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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン15


 すこし空いてきたので列に並んだ。

 ブリッタが窓口にいる列だ。人気なのか他よりも並んでいる人が多い。どうしようか、他の列に並ぶか。悩んでいると声がかかった。

「エルクくん! エルクくん! テーブルで待ってて!」


 立ち上がったブリッタだ。後ろを振り向いて男性職員に窓口を代わってもらい、奥の部屋に入っていった。ブリッタ目当てに並んでいたであろう冒険者の目が怖い。

「せっかくブリッタちゃんの順番が来たのに、くそ、誰だ、あいつ」

「あのガキ、木証じゃないか、なんでブリッタちゃんが」

「くそ、誰かのパーティか? じゃなきゃ……」


 ……聞こえてます。


 しばらくすると、ブリッタが上司の女性をつれて戻ってきた。

 立ち上がったエルクに挨拶もなしに聞いてきた。

「あなた、昨日イェルドに渡した灰色狼はどこで、誰がどうやって倒した?」

 声は周りに聞こえない程度だったが、きつい口調だ。


 ……昨日会ったけれど、まだ紹介されてないよね。


「……」

「答えなさい!」

「ブリッタさん、ボクお母様から、紹介されていない知らない人とは話してはいけませんと、きつく言われています」


 ブリッタも上司も口を開けてしまった。しばらく二人を見ていたが、ため息をついた。

「冗談です。でも、どこの誰かも知らない人から、小僧やお前呼ばわりされり、突然詰問されたりするのは好きじゃない。子供だからといって人格を否定したり、礼儀を払わなくていいわけじゃない。礼儀を払わないやつは自分も礼儀を払われない、当然でしょ。まちがってる?」

「……いえ、いえ、その通りだわ。ごめんなさい、名乗ってもいなかったのね。私は冒険者ギルドのロッテです。ブリッタの上司、受付部門の部長です」

「見習い冒険者のエルクです。よろしくおねがいします」

 エルクは左手を横に出し右手を胸に当て、にっこり笑って会釈をした。


「では、ロッテさんの先ほどの質問ですが」

「ロッテでいいわ」

「はい。ジュストさんの商隊が襲われているのを見つけて助けた。三十頭全部、僕が魔法で倒した。魔法の分類は習っていないので、そういう魔法としか言いようがない。こんなところかな」

「わかったわ、ジュストさんの話と合っている……。エルクくんをどうしたものかしら?」

「……なにか、問題でも?」

 ロッテに聞くと、額に手をやった。

「なにか問題……。あのね、見習いが灰色狼を倒すのは一頭でも普通は無理。ましてやあの大きさ。それが三十でボスもいる。ゴドによると群れを一瞬で、ボスもあっという間に。それって少なくとも銀証、……金証でもおかしくない実力があることになる。あなたを見習いにしておけない。でもどの階級にすればいい? 一度の討伐で階級が上がった者はいない。昨日登録したばかりで、試験も講習も受けていない」

 ここで、小首をかしげたかったが、逆鱗に触れそうだからやめておいた。


「まあ、それは幼いときから魔法の修行をしていたし……。剣士とか魔術師の子とかで最初から力があるとかいないの?」

 ロッテが首を振って答えた。

「そんな子は冒険者にならないわ。学院に行くか、騎士団に入る、魔術師の弟子になるとかなの」

「ふーん。……学院ってなに!」

「知らないの? 魔王に対抗するため勇者を鍛える学院のことよ。聞いたことあるでしょ?」

「勇者を鍛える! 勇者を育てるの? 勇者は教育で出来るの?」

「……厳密には違うわ。勇者が現れた時に支える人材を育てる。歴代の勇者は、学院で教育した者とパーティを組んで魔王を滅ぼしてきた。まあここ百年ほど魔王も勇者も現れてないけど、そう言われているのよ」


 ……勇者は誰かが育てるわけではないのか。ある日自分が勇者だと気づくのだろうか? 俺は勇者になるって努力するのだろうか? だがロッテの言葉を信じるなら、「学院」というところは、勇者に繋がりがある。


「その学院ってここにあるの?」

「いいえ、フラゼッタ王国の王都よ。そんなことよりあなたのことよ。……ギルド長と相談は必要だけど、エルクには初心者講習と鉄証への昇格試験、銅証への試験を受けてもらうわ。そのうえでもっと上の階級なのか判断する。エルク、ベルグンから出たりしないわよね」


 ……出ると言ったら怒られそうだ。不思議だ、ロッテに怒られるのが楽しみのような気がしてきた。精一杯頑張ってる娘が、真面目に怒ってくれるのが嬉しくて、からかってみたくてしようがない。


「今のところ出る予定はないよ。しばらくはいるつもり」

「そう、よかったわ。じゃあ詳細が決まったら連絡するから。ブリッタ、連絡はあなたに任せるわ」

 そう言うと、ロッテは受付の奥に戻っていった。


「……エルクくん、初心者講習は明日の昼過ぎにあるわ」

「はーい。あ、昇格試験ってどんなものなの? 筆記は苦手だな」

「上位階級者と模擬試合よ。支援魔法、斥候は、その専門家の課題かな。戦闘力が高ければ合格するわ」

「戦闘力ね。あ、そうだ。昨日、出し忘れてた物があって、買取ってほしいんだけど」

 ブリッタはビクッとして恐る恐る聞いてきた。

「……もう驚かされるのは、いやよぉ。……なに?」

「あ、大丈夫、灰色狼の毛皮が一頭分あったの忘れてたんだ」

「……ほんとに一頭分ね……」

「うんうん、魔石は売っちゃったけどね。イェルドさんはまだ解体中でしょ? で、ご相談。灰色狼三十頭の討伐は証明できたんだから、討伐報酬だけ先に支払ってもらえないかな?」

