ベルグン19
木の杭代をギルド職員に払うと、ギルドに戻らずに、ゴドの行きつけの料理屋に向かうことになった。ついて来ようとした者もいたが、ゴドとダーガに、にらまれてすごすごとギルドに戻っていった。
オルガはエルクの腕に抱きつきニコニコしながら、先頭で歩いていく。
「ねぇゴド、いつもの『流浪の果て』でいいの」
後ろを振り向いてゴドに確認する。
「ああ、……オルガ、いい加減離れてやれ。エルクが歩きづらそうだ」
「いやよ、ずっとこうしてるの」
「流浪の果て」はギルド訓練場から南西に行き、工房が多い通りを奥に入った古そうな家だった。店の看板もなにも出ていない、店の名前もどこにも描かれていない。オルガが扉を勢いよく開けた。
「来たよー!」
「はぁー、だから、オルガ、ここは静かな雰囲気を……楽しんでもらう……店だっ……。ゴド、なんだこれ? オルガが男と一緒に入ってくるなんて」
「見たとおりだよ、おやじ」
「はあ? ええい、オルガ、相手が若すぎる。だめだろ、普通」
「はいはい」
「はいは一度でいい、で何だその子供は、拐って来たのか?」
「この子はねぇー、私をお嫁さんにしてくれる人。旦那様よ。かわいいでしょ?」
この店の主人らしき白髪の男が口を開けている。
ゴドがオルガを押しのけて入ってきた。
「オルガのことは放っておけ。奥の小部屋は空いてるか?」
「……あ、ああ、空いてる」
「借りるぞ、いつもの、人数分たのむ」
テーブル席とカウンターの横を奥に進み小部屋に入った。ゴドとダーガが並んで座り、オルガはエルクを離さず、エルクにしなだれかかる。
店主が飲み物と料理を運んできてオルガをチラチラ見ていたが、ゴドに追い出された。
「しばらく、誰も通さないでくれ」
店主が部屋をでると、ダーガが皆のコップにエールを注ぎ始めた。
「さて、もういいだろう」
ゴドの言葉でオルガがエルクの腕を離した。
「離したくないわねぇー」
……離して欲しくないです。幸せな左腕は、今日は洗わないでおこう。
「エルク、魔力は大丈夫? 気持ち悪いとかない?」
「オルガさん、ありがとうございました。支えてくれて。でもまだまだ、あの程度では魔力切れはしないから大丈夫です。それと、求婚で騒いでくれて、ありがとうございました。その話が大きくなり、お陰で派手な魔法が目立たなくなりました」
「あら、わかってたの?」
「だから言ったろ、底がしれん、て。まあ、目立たなくなったと言ってもなぁ、職員も見てたしな。対して効果は期待できん」
「あれだけの魔法の連発、爆発。それで魔力切れしないなんて。魔力量はどのくらいなの? って聞かれてもたやすくホントのこと言っちゃだめよ。魔力切れを狙うのも戦いで有効だから」
「はい」
ダーガが思いつめた顔でエルクを見つめた。
「……オルガ、……エルクへの求婚はふりなんだよな」
「うーん、ホントでもいいかな。エルクなら結婚してもいいわ」
「まて、エルクと知り合ったのは私の方が先だ。わ、私も……エルクとなら結婚したい!」
ゴドが頭を抱えてぼそっと言った。
「エルク、今まで女難の相があるって言われたことないか?」
「「ゴド」」
低い声がそろった。
関係ないとばかりにエルクは料理を食べだした。
ここの料理も美味しい。ミンチにした肉と玉葱にハーブを入れて焼いた小さな肉団子。濃厚なソースに甘くて酸味のあるジャムもよく合う。潰したじゃがいもにも手間がかけてある。
どの料理も美味いが、なにかもの足りない気がする。なんだ? 宿の料理も屋台もなにか物足りない。
……うーん、そうか、胡椒だ。どこでも入っていなかった。どこかにあるだろうか?
「エルク、これから近寄ってくる者が増えるぞ。気をつけろよ」
「ゴド、本当に優しいね。ありがとう」
「ふふん、競争相手が増えたのかしら。奥様に報告が必要ね」
オルガの軽口を無視して続けて聞いた。
「ねえ、ジュストさんの護衛で出かけるの?」
「いや、今回は護衛の依頼を受けていない。マイヤたちは依頼されてついて行くがな。おまえには話がないのか?」
「断ったよ。もうしばらくはここにいる予定だからね」
「そうか。なにか目的があるのか? することとか」
「特にはないけど、田舎出の世間知らずだからね。もっと、いろいろ知りたいんだ」
「剣は教えるぞ」
「あら、私なら剣も魔法も一緒に教えられるわよ。魔法はダーガには無理ね」
ダーガとオルガがにらみ合う。
エルクは改めて気遣ってくれたみんなに礼を言い、食事を済ませて「流浪の果て」を出た。
「エルク、ここで別れても大丈夫か。俺たちはホームに用事があってな」
「く、私も帰らないと。エルク、剣は私が教えるからな」
「ええ、ダーガ、お願いします。あ、ああ、いいブーツが買えるお店知らない?」
「おお、それならすぐそこにいい店がある」
「前の通りに出て右の角から三軒目、『羽』って店なら信頼できる」
「ゴドから聞いたといえ」
「ダーガからの紹介と」
「オルガからの紹介と」
そろって言って三人が笑った。
「まず銅証を見せろ。子供相手だと店主は断るからな。見せれば作ってもらえる」
ブーツは「羽」で無事に注文できた。二日後に来るように言われた。
「成長に合わせて新しいのをすぐに作ることになる」
店主が注意してくれたが、基があればサイズ変更出来ることは言えない。




