ベルグン25
「どう? 話す気になったぁ?」
ルキフェの声を混ぜずに明るく聞いた。
全員が首を縦に振る。
「そう、人間素直が一番だよね。じゃ話してもらおうかなぁ。ラド、大丈夫?」
「……はい……今しばらくお待ちを……」
「うん、じゃあこの人たち綺麗にするね。匂いが凄いし、みんなも気色が悪いでしょ?」
洗浄、乾燥の魔法をうずくまる男たちに使い、治癒魔法で血を止め、傷を治す。
「エルク様、もう大丈夫です。申し訳ありません」
「ラド、謝ることはないよ。しかし、よく耐えられたねぇ。良ければ、彼らから話を聞いてくれる? 裏の世界についても知りたいな。まずは誰に頼まれたか聞いてみて」
「はい。話していただけますね」
リーダーと思われる男が答えた。先ほどとは打って変わって素直な態度だった。
「……嫌だったんだ、子供をさらうなんて……カルミアのペッテルの命令で。インガ商会とフォルカー商会からペッテルがあの子をさらうように頼まれた。その仕事が回ってきた。男の子は殺せと言われたが、子供は殺したくない……」
「それで? 拐ってどうしようというのですか?」
「う、売ると、領主の長男に。あいつはおとなしいと思われてるが、あいつはケダモノだ。秘密にしているが、子供をいたぶるのが好みなんだ、女も男も関係なく。ただ、その前に、アイテムパックを奪う人質として使うと言ってた」
「ほう、長男ですか、次男ではないのですね」
「次男はもっと大人の女をいたぶるのが好きなんで。カルミアさえ来なければ、こんな仕事しないんだ。そりゃ悪いこともするけど、子供を殺すようなやつらの下にいなきゃならないなんて」
「カルミアが来たのは十年ほど前ですね。一緒についてきたのではないのですね?」
「ああ、俺たちはベルグン生まれのベルグン育ち。子供の頃から悪かったが、今ほどひどくなかった」
「地元だったんですね。カルミアに飲み込まれましたか?」
「ああ、全部、バルブロとペッテルが兵隊連れてきてベルグンを牛耳ったせいだ。親父もアニキたちも殺されちまった。オジキのモーリッツさんが泣く泣くカルミアについて守ってくれてるが、ひどくなるばっかりだ」
「そう、いろいろ話してくれてありがとうね。もうすぐ兵士が来るから、聞かれたら何でも答えるんだよ、正直に誠実にね。誠実が大事だよ。……君たちは人に理不尽を強いて来たよね。でも世の中にはもっと上の理不尽があって、君らなど簡単に潰される。学んだよね。君らの上も『僕』という理不尽が潰してあげる」
男たちはうつむいていた顔を上げた。
「そこでだ、考えてほしいんだ。自分にとって本当の『幸せ』ってなにか。これから先、未来はどうなるかわからない。けど、自分が本当に望んでいるものは何か、考え続けて生きてほしい。もう会わないだろうけど、元気でね」
そう言った時にイェルドが兵士を連れて戻ってきた。
男たちを引き渡し、詰め所まで同行した。
兵士たちは、イェルドから聞いたことと違い、服は切られていたが、どこにも傷がなく、こざっぱりとした清潔な服装の男たちに首をひねった。
詰め所でトピとヘリは兵士たちに飲み物をもらって落ち着いたようだ。ヘリはエルクを見ると駆け寄って抱きついてきた。
「エルク! エルク!」
また泣き出したヘリを抱きしめて背中をポンポン叩いた。トピも近寄りおずおずと話してきた。
「エルク。あ、ありがとう。ヘリを助けてくれて」
「あれー、助けたのはヘリだけかな?」
「あ、ああ、俺を助けてくれて、あ、ありがとう」
「ごめん。冗談。謝らなくていいよ。それに、ヘリを守ったのはトピだし」
後ろが騒がしくなったので、振り向くと男たちが兵士に抑えられながら、こちらに寄ってきた。皆、ヘリを見つめ、エルクに隠れるようにしがみつくヘリの腕に力が加わった。
「お、お嬢さん、すまない。怖い思いをさせて、悪かった」
男たちは皆頭を下げ兵士に連れられて行った。
簡単に事情聴取され詰め所を出た。
「ジュスト商会に戻るの? 僕たちで送っていくよ」
