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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン27


 夜明け前に起き出し、ジュストの商館に向かった。

 商館では人々が静かに動き回っていた。マイヤたちの馬車は準備が済んでいるらしく出発を待っている。


「オッシ、マイヤ、ヘリ、おはよう」

 御者台に三人に声をかけた。

「エルク! おはよう!」

「エルク、ヘリとトピを助けてくれてありがとう」

 オッシからお礼を言われた。

「たまたま、通りかかって幸運だったんだよ」

 黙礼するラドを見てマイヤがうなずいた。

「あんたやっぱり貴族だったんだってね?」

「トピからラドのことを聞いたのかな。こっちは押しかけ執事のラドだよ」

 そう言うと、ヘリの近くに行った。

「ヘリ。もっと早く渡すつもりだったんだけどね、これ使ってね」 

 そう言って巾着袋をヘリに渡した。

「あたしに? もらっていいの? エルク、ありがとう。大切にする」

 ヘリは巾着袋の刺繍を見つめて胸に抱きしめて答えた。

「マイヤにもヘリとおそろいで。ヘリよりちょっと小さいけどね」

 トピが馬車の後ろから現れたので、手を上げて挨拶を交わす。

「トピに剣をありがとう。なんかさ、この子ったら昨日からやけに素直なんだ。エルクのおかげみたいだね、ありがとう」


 明け始めた光の中を馬車について歩き、街の門まで見送った。

「じゃあみんな、元気でね!」

「ああ、また会うまで、エルクも元気でね!」


「ヘリ、エルクは本物の貴族だったんだねぇ」

「本物の貴族? じゃあ、ほんとの王子様だったんだ」

 マイヤの言葉に、答えるヘリの声が聞こえてきたが、どこか悲しそうな声だった。



 門からギルドに向かうと、依頼を受ける冒険者で入り口までにぎわっていた。

「人が多いか。また後で来ようかな」

「エルク! おーい! エルク!」

 呼ぶ声に石段の途中で足を止めて振り返ると人混みをかき分けるようにゴドが出てきた。

「ゴド、おはよう!」

「おはよう。聞いたか? 領主に呼ばれるかもしれんって」

「うん、昨日ロッテから聞いたよ」

「ああ、俺たちとダーガも呼ばれるらしい。困ったもんだぜ」

「ゴドったらねぇ、その話聞いた時に、なんて言ったと思う? 『来ていく服がない!』って、まるで女の子みたいに。おはよう、エルク」

 後ろから追いついてきたオルガがゴドをからかった。

「おはよう、オルガ。そんなに服が重要なの? ラドも気にしてさぁ。この服でいいと思うんだけど」

「まあ、エルクは元がいいから何着ても似合うけど。ゴドはねぇ。重要かって話だけど、貴族の中には、口うるさいのがいてね、汚い格好だと『無礼だ!』って牢にぶち込むのもいるんだよ」

「はぁ、やっぱり用意しないとだめか。冒険者の正装ってどんなの?」

「あら、私たちの正装は魔物討伐用の服装よ。まあ、大抵が破れを直した跡や血と土の汚れでみすぼらしいから、新しくしないとだめね」

「俺は、子供が生まれるんだ! 余分な金はない」

「はいはい、今回は、私たちはエルクのお供だから、ゴドは貸服でいいわ。今話題のエルクを品定めしてやるってことになると思うから、あなたはキチンとした格好が必要ね」

「エルク様、朝一番にと、服屋に予約を入れてございますが、まだ少しはようございます。こちらに馬車をよこすように手配しております」

「はあ、気が重い」


 ゴドたちと別れてラドの手配した馬車で領主館を見に行くことにした。


 門の西の大通りが領主館に通じている。

「ラド、あの道具、使える?」

「はい。すでに使っております」

「うん、ありがとう。でも、昨日の今日でよく馬車が借りられたね。それも乗り心地がギルドの馬車より良い」

「御者や馬車屋には知り合いが多ございます」

「うかつに馬車では話ができないってことか」

「はい。様々なことが起こります。口の固い御者が重宝がられます」

「そう。ヘリにはどのくらい?」

「ジュスト様にお願いして御者と護衛の中に三名ほどつけました。ジュスト様には計画の変更は伝えていません」

「うん。ねえ、昨日の復習。もし、ラドが僕からアイテムパックを奪うとしたら、どうする?」

「……力ずくでは無理ですね。すりも無理でしょう。毒を盛って奪うか、あるいは人質を取って脅しとるか、エルク様を引き込むか、ですね」

「うん、ヘリはそれだった。そういう趣味って目的もあったけど。食べ物の毒は大丈夫。針、短剣の近距離の直接攻撃も心配はない。仕掛け針、吹き矢、弓かな。人質にされる弱い部分は今のところ無くなったと見ていいかな」

