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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン13


 「宵の窓辺」のトイレはポットンだ。清潔ではあるが、明かりがなく暗い。魔法で光の玉を浮かべて用をたした。夜目が効くし、魔法の光もある。


 ……他の人はどうしているんだろう。受付で明かりを借りるのかな。


 水場は差し掛けがついて簡単な仕切りで囲まれた「男性用」と、外からは中が見えない小屋になっているところがあった。小屋の方は「女性以外は使用禁止」の立て札がある。


 「男性用」には先客がいた。中年のおじさんが湯に入って肌かき器で体をこすっていた。おじさんが入っている木桶の隣に空の桶があり、エルクが、湯を沸かしている従業員に声をかけると湯を張ってくれた。


 横に張り渡してある木の棒に服がかけてあったので、そこで裸になった。こちらに気がついたおじさんが、ジロジロとこちらを見てぼそぼそっと言った。

「ぼうず、いいもの持ってるなぁ。あ、子供じゃないのか。つい子供かと思った、失礼した」

 木桶から出て、布で簡単に拭き、服を着ておじさんは終了。「お先に」と言って出ていった。


 ……ふむ、いいものってなんだ? わかっているけどね。ありがとうルキフェ。

 

 従業員が香油を塗ってくれたので、おじさんを真似て肌かき器を使ってみた。石鹸ほどではなく、どうもきれいになった気がしない。浄化と乾燥の魔法を使うほうが良さそうだ。


 食堂で夕食。食堂に入るとリリーとハイディが給仕をしていた。席はかなり埋まっている。ハイディに案内されて壁際の席についた。

「エルク様、飲み物はなんになさいますか?」

「どんな物があるの? あまり、食堂で飲んだり食べたりしたことがないんだ。あ、それから『様』はやめてもらえる? 年上のきれいなお姉さんにそう呼ばれると、困ってしまう。エルクでいいよ」

「……はい。エールは樽を開けたばかりの新しいのと、ちょっと時間が立ったものに薬草を入れたもの。新しいのは甘くて、薬草入りは苦味がある。好みだけど、苦いほうが料理に合うって好まれるの。それとりんご酒、ちょっと酸っぱいかな」

「じゃあ、新しいエールを試してみるよ」

「はい。今日の料理は豚肉のローストと玉ねぎと人参のスープ、パン。別料金だけど内臓の煮物と舌のソテーがお勧めね」

「うん、聞いているだけでも美味しそうだ。お勧めももらうよ」

「はい、ちょっと待っててね」


 ハイディがエールと料理を運んできてくれたので早速いただいた。

「いただきます」


 エールはカルメラのような味でほのかな甘みがあり、飲みやすかった。アルコール度は低い。


 ……豚肉はロースかな。脂身と柔らかな肉にニンニクと塩味がきていて噛むほどに旨味があふれて美味しい。


 薬草入りのエールも追加で出してもらったが、こちらのほうが確かに料理にあっている。

 ただ、食堂にいる人の注目が集まったのには閉口した。リリーも支配人もこちらを見ている。一挙一動を見られているようだ。


 ……なぜに? 子供一人だから?


 持参のテーブルナプキンで口を拭いて、料理を運んでくるハイディに小声で尋ねた。

「ねぇ、なんでみんなこっちを見てるのかな?」

「……エルク、様。この食堂には貴族の方をお迎えしたことがございません。エルク様が初めてなので、皆がどちらの方のお忍びか、気にしておりますです」

「……このカトラリーかな?」

「ええ、エルク様の上品さに感服しておりますです」


 ……ハァー、ハイディの言葉が変になってる。いやフィンガーボールがあっても、手づかみで指が汚れるの嫌だし、口の周りに脂や汁なんかがつくのが嫌なんだよね。本当は箸で食べたいくらいだ。


「ハイディ、って呼んでいい?」

「はい、もちろんです」

「僕は確かにそれなりの教育を受けてきている。けど、身分は貴族じゃないよ。異国の教育を受けた、いいとこのお坊ちゃんってとこかな」

「そ、そうなんですか?」


 ……はい。単なる貴族ではありません、王です。


「うん、だから、エルク、でお願いね」

 ハイディはしばらく戸惑ったあとで、笑った。

「はい。実は、お客様たちはみんな、エルクが貴族様なら、いつご機嫌を損ねて首を飛ばされるかって、怖がってるの」

「はあ? 貴族ってそんなことできるの? 理不尽だねぇー」

 ハイディはにっこり笑うと、リリーのところに行った。リリーはハイディの話を聞いて客席をまわって説明してくれたようだ。


 食事を終えて食堂の入り口にいるリリーのところに向かった。


「あの方と湯浴みを一緒にしたんだ。あの方はきっとエルフだね。あの美しさ。子供に見えるが大人なんだろう。実は拝見したのさ、ご立派なものを」

「あら、いやね」

 連れの女性にささやくおじさんの声が耳に入った。


 ……あのおじさんね。どうぞ、お幸せに。


「エール代と追加の料理は今払ったほうがいい? 部屋につけておいて後で精算できる?」

 リリーに尋ねると出立時の精算でいいとのこと。

「では、ごちそうさまでした」

 そう挨拶して部屋に戻った。


 部屋に戻り、魔力を流し、ランプを灯した。寝るにはまだ早いので、パックから換金できそうなものを探した。

 金貨や宝石は換金が難しそうだ。

「金の装飾品はいけるか。子供だから足元見られるか。狼の代金は解体後だろうけど、終わったものを先に売るってできるかな? ギルドで聞いてみるか」


 自分の態度は良かったのか、今日の出来事を振り返ってみる。

 礼儀には礼儀を返す。理不尽には、それ以上の理不尽で返す。毅然とした生き方をするエルクでないと、やろうとしていることは出来ない。


 ……自分は上手くやれているだろうか。誰かに暴力を振るったことはなかったが、今日は多くの人に傷を負わせた。いずれ人を殺さねばならないこともあるだろう。


「覚悟か。僕は覚悟を持って生きなきゃいけないんだね、シロ丸」


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