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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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35/104

ベルグン23


 朝食をラドとヴィエラに横に立たれて取った。リリーは興味津々、ハイディは少しおかんむりな感じだ。


 ……オットーの件が済むまでごめんなさいかな。でも、かしずかれて、見られながらの食事はどこに入ったのかわからないな。もうやめてもらおう。


 自分たちの朝食は気にしないようにとヴィエラに言われ、冒険者ギルドに向かった。


 ギルドの入り口を入ろうとすると、エルクより先を行く数人の子供が、入り口でビクッと足を止めた。

「あれがエルクか?」

「いや、あの子らをよく見ろ、木証だ」

「銅証だったはずだ」

 中にいる冒険者たちからの注視を受けて立ち竦んだらしい。


 エルクがラドとヴィエラを従えて入っていくと、どよめきが上がった。冒険者階級証のない街の人も大勢いる。

「ああ、あれがエルクだ」

「うん、銅証とお供、まちがいない」

「あんな綺麗な顔の女の子なのに。ホントなの?」

「あいつは貴族らしいぞ」

「気をつけろよ、『あいつ』なんて言ったら首が飛ぶぞ」


 受付のブリッタに近づいて行くと並んでいた冒険者が先を譲ってくれた。

「おはよー、ブリッタさん」

「おはよう、ございます、エルク、様」

「『様』はやめてね。昨日が灰色狼の買い取り予定日だったはずだけど、イェルドさんの作業は終わったの?」

「はい、終わっています。二階の部屋で精算の確認をお願いします」


 二階の部屋でラドとヴィエラを紹介した。

「ラド、ヴィエラと下に行って、掲示板から狂鹿の討伐価格を調べてくれないかな。それと昨日ギルド長の会議にいた冒険者、ゴドたちが来たら食堂で待っているよう伝えて。これは待っていてもらうための飲み物代ね」

 ラドに小金貨と大銀貨が数枚入った革袋を渡した。

「かしこまりました」

 ラドとヴィエラが部屋を出ていくとエルクは大きくため息をついた。


「ブリッタさん、僕は貴族じゃないから今まで通りでいいよ」

「でも、エルクさん、あの二人は執事さんとメイドさんなのでしょう?」

「ふぅー、押しかけられたの。僕が自分たちの主人の世継ぎだって思われちゃって、堅苦しくて息が抜けない」

「ふふ、そうなのね、急に偉くなって困ってしまったわ」


 ブリッタから精算金額の説明を受けた。

「通常の灰色狼よりも大きく、魔石の品質もよいので、小金貨です。ボス狼はさらに品質がよく大金貨です。ボスの毛皮も素材としてはもちろん、好事家への高額売却も期待できるので大金貨です。いかがでしょうか?」

「うんと、毛皮は三十、魔石は二十九と。はーい、わかりました。そうだな、小金貨を二十枚、大銀貨三十枚を現金で、後は口座にかなぁ。受け取るのは下の受付だよね?」

「ええ、そうですが、用意してこちらにお持ちしますよ」

「ううん、ちょっと訳があってね。下で受け取りたいんだ。その金額が用意できたら教えてよ。それとね、二、三日中に知人がベルグンの街に来るんだけど、その人、ボクの宿を知らなくて、冒険者ギルドで登録することしか知らないんだ。だからギルドに僕を訪ねてくると思う。お手数をかけちゃうけど『ガランに言われてエルクを訪ねてきた』って人がいたら宿を教えてあげてくれないかな、お願い」

