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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン10


 「宵の窓辺」はギルドを出て左に見える大きな通りを行き、数本交差する通りを過ぎたところにあった。

 通りに面した二階建てで、建物の下をくぐる門に、ベッドをかたどった看板と宿の名がある。のぞいてみると馬屋に続く中庭が奥まで続いている。右手の扉が開け放してある。


 ……ここが宿の入口だろう。どこもよく手入れされている感じだ。


 そこからさらに歩いたところに「英雄たちの集い」がある。

 こちらは門がなく、通りから三段の石段を登ったところに開け放たれた扉があり、建物の横に奥に続くのであろう路地がある。看板はベッドの上に交差した剣だ。


 石段を登って入っていくと食堂になっていて、数人の男たちが昼間から酒を飲んでいた。給仕する色っぽい女性が男たちの冗談に嬌声をあげた。

 床はわらがまかれ、おこぼれを狙う犬がウロウロしている。酒と食べ物、汗の匂い、獣の匂いが混じり合いムッとする臭気がくる。


 ……いやー、ここは無理かなぁ。


「おい、小僧、なんか用か? 飯か?」

 奥のバーカウンターから、髭面で体格のいい男が声をかけてきた。カウンターまで行って答えた。

「泊まりの料金を聞きたくて。一泊いくら?」

「……木証の見習いか。相部屋、食事付きで一小銀貨だ」

「おやじ、見習いには高いだろ。小僧、早く稼げるようになりな。そうすりゃこのねーちゃん付きで泊まれるぞ、ヒヒヒ」

 下卑た笑いをあげる男たちにまじって、給仕女が近寄って声をかけてきた。

「きれいな顔、食べちゃいたい。どお? ここに泊まるお金持ってるなら、上でおねーさんがいいこと教えてあげるわよ」

「おいおい、そんなガキ相手にするなら俺にいいこと教えてくれよ。俺もいいこと教えるからさあ」

 エルクはカウンターの男に向き合った。

「僕には高すぎるようだね。また今度にするよ」

「ああ、この通りの奥に安い宿があるからそっちにしときな」


 ……おやじさんは意外と親切なのかな。


「あら、あたしをおいてっちゃうの。食べちゃいたいのに、また来るのよ」

「おい、そんなガキじゃなくてお前は俺の相手をしろ」

 そういった男は、エルクが扉に向かって歩きだすと足を投げ出して先をふさいだ。

「銅証の俺様が、見習いに先輩のきょーいくってやつをしてやるよ」

「よしなさいよ、そんなだから、嫌われるのよ」

「なにおー!」

 おねーさんが火に油を注いでくれた。

 エルクは天井を見上げ、わざとらしくため息をついた。


 ……しみだらけの汚い天井だねー。


「おじさん、子供に優しくしないと女性に好かれないよ。もう手遅れっぽいけど」

「なんだと、誰がおじさんだ! このガキィ!」

 そういうとテーブルに立て掛けてあった剣を顔めがけて横なぎに振るってきた。鞘に入ったままだが当たれば怪我をする勢いだ。

 スッと後ろに下がってかわすと、一歩踏み込み、空いた顎先を蹴り上げた。男は椅子ごと後ろに倒れ静かになった。

「やれやれ、昼から酒を飲んで、もうお休みかな。お酒弱いんだね」

 一緒にいた男たちと後ろのおやじ、おねーさんを見て、誰も動かないのを確認すると、肩をすくめて手をふって宿を出た。


 「宵の窓辺」の門をくぐり、扉から中に入った。正面にふくよかな女性がいる低めのカウンターがあり、左手が階段と食堂になっている。食堂には数組の客が昼食をとっているようだ。こちらは先ほどとは違い、屋内は食べ物のいい匂いがする。掃除も行き届いている。


 エルクは女性の前に行き、声をかけようとして動きが止まり、女性を見つめた。

「あら、いらっしゃい、ボク一人かしら?」

「……あ、はい。一人ですが、泊まれますか?」


 ……髪型かと思ったら猫耳?


 猫耳女性は、エルクの木証に気づいたらしく、優しく言ってくれた。

「うちは、相部屋はないのよ。一人部屋なら朝夕二食付いて大銀貨一枚、それで良ければ泊まれるわ」

「はい、では四泊でお願いします」

 にっこり笑ってエルクは革袋から大銀貨を取り出して払った。

「今、お部屋は掃除中だから、まだ入れないの。夕方には入れるから。荷物があればあずかるわよ」

「荷物はないです。あの、そこの食堂で食事できますか?」

「あら困ったわ、今日の昼食は売り切れてしまったの。朝食と夕食はお泊りの方は用意するので売り切れってことはないのだけれど。ごめんなさいね。そうそう、私は女将のリリーよ」

「エルクです」


 「宵の窓辺」を出て屋台のものをいろいろ食べて、昼食にした。

 ギルドにもどり、ブリッタに「宵の窓辺」に宿を取ったことを告げてジュストの商館に行った。

 ジュストはまだ戻っていなかった。ゴドは仕事が終わって引き上げたらしい。ヘリたちの馬車の前でトピが太い棒で素振りをしていた。夢中になっていたので声はかけなかった。


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