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旧)黒きエルク  作者: ヘアズイヤー
継承する者

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ベルグン6


 翌朝、村を出発した。

 その後は、ベルグンの街まで村で野営が三日続いた。ベルグンの街に近づくにつれ街道には人や馬車が増え、村も大きくなっていった。ジュストはどの村でも村長に狼の群れについて伝えていった。



 明日にはベルグンの街につくという昼前に、空の馬を一頭つれた三騎の革鎧の男たちと出会った。

 男たちと何事か話していたジュストは、ベルグンの商館に向かうよう指示を出すと男たちと西に向かっていった。一足先にベルグンに行ったようだ。


 最後の野営は雰囲気が悪かった。野営の準備にオットーがあれこれと細かく注文をつけて、皆の機嫌を損ねていたが、本人は知らん顔だ。

 時折、オットーがこちらを値踏みするように嫌な目つきでチラチラ見てくる。最初の村からずっとだ。トピの肩に親しげに手をやり、こちらのことを尋ねているのも何度か見た。トピは迷惑そうな顔をしていたが。


 人に会う事が増えたせいか、その人がこちらに向ける感情がうっすらとわかるようになってきた。害意か、敵意か、善意か、程度だが。


 トピも相変わらずこちらをにらむ。だが害意はなく敵意だけだった。ヘリと仲良くするのも気に入らないのかもしれない。

 トピは野営中、寝るまでの空いた時間にゴドたちに剣の訓練を受けていた。鞘を付けたままで打ち合っていた。見学していると、ゴドから一緒にやらないかと誘いを受けた。


 胴、腕、脛に革製の防具をつけるが、革の鞘に入ったままの剣は当たりどころが悪いと怪我をする。ゴドたちもトピも短めのブロードソード、円形の小盾を使っている。

 剣術は習っていないので、剣の持ち方や構え方、足運びなど一から教えてもらった。

「魔術師は、うしろから魔法を使う。パーティなら守ってくれるが、詠唱中に攻撃を受けることもある。自分の身を守るために剣の使い方は覚えたほうがいい」


 トピはエルクが剣は素人なのを知ると鼻で笑い、勝ち誇ったような目をした。

「エルクは珍しい剣を使っているな。刺突がメインか。刃が付いてるが魔物を両断するのは難しいな。魔術師にはいいのかもしれんなぁ。剣だけで魔物を倒そうとすると、このくらいの重さや身幅があったほうがいい」

 ゴドが自分のブロードソードを持たせてくれた。刃は鋭く切れ味が良さそうだ。


 円盾と剣の基本を教わると、組打ちをした。

 左半身に構え、盾ではらい押さえつけ、剣で切り裂き、受け止める。盾で間合いを見せないなど、興味深い戦い方だ。足払いや蹴りなどの格闘も混ぜるようだ。だが誰の剣もエルクには届かなかった。

「すごいなエルク。どう攻撃してもよけられる。剣と盾の扱いは素人だが、攻撃をよける速さはいい。魔物の中には毒を持っているものも多いから、相手の攻撃を見極めて避けるのも重要だ」

 ゴドの言葉に、トピが苦い顔をしている。


 最後の野営でトピがエルクに模擬戦を望んできた。ゴドを審判にならと受けた。


 軽く黙礼し、構えた。トピが鋭い目でこちらをにらんできたが、段々と表情が変わってきた。にらんだ目が見開かれ、汗をかき出した。「わぁー」という大声とともに打ち込んできた。


 トピの打ち込みは早く鋭いが、単調な攻撃一辺倒だった。エルクは打ちつけてくるトピの剣を、盾で払い、素早く動いてかわす。ことごとく受け止められ、かわされたトピは、顔を真っ赤にして、ムキになって攻撃してくる。

 トピが打ち込んでくる剣の速度が落ちてきた。肩で息をしている。

 正面から振り下ろしてくるのをいなされ、身体が伸び切ったところにエルクが体当たりをした。トピは倒れ、荒い息をして立ち上がれないようだった。


「エルクの勝ちだな。トピ、いつものおまえらしくない試合だった。どうした?」

 トピは荒い息をしてしゃがみこんだまま答えなかった。

「……もっと冷静に相手の出方を見ろ」

「ゴド! 遊んでないでちゃんと護衛をしろ。明日にはベルグンに着くからといってさぼるな! 料金分の仕事をしろ、まったく」

 横からオットーが声をかけてきた。ゴドはオットーをにらんだが、口にしたのは事務的な口調だった。

「……了解した」


 ヘリは、最初の村での演奏と踊りを翌朝に褒めると真っ赤になっていたが、それ以来笑顔で元気に話しかけてくるようになった。

 歩いているときも馬車の窓や戸から話しかけてくる。エルクは話せないことが多かったので、もっぱら聞き役に回った。


 オッシとマイヤは幼馴染で、そのころはいくつもの家族が一緒に行商と興行の旅をしていた。もともとは南方の遊牧民だったのが放浪に近い生活をするようになったらしい。トピはとても優しい兄で大好き、オッシの音楽は大好きで、マイヤの踊りも大好き、いつかマイヤのように踊れるようになりたいとのこと。

