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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン24


 イェルドの倉庫にバラバラになった狂鹿十頭、傷のない十頭とボスをなんとか入れ、残りは商業ギルドの倉庫に預けることになった。


 ジュストの商館をさらに北に行くと、倉庫街になっている。水路が通り船着き場もある。道にも水路にも検問所があって、警備が厳重な一区画が商業ギルドの倉庫になっていた。



「いや、確かに上からはここを開けとけって言われてるがね、狂鹿を入れるだけだろう? この広さ全部はいらない。魔石代もかかるから魔物ごときにはもったいない」

 倉庫の管理者が、僅かばかりの場所を開けてそう言ってきた。イェルドの言葉にものらりくらりと言い訳して、広い場所を開けようとはしない。


 エルクはラドと視線を合わせたあとで割って入った。

「おじさん、ここの倉庫の一番偉い人なの?」

「何だ、この子は? 子供が口を出すな」

「エルク卿に失礼な! そこになおれ! この者は、わたくし、エルク卿の執事ラドミールが手打ちにいたします!」

 エルクの前にラドが進み出た。手にはどこから取り出したのか、腕の長さほどの片手剣を抜いている。

「ひ、いや、あ、え? 卿? 手打ち? 貴族様。し、失礼いたしました」

「ラドミール、よい。さがれ。ねえ、おじさん? 質問に答えてくれない?」

「は、はい、エルク卿。私が倉庫の管理責任者で一番偉いです」

「そう、責任者なの。ならおじさんが責任取るんだよね。イェルドさん、狂鹿は全部でいくらぐらいになるかねぇ」

「そうさな、大金貨二いや三十枚ってところかな」

「で、そこの狭いところに押し込んだらどのくらい価値が下がる?」

「大金貨一枚になっちまうかな、エルクきょう」

「三十が一ね。じゃあ二十九枚の大金貨はおじさんが僕に払ってくれるのかな。商業ギルドの命令に従わなかったんだから、そうなるよね、おじさん?」

「え、だ、大金貨? そんな」

「おい、おまえ。子供だからって甘く見ているのか? おまえは大金貨二十九枚支払えるんだろうな」


 ……ちょっとだけルキフェの声を混ぜてみたけど。まずい、おじさん青くなって失禁しかねない、やりすぎた。


「おじさーん。わかってもらえたかな?」

 ひざまずいた管理人は、蒼白になって震えながら答えた。

「はい、わかりました。いま倉庫を開けます。エルク卿」


 無事に倉庫に収めた帰り道、最敬礼する責任者が見えなくなると、エルクの背中をイェルドが「パチン」と叩いた。

「ガハハッ、面白かったぜ、エルクきょう! お前の声、子供なのに迫力あるな。俺も寒気がしたぜ。あいつは親戚が商業ギルド評議委員なのを笠に着る嫌な奴でな。スッキリしたぜ」