「ああ、だけどフォルカー商会からの依頼で荷を受け取らないといけないんだ。それから戻るよ」
「ふーん。ねえ、トピ、剣はどうしたの?」
「フォルカー商会に預けてあるんだ。あ、エルク、借りた剣、返すよ」
「いや、その剣あげるよ。そのまま帯剣していて。ヘリを守った剣だしね」
「いいのか」
「うん、いいよ。で、なんで、剣を預けることになったの?」
「事務所で裏の倉庫に回ってほしいと言われて。高価な細工物の倉庫だから壊さないよう剣を置いていけと……」
「へぇー。そうなんだ」
エルクがラドをちらりと見ると、ラドが微かにうなずいた。
「じゃあ、そのフォルカー商会に寄ってジュスト商会まで送るね」
トピの案内でフォルカー商会の事務所に行った。ラドが何度か呼びかけたが応答はなく、扉は鍵がかかっていた。少し扉を触っていたラドが振り向いた。
「エルク様、何かの拍子に鍵が開いたようです」
「そう、幸運だね。入ってみよう」
事務所に人はおらず、トピの剣もなかった。事務所を出てジュスト商会に向かった。
「トピ、フォルカー商会からの依頼ってどんな依頼なの?」
「ああ、父さんにフラゼッタ王国に運んでほしいものがあるって使いの人が来たんだ。父さんも母さんも出かけていなかった。急ぎなのですぐに来てほしい、父さんが用意したヘリ用の楽器もあるからヘリも連れて……来て……」
「で、罠にかかったということだね」
「くそっ、俺がもっと気をつけていれば。ヘリ、ごめんよ。僕のせいで怖い思いさせて」
「ううん。お兄ちゃんのせいじゃないよ。ヘリが楽器を見たいって言ったから」
「トピ、明日出発だよね。門が開く頃の出発かな?」
「ああ、本当は昼ぐらいの予定だったんだけど、狂鹿が出たので道を変えるって早くなったんだ」
「そう、ヘリのこと注意してね」
「ああ、もちろん」
「お昼ごはん過ぎちゃったねぇ。屋台でなにか食べようよ!」
屋台でソーセージや肉の串を食べて昼ごはんにした。ラドに目配せすると、エルクに布を持って近寄ってきた。
「エルク様、お着物が汚れます」
「ああ、大丈夫だよ、ほんと子供扱いだなぁ。『フラゼッタまでヘリを守れるか?』」
小声で聞くエルクに、ラドが答えた。
「もう、エルク様は世話のしがいがありますねぇ、私にお任せください」
「ああ、もう、わかった任せるよぉ」
ジュスト商会まで送ってくるとオッシとマイヤはまだ帰っていなかった。
ヘリを事務所に連れて行き、マイヤたちが戻るまでここにいるようにと言いおいて、トピがエルクを呼んだ。
自分たちの馬車のそばで、トピが話し始めた。
「エルク、本当にありがとう」
「もういいってトピ、友達じゃないか」
「友達って言ってくれるのか。……俺は……妬ましかったんだ。魔法で狼を簡単に倒し、ゴドにも負けない剣を使い……」
「でも、さっきはトピもいい攻撃してたし、訓練でもいい動きだった。ただ、模擬試合ではいただけなかったけどね」
「……あれは……。エルクと剣を構えた時……。こ、怖かったんだ。なぜかわからないが、エルクがひどく暗く見えて。……喰われてしまうと思った。そしたら何がなんだか……」
「……ねえ、トピ、トピって魔法は使える?」
「いや、使えない」
「うーん、今まで魔法や魔力について誰かに言われた事とか、教えられた事はない?」
「ない……。いや、そういえば子供の頃にお祖母ちゃんに、占いに向いてる魔力だって言われたかな」
「占い?」
「ああ、僕らの一族は占いが得意な女性が多いんだ。女が多いから、占いを教えるって言われても嫌だったけど」
「……たぶん、たぶんだけど、トピは魔法が使えるんじゃないかな。一度誰かに相談してみてもいいかもしれない。使えなくても魔力を感じる能力が人と違ってるかもしれない」
「どういうことだ?」
「……僕の魔法の力を感じ取って怖くなったのかもしれないんだ。僕の魔力は人より多いらしい。それを感じたんじゃないかと思うよ」
……魔王であることを感じたんだろうなぁ。他にも感じ取れる人は多いのかもしれないな。気をつけないとな。でも何をどう気をつければいいんだろう?