「ふふ、いいわよ。他の職員にも話しておくわ。『ガランに言われてエルクを訪ねてきた』ね」

「ありがとうー」

 二人で部屋を出て一階におりて、ゴドたちのところに向かった。

「おはよう、エルク。済まないな、飲み物をもらってるぞ」

「おはよう、みなさん」


 昨日の討伐メンバーから、これまでに討伐した魔物の話を聞いていた。

 用意ができたと受付から伝言が来たので、大勢の人の間を通って受付に向かう。

「はい、こちらの金額になります、お確かめください」

「はーい、ええとぉ、小金貨が二十枚だったね、一、二、……」

 エルクはわざとゆっくり数え、後ろから様子をうかがう見物人に見せるかのように金額を確認していく。


「あれって、昨日の狂鹿の代金?」

「いや、解体はまだのはずだ。たぶんその前に持ち込んでた灰色狼の分だろう」

「すげえな、あれだけありゃ寝て暮らせるぜ」

「あんな子供が、小金貨を。俺も冒険者になろうかな」

「あの子、大丈夫なの、あんな大金持ってて、悪いやつに狙われないといいけど……」


 食堂に戻るとロッテがイェルドと一緒に来ていた。

「そろっているわね、おはよう、みなさん」

「ぼうず、灰色狼は苦労させられたぜ……だが、もっと凄いのを持って来たんだって?」

「イェルド、エルクが灰色狼を出した時にいられなくて残念だったぜ。でもな、今度のは、あんなもんじゃねえからな。ま、俺たちも全部は見てないんだがね」

 ゴドがニヤニヤして言った。

「では、訓練場の方に向かいましょう。狂鹿を数える用意は整えてあるわ」


 食堂のあたりで聞き耳を立てていた多くの冒険者、昨日の話を伝え聞いた街の人、全員が訓練場についてきた。

 訓練場には職員が並んでいた。

「出してくれたものを職員が数えることにしてるんだけど。あなたたち、倉庫からロープと杭を持ってきて。見物人が作業の邪魔にならないようにしてちょうだい」


 ロープで予想外の見物人を整理するのに幾人か職員が並んだ。

「じゃあエルク、狂鹿を出してくれる?」

「一度に全部出すと傷みそうだね」

「そうだな。一頭出してみてくれ」

「うん。じゃあ、一番多い大きさのを。そこにいる人、隣に一頭出すから驚かないでね」


 前に立つ職員の足元に狂鹿を出した。

「「「うおぉ!」」」

 見物人からどよめきが起こった。


「大きい!」

「ボスか! 普通のやつの三倍はあるぞ!」


 イェルドが近づいて行き、狂鹿を検分すると聞いてきた。

「エルク、これはボスじゃないんだな? 幾つあるんだ?」

「四肢がバラバラになったやつが十頭、灰色狼と同じ状態のが、二百五十三あるよ!」

 見物人から、驚いた声が上がった。

「二百って言ったか!」

「あれが、二百五十……」

「いま、どこから出したの?」


 イェルドがエルクのそばに戻ってきた。

「一頭ずつでは時間がかかりすぎる。一カ所に出したら潰れるな。……きれいに並べて出せるか?」

「やってみる」

 最初に出した一頭の横に九頭並ぶのをイメージして出してみる。狂鹿が十頭並べられた。

「うん。並べられたね。十頭ずつの列にして全部出せそうだよ。手前にゴドたちが討伐した十頭を出して、その横に僕が討伐したやつを並べていくね」


 イェルドの指示で職員が広く離れて並んだ。最初の十頭をパックに戻して、ボス以外を全部並べて出した。


「「「うわぁー!」」」


 見物人から悲鳴のような歓声が上がった。


 訓練場一面に狂鹿が並んだ。


 イェルドもロッテも並んでいる職員も声を出せなかった。徐々に見物人も静かになっていった。

「イェルドさん、数えなくていいの?」

「……あ、ああ。ぼやぼやするな! 数を確認しろ!」


 数を確認したイェルドとロッテが話をしながらエルクに近づいてきた。

「こっちの十頭がゴドたちの討伐分でいいのよね」

「ああ、エルク以外で討伐だ。御者も加勢したから、九人で分ける予定だ」

「で、残りが、エルクね。……違いがはっきりするわね」


 十頭は矢が刺さったままで、体中に傷を負い、焼け焦げ、首を落とされている。残りはどこにも傷がない。


「狂鹿を倒すなら、足を止め、角を避ける。手数で体力を奪い、首を落とす」

「ああ、あの十頭はそういう戦い方だな」

「……他はどうやって倒したんだ? 傷がないぞ」

「あんな大きさのが、街の近くに……」

「四頭立馬車で四時間と聞いたぞ。南の集落近くだ」

「この数が来てたら……」

「あの子のおかげで街は救われたのね……」

「……もし街の外で襲われたら……」

「南の集落! お祖母ちゃんが近くに住んでる! どうしよう!」


ロッテが気づき見物人に声をかけた。

「みなさん、今回の狂鹿はこの通りすべて討伐されました。この街を襲うことはありません。ですが、注意と警戒は必要です。現在、ベルグン伯爵と冒険者ギルドが共同で対策を立てています」


「エルク、全部で二百六十二頭だ、一頭数が合わんが」

「ああ、ボスがまだですよ。かなり巨大。一緒に出します? こっちを片付けてからの方がいいかと思ったけど」

「これの保存場所は商業ギルドの倉庫を借りる事になっている。一度パックに入れてもらって、運んでもらえないか?」

「いいですよ。じゃ、しまいまーす」

 狂鹿の近くから職員が離れた。狂鹿は音もなくパックに入れられた。見物人がまた、驚いた。


「狂鹿が消えたぞ」

「ああ、あの子のアイテムパックだな」

「あんなにあったのに一瞬で? どれだけ入るんだ?」

「アイテムパック……」

「アイテムパック……」

 見物人から羨望混じりの静かな声が上がった。


「ボス、いきまーす!」

 その声とともに巨大な狂鹿が現れた。

 見物人も職員も思わす後ずさって、声にならない声を上げた。

「はいこれで二百六十三ね。ってイェルドさん? イェルドさぁーん?」

 イェルドは口をパクパク動かしていたが、音は出ていない。誰もがそうだった。


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