「イェルド様、エルク卿への無礼はイェルド様でも許されません。お控えください」

 イェルドが目を剥いた。

「エルク、……ほんとに卿なのか?」

「そんなもんじゃないよ。ラド、もうお芝居は終わり」

「いえ、いずれはお父上の跡をお継ぎになるのです。無礼を許してはなりません」

「はぁー。ごめんね、イェルド。この通り押しかけ執事に困ってるんだ」

「くくくっ、お前も苦労の種を持ってるんだな。なんか安心したぜ」

「ははは」


 人通りが少ない倉庫街を進んでいると、小さな倉庫が立ち並ぶあたりに知り合いを探知した。

「ちょっと、寄り道。こっち行くね」

 そう言うと、エルクは倉庫に挟まれた細い道に入っていった。

「おい、エルクどうした?」

 手で静かにするよう合図した。

「イェルド、ラド、手を出さないでね」

 そう小声で言うと、数人の男たちが道を塞いでいるところに近づいた。


『その娘は傷つけるな。売り物なんだからな』

『こっちのガキは?』

『そいつは生意気そうだ。いらない。痛めつけてそのへんに転がしておけ』

 そう、エルクに聞こえてきた。


 通りを見張っている男がエルクに低い声を出した。

「おう、ここは通れねぇ、別な道を行きな」

「定番だねぇ。チンピラさんのセリフ集、なんて出てるのかな」

 エルクは走り出し、飛んで壁を蹴って男たちの真ん中に降りた。

「やあ、トピ、ヘリ、元気ー?」

 壁を背に、ヘリを守るように立つトピの前に出た。ヘリは泣かずに男たちをにらんでいる。五人の男たちが囲み、長めのナイフを抜いていた。

「「エルク!」」

「なんだこいつ! どこから現れた!」

「はぁー。ま、チンピラさんだからしかたないか。おまえだね『その娘は傷つけるな。売り物なんだからな』って言ったの」

「エルク、こいつらヘリをさらう気なんだ! 気をつけろ」

「うん、わかってるよ。ヘリ、大丈夫だからねー。あれ? トピ丸腰? これ使って」

 ヘリに手を振るとパックからブロードソードを取り出してトピに投げ渡した。

「さて、僕も今回は剣を使うかな。ダーガの真似してみよう」

 そう言うと剣を抜き、リーダーと思しき男に低く近づいた。

「く、はやっ!」


 男のナイフを持つ右手の腱を、腕をしならせ撫でるように切り、回転しながら剣を持つ手を素早く変え、ふくらはぎを切り裂く。踊るようにしなやかに、流れるように動く。低く速く近づき、三人の手首の腱を同じように切り、ふくらはぎを切り、刺す。


 トピに一人が向かったが、トピの速く小さく振るブロードソードにナイフを払われ、太ももを切られてうずくまった。

「はぁー、なんだいトピ、そんな剣の使い方出来るんじゃない」

 エルクを脅した男が踵を返したところにイェルドのでかい拳が炸裂し、壁に吹き飛んだ。


「ヘリ、大丈夫? 終わったよ」

 ヘリは泣き出してトピにしがみついた。にっこり笑ったエルクがパックから細い革ひもの束と布の束を取り出しラドに渡した。

「これで縛っといてね。しゃべれないようにもしといてね、悲鳴がうるさいから。しかし、イェルドの一発は強烈だね。逆らわないようにしなきゃ。ねえ、人さらいの現行犯、殺人ならびに傷害未遂はどこが取り締まるの?」

「領都警備隊だな。さっきの倉庫街の検問所が詰め所だ」

「そうか、突き出した方がいいの? でも、この人たちって全員必要? 一人いればよくない? あとは戦闘で死んだってことで。突き出すの楽でしょ?」

 縛られている者たちに聞こえるように言った。

「イェルド様、その方が手間が、かかりません。エルク様に刃を向けたのです。万死に値します」

 イェルドはドギマギしながら首を振った。

「い、いや、それはまずいだろう。兵士を呼びに行ってくるから殺すなよ」

「ええっー! ……じゃ、一人くらいはいいでしょ? 誰にしようかな?」

「エルク、たのむよ」

「わかった。努力するよ。あ、ゆっくりでいいよ。トピとヘリも連れて行ってね。この人たちとちょっとおしゃべりしたいんだ。誰の命令でこんな事したのかとか、ね」

 イェルドはしばらくエルクを見つめうなずいたあと、トピとヘリを連れて兵士を呼びに行ってくれた。


「エルク様、終わりました」

「どれどれ、どんなふうに縛ったのかな? ……後でこの縛り方教えてね。さてと、そうは言われても、殺したほうが、世のため人のため。女の子拐おうなんて生きてる価値ないよね」

 抜いたままの剣を持って男たちに近づいた。

「さっきのがリーダーかな。『売り物なんだからな』って言ったよね。誰に売るのかなぁ。知りたいなぁ。教えてくれたら残しといてあげるんだけどなぁ」

「……」

「……そう。じゃあしかたがない。どうしてもしゃべってもらうよ。ラド、ごめん、これからすることはあなたにも影響があると思う。僕の声が聞こえないところまで離れてたほうがいい」

「先ほどの、倉庫の管理者にしたことでしょうか?」

 エルクは黙ってうなずいた。

「では、私はここにおります。あれでしたら皆さん素直になると思います。私は耐えます。お願いです、いさせてください。私にはお気遣いなく、お願いします」

「知らないよ、どうなっても」

 うなずくラドとエルクを交互に見て、何をされるのかと、男たちは青くなった。

 ルキフェの声を混ぜて言った。

「お前たち、私の大切な人に害を成そうとしたお前たちは許しがたい。皮を剥いでやろう。指先から少しずつ、少しずつ。すべて剥いでも簡単には死なせない。治癒魔法をかけて何度でも剥いでやろう。自分から死を望んでも続けてやる。しゃべることはない。永遠の痛みを与えてやろう」

 男たちは皆失禁した。涙と鼻水と涎を垂らし、イヤイヤをするように頭を横に振る。

 ラドは蒼白になりながらも耐えていた。


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