれた。

「ふーん。どうやって手に入れたんだろうね? 領都警備隊が興味を持ちそうじゃない? そうそう、きっと鞘にも毒が付いてるよね。他にも危ないものを持ってるかもしれないから、捕縛は注意してね」


 エルクは、にこにこと笑顔でアザレアのもとに戻った。

「アザレアさん、お二人も、あらためて、よく来たね。待ってたよ」

「はい、エルク様」


『二人も念話は使える?』

『『はい』』

『僕の正体は内緒にして、話を合わせてね』

『『『わかりました、エルク様』』』

「僕のことは呼び捨てでいいよ」

「はい、了解しました。私のこともアザレアと」


「ブリッタさん、警備隊の詰め所は近いの?」

「……門にあるのですぐ来ると思います。警備隊の事情聴取に備えてお待ちいただけますか?」

「うん、食堂にいるよ。みんなも行こう」


 食堂で飲み物を飲みながら紹介した。

「アザレア、こちらはラドミール、押しかけの執事さん。ラドミール、彼女はアザレア、ジュストさんと出会う前に知り合って、一緒に旅をする約束をしたんだ。こちらの二人は僕も初めてかな」

「オディーと申します」

「ラウノと申します」

「ラドミールです。エルク様の執事を務めさせていただいています。皆様よろしくお願いいたします」

 二人は中肉中背、オディーは黒髪で目の色は灰色。耳の形からエルフだろう。ラウノは黒髪黒目、整った顔をしているが、人混みでは目立たなくなりそうな地味な感じだ。


 警備隊の兵士が来たので職員が事情を説明する。

 エルクも呼ばれ、事情聴取を受けた。フーゴは縛られ連行されていった。

 ギルド内は、後から来た者たちに事の顛末を話したり、エルクたちを見て話す声で騒然としていた。


 エルクはブリッタのところに行くと、小ぶりの革袋を取り出した。

「ブリッタさん、これ迷惑賃ね。掃除する人や職員さんみんなの差し入れにして」

「エルクさん、お気遣いありがとう。毒だなんて。エルクさん、気をつけてね」

「うん、気をつけるよ。ありがと」


 アザレアは馬車に乗り、オディーとラウノは騎乗し、予定を変更して「宵の窓辺」に向かった。


「ねえ、ラド、家の話を進めないといけないね。馬小屋の事は考えてなかったなぁ」

「知り合いの商人が持っている屋敷を確認させています。馬小屋もあります。急がせましょう」

「うん。アザレア、着くのはもう少し後かと思ったよ。無理したね?」

「いえ、それほどではありません」


……この前より鋭さがあるかな。やせた? 警戒と緊張、馬での旅じゃ仕方ないか。


「今、屋敷を用意しようとラドにお願いしているところなんだ。今向かってる宿はいいところだけどね」


 「宵の窓辺」でリリーに三人の部屋をお願いした。男性二人は二人部屋になった。食堂で昼を済ませると体を休めるよう伝え、エルクは部屋に届いていた服を広げた。


 ……この格好は困ったものだ。やっぱり自分で作り変えよう。どんなのがいいか。


 部屋にノックがあり、ラドが盆に手紙を載せて立っていた。

「エルク様、魔術師ギルドの使いの方が見えてこれをお渡しするようにと」

「手紙? ああ呼出状とか言われてたっけ。入ってラド」


 手紙は高圧的で事務的な内容で、今日の昼に魔術師ギルドに出頭せよとあった。ラドに手紙を渡して内容を確認してもらう。

「ねえラド、これって今持ってきたんだよね? 今日の昼ってこれから?」

「はい、今持ってきたと宿から受け取りました。……昼はもう過ぎていますね」

「それに、その内容。出頭せよって失礼だね。理由も何も書いていないし。魔術師ギルドってこういう失礼な組織なの?」

「いえ、礼儀を重んじ、魔術を極める者たちの集まりです。出頭などと強制力を発揮できるのは登録している魔術師に対してだけのはずです。ベルグンのギルド長は高齢のため事務長が業務を代行していると聞いています」

「あの相関図には組織としてしか、出てこなかったよね」

「はい、ベルグンの街では管理者が魔術師に必要な事務手続きをするだけですので、特に関心を向けるべき人物はいませんでした」

「そう。じゃ、無視でいいか。後で文句を言われないように届けられた時間なんか記録しておいてね」

「はい」

「そうだ、ついでで悪いけど、これ、昨日話した古い金貨と宝石だよ。お願いね」

 大きな革袋を取り出して、ラドに渡した。

「はい、了解いたしました。確認させていただきます」

 そう言うとラドはテーブルに中身を出した。

「……この金貨は見たことがありませんね。宝石はかなり大きい。後ほど目録をお持ちします。換金と屋敷の件でしばらく外出をさせていただきます。御用はヴィエラにお申しつけください」

「うん」


 午後は夕食まで買ってきた服を並べてあれこれ考えて過ごした。買った服は贅沢で豪勢。


 ……布と刺繍を大量に使うのが高い身分や金持ちであることの証明なのだろう。派手でもいいけど、好みというものがあるよね……。


 皆で夕食を取り、食後のお茶では、くつろいだ雰囲気でアザレアたちの旅の様子が聞けた。他にも話しておきたいことはあったが、アザレアたちの休息を優先して早く休むようにさせた。


 ラドが報告してきた。

「屋敷を借りることが出来ましたので、明日にはご案内いたします。問題がなければそのまま明日から使えます。金貨と宝石は希少で珍しいと、宝石商が買い取りました。王都とフラゼッタ王国の顧客にも売りたいのでもっとないかと聞かれました。お渡しはお部屋に戻られてからにいたしますか?」

「リリーに迷惑はかけたくないから部屋にしよう。それと、三人には冒険者ギルドで木証を取らせて、パーティを組もうと思っているんだ。鉄証に昇格させたら、ベルグンを離れたい。それまでに、片付けたいな」

「了解いたしました」


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