ベルグン8
……時間がかかるだろうから、冒険者ギルドのルールでも勉強しよう。
掲示板の横に行って、鎖付図書を読み始めた。
……そうそう、注意しないと。本を読み始めると周りが見えなくなる。子供の頃は、何人かで友達の家に行き、そこで本を読み始めると、いつの間にか誰もいなくなっていたことが何度もある。
肩を叩かれ本から目を離すと横に女性が立っていた。探知魔法を切ったままだった。
「え? だれ? なに? ……ああ、ブリッタさん。……ごめん、本を読み出すと周りが見えなくなっちゃうんだ」
「エルクくん、何度も呼んだのよ。はあ、さっきのテーブルに戻ってくれますか?」
「はい」
慌てて立ち上がり、本を丁寧にしまうと同じ席に戻った。そこにはブリッタより年かさの女性が羊皮紙と黒い厚板を持って立っていた。
「エルクね。座って。もう一度手を置いてくれる?」
自己紹介をしなかったが、ブリッタの上司なのだろう。手のひらを置いて、名を言い、光の板が中に浮かんだ。
「ふう。さっき確認したから魔道具は壊れてない。……しかたない。手動で情報を入れて。魔法は使えるのよね?」
指示を出されているブリッタがこちらを見たので、ちょっと小声でゴニョゴニョして指先に火を灯す。
「いいわ。十歳ね。魔力十、魔力色赤で作って」
板の横を操作して、指示通りに情報を入れたらしく、硬そうな小さな木板を横から挿入して見習いの木鉦を作ってくれた。
上司がうなずいて、ギルト長と魔術師ギルドに報告しておくと言って、カウンターの奥に戻っていった。
「ごめんね、エルクくん。どうも魔道具の調子が悪いみたいなの」
……すみません、すみません、多分僕のせいです。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「では、これが木鉦です。彫られている内容を確認して、首にかけといてね」
受け取った木鉦を、通してある革ひもで首に下げブリッタに確認した。
「これでもう僕は冒険者ですよね?」
「ええ、そうよ。うれしい?」
「はい、うれしいです。……あの、これで冒険者向け価格で討伐した魔物を買いとってもらえるんですよね?」
「ええ、何か今まで狩ったものがあるのね? ちょっと待ってね」
ブリッタは笑いながら、エルクのパックを見て、カウンターから四角くて浅い盆を持ってきた。
「ここに出してくれれば買取に回すわ」
「あ、ああ、……いえ、あの、この盆では小さすぎます。灰色狼なんです。討伐部位を切り取ったんじゃなくて、そのままなんです」
「そのまま? 切り取ったんじゃなくて? まるまる一頭?」
「はい。どこも切り取ってない姿です」
「……では、こちらに」
ブリッタが案内してくれたのは低いカウンターだった。
「ここに」
「ここに? うーん、ここじゃ一頭しかのらないね」
「え? 一頭?」
「じゃ出します」
エルクはパックから一番小さい灰色狼をカウンターの上に出した。
「なんだ、あれ!」
「でかい!」
「はぁ? 灰色狼?」
「そのままって? マジックパックか!」
周りの職員や男たちから、声が上がり、ブリッタは目を見開いて口を開けたまま固まった。