「うーん、そうね。多分出来ると思うけど、毛皮を預かって確認してくるわ」

 買い取りカウンターでブリッタに毛皮を渡して、鑑定してもらう間にまた掲示板を見に行った。


 ……見習いと鉄証階級では大した稼ぎは期待できないなぁ。銅証でもそれほどでもない。ゴドと同じ銀証の依頼ならまとまった金額になりそうだ。ガランのウロコもあるけど、どこで手に入れたのか説明が面倒臭い、って言うか大騒ぎになりそうだ。


 探知魔法を常時使っていたおかげか、意識しなくても周りを感じることが出来るようになってきた。悪意を感じ取った。後ろから誰かが肩を掴もうとした。


 後ろを振り向かずにするりと身をかわし、振り返った。

「え?」

 掴もうとした手が空振りし、つんのめって驚いている男が立っていた。

「だれ? 後ろからこっそり近づいて。殴り倒されても文句ないよね」

「て、てめえ! このガキィ!」

 荒げる男の声に、周りの注目が集まった。


「フーゴか。あの子災難だな」

「助けるか?」

「……まて、そら、ロッテがくるぞ。いつもより怖い顔してる」


 ロッテとブリッタが小走りに近づいてきた。

「エルク。あなた、フーゴと知り合いなの?」

「ああ、ロッテ。フーゴってこの人? 今初めてあったけど」

「なんだと、このガキ。昨日後ろから俺を襲ったくせに。ロッテさん、このガキは後ろから人を襲うクソガキだ」

「あらあら、話は聞いてるのよ。列を乱して、子供に暴力をふるおうとしたってね。このエルクくんに逆に気絶させられたんでしょ。冒険者登録前だから、一般人の子供に、のされたのよね?」

「なっ!」


「聞いたか、あの子供にフーゴがのされたんだと」

「なっさけねー」

「いやダメな奴とは思ってたけど、そこまで恥ずかしいやつか」


 周りからの声にフーゴの顔が真っ赤になった。そこにエルクが油を注ぐ。

「ロッテ、昨日そんな事あったんだ」

「あら、あなたがやったんじゃない」

「ええ? 僕? うーん、昨日ここでゴミを蹴ってどかしたけど。ねえねえ、おじさん、昨日僕に蹴られたゴミ?」


「うわー」

「あの子大丈夫か? 恨まれるぞ」

 フーゴは口をパクパクさせたが、ものも言わず向きを変えてギルドを出ていった。


「エルク、あいつには気をつけてね」

「はーい、注意するよ」

「……」


 灰色狼の討伐報酬は今日払ってもらえることになった。毛皮は他の鑑定結果が出てからまとめて買い取るので、追加の預り証がでる。二階の小部屋で報酬を受け取った。


「エルクくん、これだけまとまった金額だから気をつけるのよ。口座に預ければ安心なんだけど、木証じゃあ作れないから。明日の昼、忘れずに来て講習会を受けてね。講習会の場所はここじゃなくて、イェルドの倉庫の横を抜けて南に行くとギルドの訓練場があるわ。そこで行われるの。すぐわかるわ」

「明日の昼ね、了解。……ねえ、服を売ってるお店を知らない?」

「そうね、出て西に向かうと商店や市場があるから、そこにで買えるわ。大通りに面したところは高級店、奥に行くと手頃な物を売ってるの。私もそのあたりで買うわね。いつも買う店は男性向けのお店じゃないけど、隣は男性向けの服もあったかな」

「わかった、ありがとう。あ、本もそのあたりのお店で売ってる?」

「うーん、……本を売っているところはないわ。というか本はお店では売っていないわね。貴族やお金持ちのものだからね」

「そうか、やっぱり本は高級品か。図書館とかない? 本がいっぱいあって、読めるところ」

「……図書館って……どこで聞いた言葉だったかしら……ベルグン伯爵の館には本の部屋があるけど、入れてもらえないわね。でも冒険者に役立つものはここで読めるの。魔物や薬草なんかの図鑑もあるわ。預り金と閲覧料が必要だけど、エルクくんなら払えるわね。」

「図書館、どこかにあるのかな。思い出したら教えてね。勉強するにはやっぱり図書館だからね」


 受付でお金を払い図書室の鍵を受け取った。

 二階の図書室には所蔵図書総覧のようなものがあった。ギルドの規則、図鑑類がそれぞれ数冊あるだけだった。


 図鑑は簡単な線画の絵入りだ。灰色狼も載っていたが、本物はこんな姿じゃなかった。画家が冒険者から聞いて描き、幾度も写本して変わっていったのかもしれない。特徴や注意する点は参考になる。灰色狼は二頭ぐらいが普通で、大きな群れでも四、五頭らしい。大きさも人の膝から大きくても腰下ぐらい。みんなに驚かれるのは無理なかった。


 領主城の図書室は見てみたいが、木証の冒険者に許可は出ないだろうし、忍び込むわけにもいかない。何かいい方法はないだろうか。


 午後を図書室で過ごし、日が傾く頃にギルドを出た。そろそろ宿の夕食の時間だ。買い物は明日の講習会前にすることにした。


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