 いろいろなことを話してくれたが、どうやらエルクが自分のことを話したがらないのに気づいて、自分のことや周りのことを話してくれているようだ。聡い子だ。


 翌日の昼前にベルグンの街が見えてきた。

 土塁と丸太、厚板、石材、漆喰で作られた高い城壁、堀が巡らされ、門は跳ね橋になっている。大きな厚板の扉は開かれていた。ゴドが横を歩きながらベルグンの街について教えてくれた。

「ここはベルグン伯爵領の領都だ。中央にベルグン伯爵の館がある。俺たちも、オッシたちもここをホームにしている。ノルフェ王国東部ではここより大きい街は王都ぐらいだな。それぞれのギルドも大きな支部を置いているし、商館も多い」


 門は街に入る長い行列ができていた。農作物を運ぶ者は徒歩も荷馬車もあまり止められずに入れているようだ。領民なのだろう。街以外からの旅人、商人の馬車はそれぞれ列を作っていた。隊商は行列の最後尾に並んだ。


 ゴドが小声で言った。

「ジュストさんがいれば普通の手続きだが、オットーだと問題がある。くそ、やっぱり歩いていった。警備兵に鼻薬をきかせて、先に入れてもらおうってとこだろう。ジュストさんの評判が落ちるのをなんとも思ってない」

 警備兵が寄ってきて、隊商を先に通してくれた。順番を抜かされる他の商人たちは怒っていたが、警備兵には文句が言えないのか、こちらをにらみつけてくるだけだった。


 街の門を抜けると広場になっている。

 中央に剣の像があった。切先を天に向け拳に握られている像が建てられている。像の周りはきれいに清掃され、花が飾られていた。


 広場の周りは、石の土台に木材と漆喰壁の家が多い。ほとんどが二階建てだ。壁には薄く色がついていて二階はきれいな街並みだが、一階は土で汚れている。

 大通りは馬車が通りやすい石の舗装だが、脇道は土がむき出しで、ごみが目立つ通りもある。

 門をくぐってから、様々な匂いがきつくなった。料理の匂いに混じって、汗やぬれた毛皮の匂い、生ゴミや排泄物の匂いも交じる。


 多くの人と荷馬車が行き交いにぎやかな街だ。

 通りを歩く人々は、人間だけではなかった。猫や犬の耳、服の後ろからしっぽを出した人と行き交う。

「エルク、獣人を見るのは初めてか?」

 エルクがキョロキョロしているのを見て、横を歩くゴドが説明してくれた。

 猫人。犬人。耳の先が尖った長身の人々はエルフ。小柄でふくよかな人々はドワーフ。


 その人混みの中に額から角が生えている親子を見つけた。

「ああ、あれは魔族だな。中には嫌う国もあるが、魔力が多い種族だからな、ベルグンでは重宝されている。住んでる人数は多くない。ほかの国でもだな。魔王も長いこと現れてないしなぁ」

 親子は、互いに声を掛け合い笑っている。

 あの子も笑顔はあんなふうに可愛らしかったのだろうか?


 馬車は大きな通りを進み、馬車の絵に『ジュスト商会』と書かれた看板の家に入っていった。奥行きが深く、片側に事務所、その後ろに倉庫が続いているようだ。最後のマイヤの馬車が入ったところで、ゴドが声をかけてきた。

「ジュストさんはいないようだか、エルクの仕事はここまでだろう。俺たちはギルドから金を受け取るが、エルクはジュストさんから直接もらうことになる。だが、オットーと金の話をするのは止めておけ。後でジュストさんを訪ねたほうがいい」


 事務所から出てきた若い男と話しているオットーを見ながら、さらに助言をくれた。

「あいつに捕まって邪魔をされる前に冒険者ギルドに行った方がいい。ギルドは門の広場に建ってる。人に聞けばすぐに教えてくれるだろう。ギルドで登録してから狼を売るんだぞ。……くくくっ、あいつらの驚く顔が見れなくて残念だ」

「ゴドさん、悪い顔してますよ」

「ギルドでは舐められるなよ。子供だがエルクは強い。なにかあったら、俺の名前を出せ、いいな。さあ、行け」


 もう一度オットーを見るとこちらを指差しながら、なにごとか相手に耳打ちしていた。

 ゴドにうなずくと、ヘリとその横にいたトピに手を降り急ぎ足で商館を出た。


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