「はい、エルク様の周りで次に弱いのはヴィエラですが、メイドを人質にしても効果があるとは考えないでしょう」

「……囮の追加。領主館。……魔術師ギルドもかな。財政的な罠は?」

「現在は討伐で金銭の不足はありません。それ以上の支出を必要とする言いがかりが来るか、甘い罠を張るかでしょう」

「女、金、地位。暴力的に振る舞ってきたから、そっちの欲望。やっぱり先手を打ちたいね。あっちの弱い部分は?」

「商業ギルド評議委員のインガとフォルカーは、弱点の調べはほぼつきました。その……色の罠については簡単かと」

「うん?」

「エルク様であれば、罠にかけられるかと」

 エルクはギョッとしてラドを見た。


 ……ショタか、ショタなのか!


「……そういうの禁忌じゃないんだね」

「はい?」

「いや、いい。ちょうどの餌がいるわけだ」

「はい」

「伯爵位は国内では真ん中ぐらいの地位なの?」

「確かに爵位は高くありませんが、魔王国からの魔力鉱取引で財政的には評価が高く、魔王復活の際はノルフェ王国の最前線となるので注目度も高いです」

「ふーん。……それだけの魅力があればさ、狙ってる貴族も多そうだね」


 立ち並ぶ建物がまばらになり、手入れの行き届いた住宅が続く。塀に囲まれ、門のある家も増えてきた。

「このあたりは、裕福な商人や下級騎士、郷士たちの屋敷ですね。もうしばらく行くと領都警備隊と領国軍の宿舎、練兵場があります。その先が領主館です。練兵場の南は聖教会の敷地に面しています」


 領主館は土塁と石の壁に囲まれ、通りからは中はうかがえない。正門も木製の大きな扉が閉まり四人の門衛が立っていたので、中を見通せない。石の壁を過ぎると街の西門で、橋を渡れば街の外に出る。館の裏手に出る道もあるが、検問など警備が厳重なので、東門まで引き返した。


「聖教会って言ったね。どんな神を信じてるの?」

「……いえ、神のための教会ではありません」

「神じゃない?」

「はい、人々は、それぞれの種族が信じる神を持っています。……聖教会は魔王を打ち破る勇者を崇めています」

「勇者が神?」

「いえ、神としてではなく、魔王討伐を行う旗印としてです。聖教会はそれを助けるために各国が協力している組織です」

「……勢力は大きいの?」

「一国をつくるほどです。聖ポルカセス国を作っていて、魔王復活の時は各国に対して命令することが出来ます。ベルグンの街は魔王が現れた時、ノルフェ王国での最前線基地となります」

「では、この街での規模も力も大きい? 相関図には出てこなかったね」

「もう百年ほども魔王が復活していませんので、現在は管理する者ぐらいしかおりません」


 ……聖教会ね。要注意だな。


 馬車は東門の広場に近い重厚な造りの建物で止まった。店の前に立つ門衛が馬車の扉を開けてくれ、ラドに続いて降りた。


 応接用の椅子に座り店主の挨拶を受けた後で、王都で流行だという礼装の見本を見せられた。

 装飾過多の貫頭のシャツに、悪趣味なカーテン地のバスローブを着ているようにしか見えない。布ひだがやたらに多い。


 ……キチンとしてるんだろうけど、提灯半ズボンにタイツでないだけましなのか。郷に入っては郷に従えというが、どうしたものか。


 ラドに耳打ちした。

「この衣装でベルグン伯の前に出て笑われないんだよね?」

「はい、ここはベルグン伯や騎士たちの服を作る職人を抱えております」

「はぁー、しかたない。適当に二着分と生地や装飾の革類も購入してください」

「お気に召しませんか?」

「まあね。あとで、相談に乗ってください」


 ここで見本を基にして一から仕立てるのに最低でも十日はかかるという。いつ領主の呼び出しがあるかわからないので、一から仕立てずに見本の衣装をエルクに合わせて寸法直しをすることにした。

 受け取りは三日後。寸歩直しをしない一着分と布などは「宵の窓辺」に届けてもらうことにした。


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